第54話 覚悟を決めたようです。



 少しさびれた、とある神社にて。


「やあ! はっ!」


 小さな子供が、木の棒を振り回していた。必死に振り回す様子は、まるで誰かと戦っているようで、それでいて楽しげだった。


「――今度は何やってるの? 


「あ、狐さん! こんにちは!」


「こんにちは。挨拶できて偉いね~」


 "狐さん"と呼ばれた中性的な人物は、孫をかわいがるように巧の頭をなでる。


「あのね! 侍はカッコいいんだよ! おれも大きくなったら侍をやる・・・・!」


「ふふっ、侍映画でも見たのかい? この前、初めて会った時はガンマンになるって言っていたじゃないか」


 "狐さん"に笑われた巧は、むっと頬を膨らませる。


「でも、そうだね。巧なら侍にも、ガンマンにもなれるよ。敵をばったばったと倒せるような、ね」


「ううん、倒せるだけじゃダメだよ。ちゃんと演技もできないと」


 そんな反論をされるとは思っていなかったのか、"狐さん"はきょとんとした顔になる。


「……そうか、巧はアクション俳優になりたいんだね」


「うん! でもそのためには、まずおれが強くならなきゃ」


「ふふっ、やっぱり巧は面白いね?」


「そう? あ! それより、またあれ・・を見せてよ! 種は持ってきたから!」


「しょうがないなぁ」


 "狐さん"は巧から種を受け取り、地面に埋めた。


 そして巧はしゃがみ込み、その種が埋められた場所をじっと見つめる。


「それじゃあ、行くよ?」


 巧がこくこくと頷いたのを確認した"狐さん"がそこに手をかざすと、あっという間に発芽し、花を作った。


「わぁっ! すごい!」


「ふふっ、頑張れば巧も、似たようなことができるようになるよ」


「え! ほんと!?」


「ああ、本当だとも。ただ、今の巧だと格が低いから、あまり高度なことはできないんだ。信仰も足りないしね」


「んー、よく分かんない!」


「ふふっ、ごめんね。難しかったね」


 そこで"狐さん"は思案顔を浮かべ、何を思ったのか笑みをみせた。



「――きっといつか、巧はこの力を使えるようになる。いや、使えるように、私が環境を整える」



 "狐さん"は巧の頭に手を当てた。



「巧には期待しているからね。――いつかまた、会える日を楽しみにしているよ」



「何を言っているの? 狐、さ……ん?」



 巧は誰もいない・・・・・周囲を見渡し、首をかしげる。



「……狐さんって誰だっけ? まぁ、いっか」



 巧はそのことを気にせず、また木の棒を振り始めた。



 それから少し時間が過ぎてから。


「――君が鈴木巧君か?」


 ある男が巧のいる神社を訪れた。


「ん? おっちゃん誰?」


「おっちゃんって……まだ20代なんだがなぁ。そうか、おっちゃんか……」


 男はため息をつくと、改めて巧に向き直った。


「俺は荒河武雄だ。今日から巧君の師匠になる。よろしくな」









「……ここは?」


 気が付くと、俺はどうやら病室にいるらしい。


「何が……ッ! そうだ、彩! 彩はどうなったんだ!?」


「――落ち着いてください、荒河さん」


 はっと声のした方を振り向くと、そこには協会職員のマイケルがいた。そしてその隣にはナースらしき女性がいる。


「まず最初に、西園寺さんの命に別状はありません」


「それは本当か!?」


「ええ、嘘をつく理由なんてありませんよ」


「そうか……良かった」


 彩が生きている。その知らせを聞いた俺は安心したのか、涙が流れてきた。


 全くもって現状が把握できていないが……彩が生きているならそれでいい。


 深呼吸をして気持ちを落ち着かせた俺は、妙な感覚を抱いた。これは……そういうこと・・・・・・か?


「――もしかして彩は、ここから30mほど向こうで、今も眠ったままか?」


 俺が指をさしながらそう言うと、マイケルは目を見開いた。


「Sランクハンターの気配察知能力は素晴らしいですね。ええ、その通りです」


「そうか……」


 いや、これは断じてそのような能力ではない。もっと直接的な、俺と彩を結ぶつながり・・・・を感じる。


『――お体に痛みや違和感はございますか?』


 そこでナースさんから声をかけられた。それに従い、俺は身体を確かめる。


『問題ありません』


『それは何よりです。ただ、今日1日は安静になさってくださいね』


『分かりました』


 俺がそう答えると、ナースさんは退出していった。


「そろそろお話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか? あのボス戦で、一体何があったのですか? なぜ、あなた達2人だけ・・・・が、第1階層で倒れていたのですか?」


「……待ってくれ。アリスは一緒じゃなかったのか?」


「ええ。突然配信が切れて、何かあったのかと心配して悪魔の迷宮に向かうと、第1階層に荒河さんと西園寺さんだけが倒れていたのです。それを発見したのが……4時間ほど前となります」


「そうか、ありがとう。ただ……正直、俺もまだ理解が及んでいない。少し、頭の中を整理する時間をくれ」


「……承知しました。それではまた、明日の朝に伺います」


「ああ、すまん。そうしてくれ」



 マイケルが退出したのを見送ると、俺は頭を抱えた。



「ああ、クソ。色々訳が分からねぇし、何より情報が足りねぇ!」



 ふと、洗面台に付いている鏡が目に入った。


 そこには日本人の男の姿ではなく、金髪碧眼の美少女が映っている。ふむ、いつも通り、天使のような可愛さだな。いや、若干神々しさが増したか……?



「はぁ、現実逃避はよくないな……」



 薄々分かってはいるんだ。だが、それを証明する手立てが……


「……あるにはあるか」



 全く気は乗らないが――覚悟決めるか。



 頭をよぎるのは、ルシファーの圧倒的な力――"神力"。魂の攻撃という、恐らくダンジョンシステムから逸脱しているその力に対抗するには――



「俺も使えるようになるしかないよな」



 首洗って待ってろよ、ルシファー。



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