第3話 感情のない尋問官
それから、ザグロブは抵抗する事もなく突如としてやって来た謎の兵士達に拘束されて装甲車へと強引に詰められた。
バルザックはというと顔の凄まじい痛みに暴れていて手が付けられず、テーザーガンのような物を撃ち込まれようやく動きを止めたかと思うと、兵士達が彼の顔に緑色の半透明のジェルを顔に塗って数人掛かりで救急車らしき大型の車両へと丁寧に運び込んでいた。
「おいおい、アイツも好き勝手やってたのに随分手厚いな?」
と減らず口を叩くと、兵士はザグロブの頭へマシンガンの銃床で殴り付けた。
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それから車で揺られる事二十分、装甲車が停車してザグロブは外へと叩き出されると、彼の目に凄い光景が飛び込んだ。
「ほう…」
彼の目の前に現れた物、それはまるで街全体を見下ろすかのようにそびえ立つ巨大な塔であった。
だが、実を言うとザグロブにとってこの塔を見るのはこれが初めてではない。
実は検問所や、街へと入った瞬間から何度もその目に入っていたのだが思っていたよりも早くこんな近くでお目に掛かるとは思ってもいなかった。
そして、兵士とザグロブはそのまま塔の中へと入った。
それからは流れ作業であった。
まず彼は隅々まで写真を撮られ、その後精密検査、その他様々な検査を嫌と言うほど行われ、ようやく終わったかと思いきや両腕に手錠を嵌められ、今度は狭い部屋へと叩き込まれたのである。
彼の正面には白い机と椅子と、騎士の甲冑のような出で立ちの兵士らしき者が座ってじっとザグロブを見つめていた。
「来ましたか、で。私は尋問官セレステッドです。早速尋問に取り掛かりましょう」
尋問官セレステッドと名乗った騎士のような兵士は、まるで機械翻訳のような緩急のない声で挨拶をする。
性別も分からないほどかなりの改造手術を受けているのは間違いない為、ひとまず彼として扱う事とする。
そして、まず最初の質問が始まった。
「貴方はこの国へ何の為に姿を現したのですか?」
「…観光だ」
もちろん、殺し屋である彼が観光などに来るはずがない。
これは嘘である事は明白だったが、セレステッドは気にする事なく次の質問を行う。
「では、何故バルザックに手を出したのでしょう。観光客とはいえこの街で騒ぎを、ましてやエリア管理者に危害を加えたという重大さを貴方は認識してますか?」
とセレステッドが聞くと、ザグロブはヘラヘラとしながら心にも無い返答を繰り出した。
「知らなかった、ちょっとした酒場の喧嘩感覚でやったら危うくチキンステーキにしちまう所だったんだわ」
と言い放った瞬間だった。
セレステッドは目にも止まらぬ速さでその人差し指をザグロブへ向けると、その指の先端が強い閃光を放った。
「うおおおおおおッ!?」
凄まじい電流がザグロブを襲った。
弾丸も挟撃も平気な顔だった彼ですら、唸り声を上げるほどの強い電力は、たちまち彼の体から黒煙を立ち昇らせた。
「この、野郎…」
彼は左腕の火炎放射器を起動させようとしたが、動く様子がない。
それを見透かすように、セレステッドは何をしたのかを淡々と説明し始める。
「ジャミングサンダーです。あなたのような野蛮なサイボーグはこのように電流を流し、装備を無力化しているのですよ…さて、次の質問です。貴方は何の目的でここに来たのでしょう」
再び彼は指先から稲妻を発射する。
もはや尋問は拷問となり、ザグロブが答えるまでそれは続いた…
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「…黙秘ですか、まぁ良いでしょう。ここまで耐えたのは貴方が初めてです」
それからというもの、ザグロブは三十分間電撃を流されて何とか耐え切った。
流石のザグロブも内部にダメージが及ぶ電撃を受けてるのはかなり応えたらしく、だいぶ辛そうではあるが再び姿勢を正してセレステッドに減らず口を叩く。
「へへっ、頑丈さだけが取り柄でな…」
セレステッドはそんなザグロブの言葉も聞かず、再び指を動かした時だった。
「ま、待て!答えるよ!ここに来た理由を!」
何と彼はもうこれ以上電撃を浴びたくない一心からか、慌てて彼に攻撃させないように制止したのである。
