第56話 リベンジが始まるようです。



 俺が死んだから、もうこれで俺の舞台人生は幕切れになるのか?


 いやいや、そんなことはない。


 この世界において死は、絶対的な終わりではない。


 人に限らず魔物だってそうだ。


 ダンジョン内で死んだ人間は生き返るし、ダンジョン外で死んだ魔物も生き返る。



 ――これまでずっと俺は、一度も殺されたことはなかった。



 もちろん、自殺だってしたことはない。


 だからこそ、だろう。


 ここまで気づくことが遅くなったのは。



 さぁ――舞台は整った。



 ……いざ、ショータイム。









 悪魔の迷宮の最下層にて。



『クソクソクソクソクソクソ――ッ!』


 ルシファーは苛立ちを隠すことなく、迷宮の壁を強打していた。


『なぜ俺はあんなにも悠長なことを……ッ! 必ず、あの時、殺し切るべきだったッ!』


 ルシファーは部屋の隅に目をやり、ため息をつく。


『はぁ……結局俺も、都合のいい駒に過ぎなかったってわけか』



 その時、ルシファーはとある気配を察知した。


『ッ! フハハハハハッ! お早いお帰り・・・じゃないか! ……さぁ、来い。次は必ず、その息の根を止めてやる』



 そしてついに――その時は訪れた。



『――よぉ、ルシファー。その首、貰いに来たぞ』



『はっ! やれるもんならやってみろ! 3人であっても、手も足も出なかったくせに、よく吠えるッ!』



 すでにルシファーには、遊び・・が存在しなかった。最初から本気で、巧美を殺しにかかる。



『――"領域"ッ!』



 ルシファーは神力を用い、固有の結界を発動させた。


 これで、この空間の支配者はルシファーだ。


 そしてルシファーは、巧美の動きを封じ、その魂を破壊せんと動く。



(どうやって前回、脱出できたのかは知らねぇが、そんな隙も与えてやらねぇよッ!)



 そして巧美は、そのルシファーの攻撃に成すすべなく殺される……はずだった。



『――何ッ!?』



 なんと巧美は、ルシファーの呪縛から逃れ、攻撃を弾いたのだ。



「なるほど、こんな感じか……」


『貴様、一体どうやってッ!』


 否、ルシファーは理解している。


 神力に対抗できるのは、神力だけ。


 そうつまり……


『お前と同じように神力を使っただけだ』


 ありえない。ルシファーの脳内はその一言に埋め尽くされた。


 ――この短期間で、存在も把握していなかった神力を、俺に対抗できるほどに扱えるだと?



「そう……簡単な話だったんだ。なぜ俺は、光属性のみに適性があったのか」


 普通は多少なりとも、他の属性の魔法だって使えるものだ。



「なぜ俺は、人よりも魔力の吸収量が多かったのか」


 わずか1年でSランクハンターにまで成長した、巧美の魔力吸収速度は確かに異常だ。



「なぜ俺は、地上から竜の迷宮・・・・、第1階層へ転移することができたのか」


 巧美が思い返すのは、沖縄でスタンピードが起きた際のこと。


 地上でアクアドラゴンを殺した後、急いで竜の迷宮、第1階層へ向かおうとした際、何かが割れた音とともに、巧美はその第1階層へと転移していた。


 ……そして巧美が後から気づいたのだが、なぜか持っていた転移玉が壊れていたのだ。


 これまで巧美は、転移玉をケチって、素直にダンジョン攻略をしていた。そのため、そこが初めて転移玉を使ったタイミングだったが――転移玉に、地上から転移する能力なんて確認されていない。



 この時に学者――戌亥が立てた仮説。これを証明するための最後のピース――それが先ほど巧美の手に揃った。



「――そして、なぜ俺は、地上で・・・自殺したのに、悪魔の迷宮第1階層にて蘇生したのか」



 ――ああ、もう言い逃れはできない。





「――俺は、ずっと、人間ではなかった・・・・・・・・んだ」





 魔物が扱える属性は1つに限られている。


 また、逸脱種のように、魔物が魔物を殺すと、人が魔物を殺すよりもはるかに効率よく魔力を吸収する。


 ここからは巧美の仮説だ。


 おそらくだが――魔物が生まれたダンジョン。そのダンジョン・・・・・・・で生まれた他の魔物を殺すことで、観測史上、最大効率で魔力を吸収できるのだろう。


 これまで見てきた逸脱種がそうだったように。


 そして悪魔の迷宮の攻略を始めてから、魔力の吸収量が飛躍的に上がった、巧美がそうだったように。


 前例はないが、逸脱種がもし、別のダンジョン・・・・・・・に潜って魔物を殺せば、もう少し低い吸収率になるのではないだろうか……?



 ――まぁ、そんなこと、今はどうでもいいか。



『俺はお前と同じ、このダンジョンで生まれた魔物だったんだろう? ルシファー』



『……ハッ、自分が人間だと勘違いしていたのか。こりゃ滑稽だ……だが聞き捨てならねぇな。誰がお前と同じだって――?』



 そこでルシファーは嚇怒した。



『ふざけるなッ! 同じなわけないだろう!? お前は自由に生活できるにもかかわらず、俺はずっとこの迷宮から離れることができなかったんだッ! 何もかも違うんだよ、俺とお前はッ!』



 そこまで言い切って、ルシファーは肩で息をした。



『だが、お前を殺せば、俺は晴れて自由の身になる。そういう契約なんだ。だから――さっさとくたばれ、



『いや、ここで死ぬのはお前だ、ルシファー』



 かくして、巧美のリベンジは幕を開けたのだ。



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