第57話 元仲間と戦うようです。



『ところで――アリスの死体は、どこにやったんだ?』


 巧美はルシファーに問いかける。アリスが彩のように生き残ったと思っていないのだ。だが、辺りにはアリスの死体が存在しない。ルシファーが何かしらの処理をしたのだろう、と巧美は考える。


『はっ! いいだろう。会わせてやる・・・・・・!』


『……? 何を言って――ッ!』


 ルシファーの言葉に怪訝そうな表情を浮かべた巧美だったが、突如として飛来してきた火属性魔法・・・・・を慌てて避ける。


『……おいおい、どうなってんだ?』


 魔法が飛来してきた方向を巧美が確認すると、そこにはアリスの姿が。


『まさか、精神操作? ……いや、違う! ルシファー! アリスに、何をしたッ!?』


 巧美の見る限り、アリスは間違いなく死んでいる・・・・・。だが現に、アリスはそこに立っており、巧美に対して魔法を放ったのだ。


『フハハハッ! 良い表情を見せるじゃないかッ! こいつの死体を、俺が無理やり眷属・・にしただけさ!』


『死体を弄るなんて、どうかしてるぞ……!』


 巧美はルシファーに対して憎しみを露わにする。


 当然だ。アリスは、短期間とはいえ、間違いなく巧美の仲間だったのだ。その仲間を殺され、あまつさえその死体を良いように利用されるなんて……。


 あまりの激情に、巧美はその目に涙を浮かべた。


『……ごめん、アリス。俺の力では、君を蘇らせることはできない。でもせめて、この手でしっかりと、葬ってやるッ!』


 そう言い切った巧美の眼には、未だ涙はあるものの、強い決意が現れていた。


『フハハッ! やれるもんならやってみろ! ――"奴を攻撃せよ"』


 ルシファーの命令に従い、アリスは魔法を準備し始める。


『チッ! させねぇよ!』


 巧美はその魔法を潰すべく、アリスへと急接近した。


 その想像以上の巧美のスピードに、ルシファーは一瞬瞠目する。


 そしてルシファーは気づいた。自身の"領域"が、巧美の神力によって浸食されている・・・・・・・ことを。


 そしてルシファーの意識が逸れているうちに、巧美はアリスに接近することができたのだが――


「……クソっ」


 その刃が僅かに鈍る。


『ハッ! 甘いなァ――ッ!』


 そしてその隙に、ルシファーは巧美とアリスの間に入り込み、攻撃を弾いた。


 攻撃を弾かれ、巧美が体勢を僅かに崩した瞬間、アリスの魔法が放たれる。


「……ッ!」


 なんとか巧美のガードが間に合ったものの、その衝撃で、巧美はボス部屋の壁へと叩きつけられた。


『おいおい、口ではあんなことを言っておきながら、この体たらくか? お前今、攻撃を躊躇しただろ?』


 巧美は図星をつかれたような反応を見せ、悔し気な表情を見せた。


 だがアリスは、そんな巧美の様子は気にも留めず、攻撃を続ける。その無機質さは、アリスの意思がすでに存在しないことを示していた。


 息が詰まるような猛攻。


 アリスの魔法と、ルシファーの格闘に、巧美は防戦一方に追い込まれていた。


 巧美は致命傷こそ受けていないものの、着実にダメージは蓄積されていく。


「……っ」


 ふらり、と巧美がたららを踏む。


 巧美は息を切らし、誰がどう見ても満身創痍だった。



『これでしまいだ――ッ!』



 ルシファーは巧美の首を貫かんと、手刀を放つ。


 そして巧美は、それを防ぐことはできず――


 ――取ったッ!


 ルシファーはそう確信した。



 だが、その手刀が首を穿つ寸前。



『――"領域"』



『なっ――!?』



 ルシファーの右腕が宙を舞う。



 続いて巧美は光剣を放ち、アリスを貫いた。



『形勢逆転だな? ルシファー』



『――ありえない、ありえない! なんだその神力の量はッ!?』



 巧美はその問いには答えず、目線を空中へ・・・ずらした。



『さぁ、第2ラウンドと行こうか――ッ!』



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