急に弱気になるザグロブであったが、セレステッドにはこれが好意的に感じたらしい。
「ようやく答える気になりましたか、それでいいのです。人民は素直であるべきですから」
すると彼はそれを素直に受け取り、その手を静かに下ろすのを見た瞬間、ザグロブの態度は激変した。
「…ハッ、これだから脳味噌も弄ってそうな奴はダメだ。何でもかんでも真に受けるからよぉ」
「…?」
ザグロブは語り続ける。
「俺が何も考え無しにあの木偶の坊にいきなり喧嘩を売ると思うか?俺は殺し屋だぜ…ここに入り込んだのも計算のうちよ!電撃拷問は計算外だがよ!!」
そして彼は何と先程電撃を受けてダメージを負っていたのにも関わらず体を勢い良く起こして立ち上がり、その手に嵌められた手錠を引き千切ったのである。
自由になった手を早速動かして、彼はセレステッドに指を指した。
「そう、あの木偶の坊は殺し損ねちまったが…お前も俺の殺しのリストに入ってんだ、今度は仕留めるぜ」
そんなザグロブからの挑戦を兼ねた挑発に対して、セレステッドは特に声を荒げたり感情を表に出す事無く冷静に、そして機械的な定型文のような言葉を彼へ告げる。
「治安部隊、及びBDCへの反逆罪と認定。対象の抹殺を開始します」
言い切ると同時に、彼は両腕を上げてザグロブへ再び電撃による攻撃を行った。
しかしザグロブはこれを壁に向かって飛び、更にその壁を蹴って電撃が壁に当たった事による火花を背に回避しつつ、セレステッドへ延髄斬りを炸裂させる。
「どうだッ!!」
渾身の力で延髄を蹴った衝撃は強く、セレステッドは机と椅子を破壊しつつ吹っ飛び、壁へと叩きつけられる。
だがそんな渾身の蹴りも感情も何もない化け物には通じなかったようだ。
「無駄な抵抗はやめなさい…」
セレステッドは倒れる事なく、そのまま猛烈な勢いでザグロブの首を掴もうとする。
そんな伸ばされた腕をザグロブは敢えて掴んだ。
電撃を流されるかもしれないのを承知で、彼はその腕をギュッと強く握り締めたのだ。
しかし、セレステッドは電撃を流さない。
恐らく対象との距離が近い、または掴まれてる状態で使うと自身にも通電するのだろう。
「これでその電気は使えねぇ!!」
ザグロブは狂気を孕んだ声色で言うと、勢いをつけて掴んだ腕を逆方向へ力を入れる。
例えサイボーグや機械でも、無理に可動域とは逆の方向へ強力な力を込めればどうなるか明白だった。
彼はそのまま勢いをつけ、力のままセレステッドの腕をへし折った!
「腕部、損傷…」
「まだまだッ!!」
今度は片腕を離し、その騎士の鉄仮面のような顔面にパンチを一発、更に一発、それから何度も拳をその顔に叩き込んだのである。
これには堪らず、感情や痛みを感じないであろう彼も大きくよろめかざるを得ない。
そして、よろめいた瞬間彼はトドメの一発をその体へ叩き込むための準備を始めた。
「二つ折りにしてやるぜッ!!」
そのまま彼はセレステッドの胴へ渾身のトラースキックを叩き込んだ。
渾身の蹴りはクリーンヒットし、胴体に穴を開け辺りに機械部品をぶち撒けた。
「致命的な…損傷…」
ザグロブは手応えを感じ、胴にめり込んだ足を引き抜くとその拍子にセレステッドは地面へと倒れ込み風穴から煙を吹いて動かなくなった。
これでまずは一人、彼が持ってるとされる殺しのリストの項目は達成される事となったのである。
「…やれやれ、何とか潜り込んだはいいが一人は殺しきれず、もう一人は装備をぶっ壊されて敵の本拠地のど真ん中か。ちょっと考えが浅かったか」
彼がそんな事を呟きながら、外へ出ようとした時だった。
「おっと、遅い到着だな」
どうやらこの部屋での一連のやり取りから不審がられ、何人かの兵士がザグロブのいる部屋へと到着したようだ。
そして部屋の様子を見た兵士は開口一番、驚愕の声を上げた。
「大変ですッ!セレステッド尋問官が…破壊されてますッ!」
「貴様〜ッ、バルザック隊長に手を出した挙げ句今度は我々の本拠で…一体何者だ!!」
兵士達は今にもその手に持った銃器をザグロブへ発射しそうな時、またもや事態が動く事になる出来事が起ころうとしていた。
「た、隊長…緊急無線が!」
「何ッ!どうしたッ!」
「げ、ゲリラの襲撃とのことです!!」
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