第30話 龍虎相対す

「もうすぐ文化祭だね氷華!」


「そだね」


なんやかんやと10月になった

もうすぐ文化祭だ


とはいってもゲーム中では1年生だったわけで出店や演劇などをすることはなく、ただ誰かと回るだけだった


それこそ1年前は恵と2人で文化祭を楽しみまくった


だが……


「ねぇ姫野さん!劇やりましょうよ劇!」

「いーや!姫野さんの美貌を生かすならやっぱりメイド喫茶だろ!」

「男共が見たいだけでしょ!」

「お前らだって見たいだろ!」


今年は2年生

1年前とは違いクラス単位で何かしなければならない


(まぁ今さら避けようとは思わねぇが…)


昔ならなんとしてでも主役や目立つことはやらないと言い張っただろうが今は違う


「私は…皆さんと出来るならなんでも嬉しいですよ」


「ピョエ……マブシイ……」


「…まーた安直にクラスメイト殺してる」


クラスメイトに笑顔を振り撒いていると横にいた恵から嫌味を言われた


「別にそんなつもりじゃ」


「そんなつもりじゃなくても現に死んでるでしょ、ほら」


「……確かに」


改めて見てみると声をかけてきた2人が立ったまま天を仰いでいた



「でもさぁ」



休み時間にクラスで戯れているとどこからともなく龍牙が現れた


「劇ってなったら…やっぱりアンタは姫様だよなぁ?」


「そうでしょうね」


「そしたら?王子役は誰がするんだろうなぁ」


無駄に大きな声で話す龍牙


(コイツ……!!)


「もちろんキスシーンなんかもあるかもなぁ」


「ちょっと龍牙、あんまり調子に……」


静かに聞いていた恵が立ち上がり反論しようとする



だが



「「「「姫野さん!!!」」」」


「はい!!?」


「「「「俺と一緒に劇をやろう!!」」」」


「……はぁ」



薄々こうなるとは分かっていた


体育祭の時と同じだ

この男、周りを焚き付けやがった


「おい離れろモブ男子ども!そんな簡単に氷姫の相手が務まると思わないでよ!!」


(キレるとこそこじゃねぇだろ!?)


恵が威勢良く返したかと思えば劇をやること自体に文句はないようだった


「このご時世!女が王子でもいいんだから!」


「「「「そーだそーだ!!」」」」


(恵は恵で女子を焚き付けやがった……)



いつの間にか劇をやること自体は確定してしまい、しかもキスシーンのおまけ付きだった


(とりあえずこの場から逃げるか)


俺のことなんか既に眼中にないクラスメイト達を放っておいて教室から出ていく


するとそこには昴が待ち構えていた


「なんともまた面白いことになったな」


「他人事だと思って…昴くんはやらないの?」


「やるわけないだろう演技なんてそんなもの」


「……へー」


「なんだその目は」


昴は少し可愛げがあってからかいたくなってしまう


(この堅物なら多少からかってもいいだろ)


「欲しくないんだ?私のファーストキス」


「な!??!??!」


「はい冗談でーす」


なんとも面白い顔が見れたので満足してトイレに向かう


帰ってきてみると昴が席に座ってずっと悶々としてたのが余計に面白くて更に笑ってしまった





「……なるほどねぇ?」





昼休み

いつものように恵と弁当を食べようとしていると……


「ちょっと付き合ってくれよ」


龍牙から突然声をかけられた


「私の氷華なんですけどぉ?」


「恵のじゃないよ…別にいいけどどこ行くの」


「いつものとこ」


「いいよ無視しときなって…どうせまた変なことされるだけだよ」


「しねぇよ!」


「嘘つけ!するだろ絶対!」


「まぁまぁ恵落ち着いて…もしされたらちゃんと報告するからさ」


「氷華がそう言うなら……」


「さっすが姫さん。話が分かるねぇ」



獣のように唸っている恵を置いてそのまま屋上まで連れてこられた


昼休みだってのに誰もいない


「それで?何のようですか?」


正直腹も減ってるので早めに済ませたいところ



「なぁ姫さんさ」


「はい」


「これなんだと思う?」


そう言われながら龍牙からスマホを見せられる

そこには……



『ずっっと勉強してるし!絵だってすごく上手だし!……かっこいいし!確かにちょっと変だけど優しいし!』


大声で恥ずかしいことを叫んでいる女性


『今日!ずっと私の隣に居てくれたし!』



そしてそれをなんとも言えない顔で聞かされている男性



「あの…どこでこれを……」


「いや?さっきたまたまな?SNSで拾ってきたんだよ」

「そしたらついでにもっと面白いもんも見つかってな、ほれ」


今度は動画ではなく写真


アニメのキャラのコスプレをしてるのであろう女性が写っていた



「……何が言いたいんですか?」


「いや?本当になにも?」

「別にこれを流したいわけでも、どうこうしたいって訳でもねぇんだよ」


「ただ、分かってるよな…って話」


(……まさかヤらせろとか言うのか?)


龍牙はそんなことはしない…そう思いたかったが恵がヤンデレみたいになった前例を思い出す


あり得ない話ではないのだ


(別にそれをバラまかれたくらいで否定すればいいだけ…簡単な話だ)


「というわけだ姫さん」


近づいてくる龍牙に蹴りをいれようと構える



「俺を…アンタのキスの相手に選んじゃくれねぇか?」


「……はい?」


「……だから、劇の話だよ」


「……だから意味が分からないんですが」


「分かるだろ普通…その……俺と一緒に主役をヤらねぇかって言ってんだよ」



(……まさかコイツ)



「もしかして…その為にキスシーンがある劇をしようなんて言い出したんですか?」


「…悪いかよ」


「…どっちかといえば悪いですが」


意外と可愛いところがあるじゃないか

そう思ってつい顔がにやけてしまう


「おい笑ってんじゃねぇよ!」


「いやwすいませんついww」


「この野郎……!!!」


怒った龍牙は体育祭の時と同じように壁ドンしてきた


「今ここで喰ってもいいんだぜ俺は……!」


「貴方にそんな度胸ないでしょ?」


「言ってくれるじゃねぇか!!」


そう、龍牙はこんなことは言ってるが必ず嫌がることはしない


昔のセフレ達もあちらから望んでそういう関係になっていたのだ


それはひとえに龍牙のセックスが目茶苦茶うまいってところにあるらしいんだが……


「テメエの唇奪うくらい俺にとっちゃ造作もねぇんだぞ……」


「私だって貴方の粗末なモノを蹴り飛ばすくらい造作もないんですよ?」


「…調子にのりやがってこの野郎!!」


龍牙の顔が近づき、俺もそれと同時に躱しながら蹴りをいれる準備を整えていた


そしてまさに蹴りが炸裂しようとした次の瞬間



ドッゴォォォォン!!!!



「「は?」」



なんとも似たシチュエーション


恵が隠れて聞いていてまた扉を蹴り破ったのかと、そう思っていたのだが…



「なに、してるのかな」



そこに現れたのは恵の何倍も大きくて、何倍も殺意の波動が洩れていた男



「それはこっちの台詞なんだけどな」

「……生徒会長様よ」

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