第9話 「龍に守られ、牙が刺さり」

最後の練習も終え、皆で明日の準備に向けてテントの設営や運営の最終確認などを行っていた


「うん、それはそこだね。そうそう…先生!ちょっといいですか?」


生徒会長でもある景虎がせわしなく動いている

ゲームの2年生だった頃はあんなに頼りなかったのに…

ルートに入らなくても立派になるんだなぁ


なんて下らないことを考えながら見ていると…


「…ねぇ氷姫?誰見てるの?」


さっきから隣にいる恵から声をかけられた


「別に、ただ忙しそうだなと思っただけ」


「……見てるじゃん」


「ごめんって…ほら恵、水あげる」


そうやって飲みかけのペットボトルを渡す


「いいの?…これ氷華のじゃ」


「いいの、恵も本気で練習頑張ってたし、これはその努力への報酬」


「…じゃ、じゃあ!もらっとく…えへへ…」


(ふむ…もう一押ししとくか)


緊張しながらも飲もうとする恵に耳打ちする


「間接キス…だね」


「!!???!?」

「ちょちょちょ!!はぁ!?どしたの!?」


珍しく慌て出す恵

なかなかのレアイベントだめっちゃ可愛い


「冗談だよ冗談」


「冗談で済まされることじゃ…」


「私もたまには言ってみたいの、恵にしか言えないんだからさ」


「わた、わたしにしか、…」

「ふふふふふふふーーーん???」


「ままままぁ?私にしか言えないなら??しょうがないなぁ!」


(ようやく知ってる恵になってきた)


定期的にこんなことをしなくてはいけなくなると思うと今から疲れてくる



その後も色んな場所を手伝ったり、チアの人達にダンスのコツを教えたりと色々していたのだが…



それはテントの設営を手伝っていた時だった



パイプ式で組み立てるといったなかなか年期の入ったテント


(買い換えた方が早そうだけどな)


と思いつつも組み立てていると


「……マジで氷姫って顔良いよね」

「うん……なのにこんなことも手伝ってくれるなんて…」


対面の女子生徒がこちらを見ながら作業をしていた


(知らねぇぞー…意外とこれ危ないんだか…)


そう考えていたのもつかの間


「あれ…うまくハマらない…んん?」


どうやら苦戦しているようだ

しかしそんな風に無茶にやると…


「お、でき…おわぁ!?」


パイプの一部が外れて女子生徒めがけて垂れ下がってきた


(だと思ったよ!!こんちくしょうが!)


既に行動は起こしていた

すぐさま女子生徒を突き放し、垂れてきたパイプを腕でガードする


「いった…」


(覚悟してたが流石にそこそこ痛いな)


「す、すいません!…ってあぶないっ!!」


(…マジ?)


直前まで無理して組み立てようとしていたのも相まってテントの足自体がそもそも傾いていた


そこに俺が勢いで突っ込んだせいで更にバランスが崩れ、しかもその直後に吹いた謎の強風により耐えられなくなったテントは俺に向かって倒れてきた


(あ、無理だ)


恐らくは頑張れば避けられただろう

氷姫のスペックならなんとか

ただそれよりも先に俺が諦めてしまった


そしてそれと同時に…


(なんかすっごい見覚えあるような!!)


そんな思いを抱えつつ、テントの下敷きになるのだった







(あークソ…まさか死んだか?)


気がつくとよくわからない空間にいた


(結構楽しかったんだけどなぁ…)

(チアとかどうなんだろう…てかまぁそもそも中止か)

(申し訳ねぇなぁ…)


「おい………」


(あ?)


どこからか声がする


「いつまで寝てんだ………」


(あーそういう展開ね思い出したわ)


これは龍牙の個別イベント

「龍に守られ、牙が刺さり」


ゲームでもテントが倒れる事故に巻き込まれる展開があり、それをどこからともなく飛んできた龍牙が主人公を助けるのだ


しかし、主人公はショックで気を失ってしまい

保健室で龍牙に付きっきりで看病される


そして龍牙は主人公が寝ているその隙をついて


(っとまぁそこは氷姫があるから関係ないか)


どこまで効力を発揮するのか謎だがな


(あそこの何をしたのかを問いただす場面いいんだよなー…結局何をしたかはプレイヤーの想像に任せられるんだけど…)


(さて、んじゃとっとと起きますか………)



そう思い、覚醒の準備をする



(…まてよ)



そして理解する



(つまり、今、龍牙がいるんだよな)



過去最大級にヤバイ状況であることを



(今起きちゃったらマズイよなぁ!?)




しかし、その事に気付いた時にはもう遅く

次の瞬間には…







「やっと起きたか…心配させやがって」


「…すいません」

(まずいまずいまずい!)


「痛いとことかないか?今のうちに言っといた方が…」


「いや、えっと、その……」

(やめて!そんなに優しくしないで!)


「…どうしたんだ?やっぱどっか痛むのか?」


「ちょっ……!?」

(だからぁ!近づかないでよ!!)




この過去最大級にヤバイ状況で「私」は

とんでもなくドキドキしてしまっていた

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