第6話 名医ザグロブの殺人診断

尋問官セレステッドを倒したという話を聞いたゲリラ達は、ザグロブの実力が如何ほどの物かを知るためにとある協力を要請される。

ひとまず、彼はどういう内容かについての話を聞く事した。

その内容というのは、中々にヘビーな物であった。


「アンタの実力を見込んで一つ頼みたい事があるの、装備の補給のためにとある番人の排除をしてほしいのよ」


もちろん、彼は自分の依頼とは別の事をやる気は当然なくその首を横に振るのだった。


「オイオイ、俺はあくまで国王とその側近をぶっ殺せと言われたんだ、革命ごっこは付き合わねぇぞ」


と言うがそれでもアイシャの瞳は光り輝いていて、そう簡単に断らせてくれそうにない雰囲気がプンプンしていたが、それ以上に彼が首を縦に振らざるを得ない条件を出してきたのだ。


「確かに、アンタは嫌がるかもしれないけど…残念ながら受けるしかないのよ。そこにはサイボーグ用のスケルトンベッドがあるから、今の貴方には絶対必要なものだと思うのだけれど?」


スケルトンベッド、その言葉を聞いたザグロブの動きが止まった。

どうやらその謎の装置があれば、セレステッドに無力化された自身の装備を修復できるようだ。

それにザグロブは脱出の際、あわよくばゲリラと合流して彼等を隠れ蓑にして行動をしようとしていたので恐らく何かしら活動の手伝いをさせられるのは確信してはいたので大人しく従う事にした。


「話だけは聞いてやる…」

「そう来ると思ったわ、じゃあ詳細を教えるわ…」


そして、アイシャからの詳細を聞く事となったのだった…


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アイシャから聞かされた話は何とも言えない情報であった。

というのもその補給物資の門番という男の名前はアダルベルト、気難し屋で脳以外すべてを改造したというサイボーグで、街の外にある放棄された小規模なガスコンビナートに隠れ住んでいたという。

そんな彼は、その類稀なサイボーグ用の装備開発能力を当初は国王と治安部隊の人間達のために使っていた…

しかし彼は国王をよく思わない人間達の取引によって治安部隊だけでなく、そんな反抗する者達にも供給された。

これがゲリラ宝石砕き《ダイヤクラッシャー》の発足秘話である。

もちろん彼がゲリラに武器類を与えていたという事実はすぐに国王達にバレ、すぐに部隊を送られた。

そして彼はたった一人で部隊に挑んだが、激闘の末偶然ガスの残留していたタンクが誘爆し、彼はそのまま炎に包まれた…


「というのがだいたいのあらましなんだけど、問題はその後なの。彼は爆風に巻き込まれた時にその額にタンクの破片が突き刺さって脳にまで達したらしいの、そのせいで彼はいつ死ぬのか不安に駆られて暴走して未だにあのコンビナートに引き籠もってるのよ」


アイシャは長々と語った後、その指を荒野の広がる街の外へと伸ばす。

そこには戦闘の後が未だに残る放棄されたガスコンビナートが見え、ザグロブとアイシャは高台からそこを見下ろしていた。

ここに、多くの武器と狂った番人が眠っているのだ。


「全く、借りがあるとは言えこの俺を扱き使いやがって…所でそのアダンベルトって奴は強いのか?」

「ええ、恐らく彼は死にたくない一心で体を更に強化してるはずよ。それにもう一つ懸念してるのは国王の部隊よ、彼もまたあそこの物資を狙ってるから三つ巴は覚悟した方がいいわね」

「…上等!楽しくなりそうだ!」


そう言いながら彼は崖からまるで我が家に足を踏み入れるように、そのまま落ちた。

気をつけの姿勢でコンビナートに真っ逆さまに落ちていく中、彼はすぐに手足を広げた。

するとその瞬間彼は予め着込んだウイングスーツが手と足の間に布が広がり、それが空気抵抗となって滑空しつつも降下スピードを大幅に落とした。


「フワッと着地」


そして彼は地面を転がって着地すると、無事コンビナートへと侵入する事に成功した。

そこはアイシャの言っていた通り、過去に凄まじい戦闘があったのを示唆する物がゴロゴロしていた。

損傷の激しい治安部隊の兵士のヘルメット、夥しい弾痕の跡、そして焼け焦げた跡…


「どうやら派手な火遊びをやったらしい…」


ザグロブは戦闘の後を見て楽しげな声で呟きながら周辺を見回すと、正面に大きく破損した建物を見つけ、そこを目指して歩いて行くのだった。


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それから彼はしばらく歩き、巨大な建物内へと侵入して辺りを見回す。

