第29話 夏が終わり、新たな危険
「……それでですね!」
「……それでさ!」
「お願いだから片方ずつ喋って…」
怒涛の夏休みが終わり、また学園での生活が再開してしばらく経った
夏休み前と変わったことと言えば色々ある
まずは今の状況
「姉ちゃんはクラスでも話せるんだからいいでしょ!」
「はぁ?1分でも一緒にいたいの分かる?」
「はいはい喧嘩しない」
玲央と恵と一緒に登校するようになった
あの事件以降、恵は前よりも俺にベタベタするようになったが以前のように思い詰めるなんてことはなくなった
そして玲央も真っ正面から恵に歯向かうようになった
「どっちの話が聞きたいですか!?」
「どっちの話が聞きたいの!?」
「……両方聞くよ」
こんなやりとりが毎朝の様に行われるようになった
目茶苦茶うるさいがそれでも朝から元気が貰えた
変わったことと云えば他にもある
「姫野、この前話していた漫画だがな」
「え、なに新刊でたの?」
「なんと……アニメ化だ」
「ホント!?」
昴と普通に話すようになった
以前は勝負だなんだとうるさかったが今ではそんなことは言ってこない
こうして2人でふざけあえるくらいに仲良くなった
そしてもう1つ変わったこと
「ごめん姫野さん、ここなんだけど……」
「そこはですね…」
「姫野さーん、先生が呼んでるー」
「はい、今行きます」
皆が俺の事を「氷姫」と呼ばなくなったこと
体育祭の一件やクラスで俺が恵や昴と話す様子からなのだろうか、以前よりもフレンドリーになっていた
(ステータスに氷姫は書いてあるから、無くなった訳じゃないんだろうけど…)
正直今となっては必要なのかどうかも怪しい
この世界の生活にも慣れてきて、人との関わり方も分かってきた
玲央もあれだけ言えば無理矢理襲うなんて事はないだろうし、それこそ昴は問題ないだろう
(あー…でもまぁ痴漢イベの為には必要か)
なんて事を考えながら先生から頼まれた仕事をこなす
すると
「いつもありがとうねヒメちゃん」
「いえ、好きでやってることなので」
「そう?……なんだかヒメちゃん明るくなったね」
「…人は変わる生き物ですよ」
「そう、だね……」
思わず景虎に刺さる言葉を言ってしまった
「……あ、俺この後も仕事があったんだった!ごめんね引き留めて!」
「いえ、お気をつけて」
少し気まずそうにした景虎はそのままどこかへと去っていった
(……地雷踏んだだろうな)
南海景虎
ゲーム中やイラストの雰囲気から読み取れるように大柄な優男
その優しさに見合わぬ体格と明らかに何かをしていた筋肉
俺がゲームを始めたときは
(まぁ乙女ゲームだしそんなもんなんだろう)
と流していたが、しっかりと設定があった
進めていくうちに分かることだが景虎は中等部の頃は知らない者がいないほどの喧嘩屋だった
喧嘩に明け暮れ、悪い奴を見かけては殴り、蹴り、病院送りにしてきた
学園がそんな景虎を退学にしなかったのは、景虎が喧嘩を吹っ掛ける相手が揃って悪い奴だったから
彼なりの信念があっての行動で、助けた人達からも感謝されていたからだ
(そこら辺は…なんというかゲームらしい都合だよなぁ)
高等部に上がり、景虎は生徒会に入ることを決意する
ここまで景虎を見捨てなかった学園に恩返しをする為なのだと
慣れない仕事に切磋琢磨と取り組んでいた
(にしても…喧嘩してる時の景虎のスチルまじでカッコいいんだよなぁ…)
俺は昔から筋骨隆々な男が好きだった
勿論、性的な意味ではなく憧れや尊敬みたいなもんだ
(龍牙の自然な筋肉もいいがやっぱり景虎だよなぁ…)
頼まれた仕事を終え、下らない事を考えながら教室に戻るのだった
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