第56話 リベンジが始まるようです。
俺が死んだから、もうこれで俺の
いやいや、そんなことはない。
この世界において死は、絶対的な終わりではない。
人に限らず魔物だってそうだ。
ダンジョン内で死んだ人間は生き返るし、ダンジョン外で死んだ魔物も生き返る。
――これまでずっと俺は、一度も殺されたことはなかった。
もちろん、自殺だってしたことはない。
だからこそ、だろう。
ここまで気づくことが遅くなったのは。
さぁ――舞台は整った。
……いざ、ショータイム。
◇
悪魔の迷宮の最下層にて。
『クソクソクソクソクソクソ――ッ!』
ルシファーは苛立ちを隠すことなく、迷宮の壁を強打していた。
『なぜ俺はあんなにも悠長なことを……ッ! 必ず、あの時、殺し切るべきだったッ!』
ルシファーは部屋の隅に目をやり、ため息をつく。
『はぁ……結局俺も、都合のいい駒に過ぎなかったってわけか』
その時、ルシファーはとある気配を察知した。
『ッ! フハハハハハッ! お早い
そしてついに――その時は訪れた。
『――よぉ、ルシファー。その首、貰いに来たぞ』
『はっ! やれるもんならやってみろ! 3人であっても、手も足も出なかったくせに、よく吠えるッ!』
すでにルシファーには、
『――"領域"ッ!』
ルシファーは神力を用い、固有の結界を発動させた。
これで、この空間の支配者はルシファーだ。
そしてルシファーは、巧美の動きを封じ、その魂を破壊せんと動く。
(どうやって前回、脱出できたのかは知らねぇが、そんな隙も与えてやらねぇよッ!)
そして巧美は、そのルシファーの攻撃に成すすべなく殺される……はずだった。
『――何ッ!?』
なんと巧美は、ルシファーの呪縛から逃れ、攻撃を弾いたのだ。
「なるほど、こんな感じか……」
『貴様、一体どうやってッ!』
否、ルシファーは理解している。
神力に対抗できるのは、神力だけ。
そうつまり……
『お前と同じように神力を使っただけだ』
ありえない。ルシファーの脳内はその一言に埋め尽くされた。
――この短期間で、存在も把握していなかった神力を、俺に対抗できるほどに扱えるだと?
「そう……簡単な話だったんだ。なぜ俺は、光属性のみに適性があったのか」
普通は多少なりとも、他の属性の魔法だって使えるものだ。
「なぜ俺は、人よりも魔力の吸収量が多かったのか」
わずか1年でSランクハンターにまで成長した、巧美の魔力吸収速度は確かに異常だ。
「なぜ俺は、地上から
巧美が思い返すのは、沖縄でスタンピードが起きた際のこと。
地上でアクアドラゴンを殺した後、急いで竜の迷宮、第1階層へ向かおうとした際、何かが割れた音とともに、巧美はその第1階層へと転移していた。
……そして巧美が後から気づいたのだが、なぜか持っていた転移玉が壊れていたのだ。
これまで巧美は、転移玉をケチって、素直にダンジョン攻略をしていた。そのため、そこが初めて転移玉を使ったタイミングだったが――転移玉に、地上から転移する能力なんて確認されていない。
この時に学者――戌亥が立てた仮説。これを証明するための最後のピース――それが先ほど巧美の手に揃った。
「――そして、なぜ俺は、
――ああ、もう言い逃れはできない。
「――俺は、ずっと、
魔物が扱える属性は1つに限られている。
また、逸脱種のように、魔物が魔物を殺すと、人が魔物を殺すよりもはるかに効率よく魔力を吸収する。
ここからは巧美の仮説だ。
おそらくだが――魔物が生まれたダンジョン。
これまで見てきた逸脱種がそうだったように。
そして悪魔の迷宮の攻略を始めてから、魔力の吸収量が飛躍的に上がった、巧美がそうだったように。
前例はないが、逸脱種がもし、
――まぁ、そんなこと、今はどうでもいいか。
『俺はお前と同じ、このダンジョンで生まれた魔物だったんだろう? ルシファー』
『……ハッ、自分が人間だと勘違いしていたのか。こりゃ滑稽だ……だが聞き捨てならねぇな。誰がお前と同じだって――?』
そこでルシファーは嚇怒した。
『ふざけるなッ! 同じなわけないだろう!? お前は自由に生活できるにもかかわらず、俺はずっとこの迷宮から離れることができなかったんだッ! 何もかも違うんだよ、俺とお前はッ!』
そこまで言い切って、ルシファーは肩で息をした。
『だが、お前を殺せば、俺は晴れて自由の身になる。そういう契約なんだ。だから――さっさとくたばれ、
『いや、ここで死ぬのはお前だ、ルシファー』
かくして、巧美のリベンジは幕を開けたのだ。
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