思っていたより破損が激しく、ここでかなり大きな爆発があったようだとザグロブは考える。

そして彼はアイシャの話を思い出し、何となくここでアダルベルトとという男が爆発に巻き込まれた現場なのではないかと推察した。


「そうか…ここはガスタンクか」


しかし肝心のアダルベルトはここにはおらず、ザグロブはその噂の暴走サイボーグと戦いたいのに発見できないことに段々と苛立ちを覚える。

段々萎えてきた彼は天井の上を見上げ、空いた穴から空を見ていた時だった。

壁に階段があるのを見つけたのだ。

彼はガスタンクの内部構造なんて全く知らないが、その高性能な義眼でその階段は鉄パイプや鉄筋等をワイヤーでガッチリ固めているのを見逃さなかった。


「…多分つい最近作られた奴だな?」


彼がその階段を目指そうとした時だった。


「貴様!何をしている!!」


背後から甲高い声で自身に叫んでくる声がしたので、ザグロブはゆっくりと振り向く。

彼は殺意や気配には人一倍敏感である事を自負していたがそれなのに気付かなかった事に内心驚きつつ、あえて余裕を見せる。


「…ほう、この俺の背後を取るなんてやるじゃねぇか。お前がアダ──」


彼の顔が完全に背後の人間に向いた時、その余裕たっぷりなセリフは途中で止まった。

そこにいたのは潜水服のように丸みを帯びた装甲を身に纏う異形の者だったのである。

しかもその装甲もよく見ると、治安部隊の装甲服や車両のドア、果てはどこから拾ってきたのか定かでない鍋などが無理やり溶接されていてほぼ原型を留めていない。

そして、アイシャの言葉通りかなり大きな破片が頭部の装甲を貫通して大きく破損していた。


「な、なんだって聞いてるんだ!!貴様…」

(…おいおい、こんなちんちくりんな奴を始末しろって?アイツら、自分らでここ制圧したら目立つから俺にやらせるつもりか?)


