第5話 動き出す予感

ザグロブの脱獄から翌日、治安部隊の基地であるタワーが甚大な被害を受けたという事実は街中を即座に駆け巡った。

しかし仮にも街の治安が脅かされたというのにも関わらず街の反応は冷ややかで、まるで事件そのものがなかったかの如く堕落しきった生活を送っていた…

そしてその頃、タワーとは別の場所でこの事態を重く見ている者達が集まっていた。


「まさかゲリラと殺し屋にいいようにされるとは、この国始まって初めての事かな」


陽光差し込めるその部屋は、まるで何処かの王室のような内装でこのならず者達が暮らす退廃的な街とは不釣り合いで何処となく不気味さを感じさせる。

そんな広い部屋で二人の男が何やら話し合っていた。


「は…しかし情報統制の方は既に。バルザックも現在治療と再改造を行い強化を行っております」

「S−ドローンの増産の方は?」

「尋問官モデルは破壊されましたがすぐに修理して現場入りさせております…」


窓からバレットタウンを眺める豪華な軍服を着た男に、淡々と報告を続ける男。

そんな報告している男もクロームシルバーと黒の差し色が入った装甲に身を包み、顔すらその装甲に覆われており、彼もまたサイボーグである事は誰の目にも明らかであった。

そして、街を眺める男は報告を聞き終えると深くため息を付いた。


「ふぅ〜ッ…それにしても、これで人民の心に反抗心が芽生えなければいいが…」

「いえ、人民は既に我々に逆らう気など持っておりませぬ…寧ろ反抗する者達へを疎ましく思っているでしょう。問題は…」

「あの殺し屋か…四六時中、狙いは私だよね?」

「はい、明らかに貴方を…である貴方を殺すよう依頼を受けているのは確実でございます」


国王と呼ばれた男はやはりかと言わんばかりに眉間を指で抑え、これからどうするかを考える。

すると、クロームシルバーのサイボーグはとある妙案を思い付いた。


「ならば現在再教育待ちの囚人共を使いましょう…治安部隊とは違い、彼等は自由になるためなら手段を選びませぬ…」


彼がその体を太陽の光できらびやかに輝せながら今後の計画を考案すると、国王はニコリと笑う。


「良い作戦だ、囚人達の更生にも大いに繋がるだろう」

「はっ、では早速…実行に移させて頂きます…」


装甲を輝かせながら、男は王室を後にする。

一方、国王はその頭にある疑問を浮かべながらその背中を見つめていた。


(はて…ザグロブ、何処かで聞いた名前だが…)


───────────────────────


一方その頃、地下の搬入口からゲリラ達と共に脱出を果たしたザグロブは何処となく農業が行われていそうな区画にある古い民家へ身を潜めていた。


「しっかし、今でも信じられねぇぜ。あんな歓楽街からちょいと離れた場所にこんな農耕区があるとはよ」


彼はというと、セレステッドの電撃によって破損した腕の火炎放射器やその他のユニットを修復しながら外の風景を楽し無用に眺めていた。

この街、バレットダイヤモンドシティについて少しだけ説明をしなければなるまい。

まずザグロブがバルザックと戦っていた場所は多くの娯楽施設が立ち並ぶ歓楽街で、基本的にここが一番人が多い場所である。

そして今ザグロブがいる場所は農耕区と呼ばれ、この街の食物を育てる為の広大な畑が一面に広がる土地であるのだが…


「えぇ、まぁ今は放棄されたから誰も寄り付かないわ」


ゲリラのボス、アイシャは悲しげな表情でその畑を眺めた。

農耕区と言う割には畑は荒れ果てており、土は乾き切ってひびだらけになっておりとてもここで食物が育つ気配はない。

どうやらこれにも理由があるようだ。


「この畑、最初は働き口がない元兵隊とか子供達がみんなで和気あいあいと食物を育ててたんだ。元々この街は行き場のない兵士や訳アリの奴らが集まって出来上がった街だからね…だから、どんなに嫌なヤツでも助け合ってお互いを支え合って暮らして来た…奴が来るまでは!」


彼女の表情は怒りに満ちていた。

何故そんなに怒るのかよく分からなかったザグロブであったが、黙って話を聞いてると段々とこの街に何が起こったのかが少しずつ分かって来た。

事の始まりは別の国の紛争地帯から男と銀色に光るサイボーグがやって来たのだという。

そして男…そう、今の国王はたちの悪い事に口が上手く、何より指導力が合ったのだ。

口車に乗るように人々は彼の言う事に従うと、ほぼほぼ難民キャンプだったその場所は、街と言っても差し支えない物へと変わっていった…

それからが問題だった。


「彼は街の発展と共に一部の人間を従えて、実質的な支配者となったの。そして、彼はこの街をダイヤモンドのように輝く街にすると言って、少しでも彼に異を唱える者は犯罪者としてあのタワーに収監され、再教育を受けるのよ…」

「再教育…?」

「二度と反抗しないよう、脳に制御チップを埋め込まれるの。抵抗しようにもあのセレステッドとかいう人間かサイボーグか検討もつかない得体のしれない奴がいるからすぐに無力化されるの」


なるほど、そういう仕組みだったのかとザグロブは納得する。

と言っても、そのセレステッドを破壊してしまったのでいまいちそこまで恐れるほどの事かと疑問に思っていたのだが。


「それにしてもアンタすげぇよ、セレステッドから逃げ出して俺達と合流できちまうんだから。バルザックとの戦いを見たアイシャが彼が欲しいと言った時はヒヤッとしたが、今なら彼女の気持ちがわかるぜ」


ゲリラの一員である男がザグロブへ賛辞の言葉を送ると彼は一言、


「逃げる?いや、ぶっ壊したぜ?」


と言い放つと、ゲリラ達はざわめいた。

どちらかというと、こいつ何言ってんだという困惑に近いざわめきなのだが。


「ぶっ壊したって…いや、でもそうでもしなきゃ脱出出来ないよな…マジで?」

「マジマジマジ」


まさかの事態にゲリラ達は一斉にどよめき、目の前にいる黒い殺し屋を見る目が変わって行く。

そして、誰よりもテンションが上がっていく人間が一人机を叩いてザグロブに詰めた。


「アンタ、ほんとにセレステッドを殺ったんだね!?」

「お、おう…俺はあんたらの言う国王とその関係者の抹殺を依頼されてるからな…」


ザグロブはサラッと自分の目的を話すと、それを聞いた彼女の目はキラキラと輝き、すぐさま周りの男達とボソボソと話を始める。


「彼ならアダルベルトを絶対始末できると思うんだけど…」

「しかし…相手は治安部隊からも放置された相手ですよ?」

「だが俺達は彼を手に入れる為に弾薬をかなり使っちまった…それにそろそろ武器も何とか増やさないといずれ俺達は…」


数分間、何かを相談しあっているとようやく話が纏まったのかアイシャが再びザグロブの前へと歩み寄って来た。


「さて…貴方の腕を見込んだ上でお願いするわ。私達にちょっと協力してもらうわよ」







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