第7話 楽しい練習と危ない授業

「そこ、曲をしっかり聞いて」


「は、はい!」


「あとそこの貴女、余所見しすぎ。本番ではもっと大勢の前でやるのよ。今から慣れておきなさい」


「…すみません!」


練習が始まって一週間が経った

やると決めたからには本気でやるのが俺流だ

本人達からのビシバシしごいてくれという要望もあるので、こうして厳しく指導しているわけだ


ギャラリーも当初よりかなり少なくなった

俺が指導役にまわり、踊ることが少なくなったからだろう


「俺も怒られてぇ…」

「わかる…あの冷たいけど思いやりのある目を向けられてぇよな…」


まだ一定数のモノ好きはいるみたいだが




「…昼休みの練習はここまで、各自しっかりと水分を取って授業に臨むこと」


「はい!ありがとうございました!」


強豪校かってくらい気合いが入っている

これなら本番も俺達の勝利は決まったようなものだな


(さて…俺は俺でやることやらなきゃな)


更衣室へと帰っていくメンバーを見送りながら一人残って動画とにらめっこする


(…ここはもっと簡略化しないとダメだな)

(男時代の俺でも出来るような感じで…体の感覚がよく思い出せねぇな)


昼休みの練習は早めに切り上げるようにしている。理由としては授業に支障が出ても困るから

…というのと一人で反省会をしているからだ


皆は俺のパフォーマンスを参考にしているが、それは体力&センスがカンストしてるからこそなせる技である


普通のモブには厳しいものがある

だからこうしてその日の練習の様子から脳内でシュミレーションをし、放課後の練習で修正案を出し、みんなに合ったチアを練り上げている


俺だって手を抜きたいわけではない

3年生の思い出を、青春を託されたのだ


やれるだけのことはやりたかった


(もっとこう…タッターンって感じか?)


脳内だけでは物足りず、ついつい体が動いてしまう

その時、どこかから視線を感じた


(…まだ誰かいたのか)


時計を見ると授業も始まる直前

ギャラリーは帰ったと思っていたのだが…


しかし、振り返っても誰もいない


(まぁいいか…ってヤベ!時間ギリギリじゃねぇか!)


思わず熱中してしまい漸く気付いた

すぐさまスマホを片付け更衣室に向かい、一瞬で着替え、なんとか授業には間に合わせた



のだが!!!



(マズイ!!ねっっっむい!!)


急激な眠気

そしてそれは生理現象によるものではなく…


このゲームのイベントでもある「居眠り」

体力が一定以下の場合に確率で発生するものだ


さっきまで練習していたことに加え、教室に帰ってくるまでにかなり急いだ


おかげさまでまともに休めていない

いくら体力カンストといえど連日の練習続きで一定ラインを下回っていたのだ



とはいってもこのイベント自体はその授業で学力が上がらないというものと龍牙ルートが進めやすくなるためだけのもの


だからカンストの俺には問題はないのだが…



(あーこれ駄目だぁ!気合いとかじゃねぇ!ねむ…す、)





「で、あるからして…」


「せんせーい…氷姫が眠ってるんで…」


「…あら珍しいわね、というか始めて見た」


「最近頑張ってくれてるんですよ…チアのこととか、色々と」


「そうね…よし今日は自習にしましょうか」


「「「「はーーーい」」」」


氷姫が眠りにつくなんてレアイベントをクラスメイトが邪魔するなんて出来るわけもなく


「氷姫の居眠り記念日」として

こっそりと語られ続けるのだった






キーンコーンカーンコーン


(………ハッ!?)


結局最後まで眠っていたようだ


(どうしよう…完全にやらかした…)


いつの間にか授業は終わっており、周りを確認しても誰もこっちを見てきていない


(バレては…ないのかな)


念のために恵に聞いてみる


「ねぇ恵……何もなかった、よね?」


「…うん!なにもなかったね!」


どうやら何もなかったらしい

…まぁ嘘っぽいんだけど


恵にはバレているのはいいとして、他のクラスメイト達が話している様子もない


普段なら大騒ぎだろうから、ひとまずは安心…


(…じゃねぇな)


ふと目線を教室の端っこにやる


そこにはニヤニヤした顔でこちらを見る龍牙がいた


(よりにもよってテメエにバレたのかよ…)


バレていたものは仕方がないと、

なんとか気持ちを切り替えて、次の授業に向けての準備を始めるのだった

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