ザグロブはじっと鋼鉄の異形─アダルベルトを眺めていると、段々と相手の様子がおかしくなっていく。


「お、お前…ッ!!その目…その目が奴らに似ている…ッ」

「あぁ…?」


するとザグロブはアダルベルトから先程まで感じなかった殺意が徐々に漏れ出しているのを感じ、彼は警戒を強めるが既に遅かった。


「お、お前も、お前も俺の脳みそをぐちゃぐちゃにするつもりなんだろ…!!そうは、そうはさせるかぁッ!!」


すると彼は突然叫び出し、腕を前に出す。

その瞬間彼の腕は物凄い勢いでザグロブ目掛けて飛ぶように伸びたのである。


「うおっ!!」


勢いよく発射されたアダルベルトの腕をザグロブはブリッジするように体を後ろに倒して避け、更にその反動を活かすようにバク転して距離を取る。

その腕は彼には当たらなかったものの、威力は凄まじいらしく鋼鉄で出来ているガスタンクの内壁に穴を開けていた。


「…ようやく楽しくなりそうだ!」


彼は太股を軽く叩くとその部分の装甲がスライドし、中からオートマチック式の大きな拳銃が迫り出して来る。

これはゲリラ達から押収されたリボルバーの代わりに頂いた大型のマグナムで、その名をBFM.30《ビッグファッキングマグナム》という。

ザグロブはその名前をいたく気に入ったのである。


「まずは景気づけだぜ!!」


彼はその銃でしっかりと狙いを定めて引き金を引くと、まるでミサイルでも爆発したかのような爆音が鳴り響く。

そして見事弾は命中し、甲高い金属音を鳴らしながらアダルベルトは後ろヘと吹き飛んだ。

普通であればこれでどんな相手も粉々に出来そうな威力を発揮して喜ぶ所なのだが、ザグロブは舌打ちをする。


「チッ、あの野郎…」


何とアダルベルトの何層にも積み重なった装甲は予想よりも厚く、彼はまるでロボットのように足の力だけで起き上がったのだ。

更には弾丸は貫通せず潰れた物が地面へパラパラと落ちた事にもザグロブはショックを受けた。


「うう〜ッ!!頭に響くぅ…破片がぁ…!!」


彼は頭の破片を守るように呻くと、胸の装甲から何やら取り出してそれを地面へと叩き付ける。

すると叩き付けた物は瞬時に煙と閃光を発し、ザグロブの目を撹乱した。


「小賢しいぜッ!!」


彼は目が焼き付かないよう手で遮つつ、片手でマグナムを撃ち続けるが先程のような金属音はならなかった。

次第に煙が晴れると、先程までアダルベルトが立っていた場所に四角い穴と梯子があるのを発見した。


「…逃さねぇ!!」


ザグロブはまるで地獄の入口のようなその穴に飛び込み、すぐさまアダルベルトを追跡する。

すると、彼は妙に広い場所へと到着する。


「なんだ…ガスタンクの下に溶鉱炉!?」


彼はアダルベルトを探しつつ辺りをキョロキョロと見回すと、至る所に金属の廃材が雑に積み重なれているのを発見した。

そして、ここを爆発事故のあとアダルベルトが独力で作り上げた地下工作室か何かだとすぐに察知し、より一層警戒を強めながら見回していたその時。


「…うううッ!!」


ザグロブは横から呻き声を上げながらアダルベルトが体当たりをしてくるのを察知したものの、彼のその重量を活かしたタックルの前に大きく弾き飛ばされるのだった。


「こ、こいつ…なんてパワーッ!!」


そのまま柱を凹ませながら、ザグロブは溶鉱炉近くへと倒れ込む。

そして追い打ちを掛けるようにアダルベルトは腕を前に突き出して拳を発射する。

倒れた姿勢のままだったザグロブは避ける事が出来ず、その腹にモロに攻撃を受けてしまった。


「ぐうッ!!」


重量あるその拳を腹部の装甲に食らい悶絶するザグロブ。

彼の銃弾すら防ぐポリマー装甲は大きく割れ、人工血液の青い血が流れ始めた。


「脳みそォ〜ッ!!」


アダルベルトは再び拳を撃ち出そうとするが、流石にもう一度喰らうわけにはいかないとザグロブは距離を離すために闇雲にマグナムを撃った。


「ぬぎいい!!」


闇雲に撃ちつつも的確にアダルベルトの装甲に弾丸を当て続けてよろめかせ、少しずつ距離を離す中それは起こった。

偶然弾が跳弾し、彼の頭の破片に当たったのだ。


「ガアああっ!!?」

「…やっぱ頭か!!」


ザグロブはすぐに体勢を立て直し、アダルベルトへと組み付いた。

そして頭の破片を両腕で掴み、人工筋肉のパワーを最大限に発揮した!


「うおおおおぉッ!!脳治療してやるぜぇえええッ!!」


彼は叫びながら思いっ切りアダルベルトの頭に突き刺さった破片を引き抜き、大量の返り血を浴びた!


「ぎぎゃあああッ!!」


そのままアダルベルトは血を噴き出しながら大きく後退し、やがて自身が作り上げた溶鉱炉へと真っ逆さまに落ちた。

彼は頭から溶けた鉄に落ちた為、叫ぶこと無く沈んで行った。


「…ふ、ふぅっ。思ってたよりヤバかっ─」


ザグロブもまた、思ったよりも強かった相手にして疲弊してぶっ倒れた。

まさかこんな街に自分よりも強い相手が沢山いるとは思わなかった彼は、疲れつつもある思いが頭の中で浮かんでいた。


「この街に来て良かった…」


そう言いながら彼は目を閉じ、そのまましばしの休息を取るのだった。










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