第52話 最高到達点たる第70階層へ到達したようです。



 アリスと共闘を始めて一週間後。俺たちはついに、第70階層へと向かうことになった。


『この先出てくる魔物は、ここまでの魔物とは比較にならないほど強力です。前にお伝えしたように、私たちのギルドはその魔物を攻略することが出来ませんでした』


「――――」


 俺はそのアリスの言葉を日本語に訳す。


〈どんな魔物が出てくるんだ!?〉

〈あのアリスのギルドが無理ってヤバいな〉

〈数の暴力で解決できんかったんかな?〉


『その魔物の特徴を詳しく教えてくれ』


『もちろんよ。その魔物と戦うには、一定の魔力量が不可欠です。その基準に満たない魔力量のハンターは、そもそも戦うことすらできないのです』


 日本語に訳したのち、さらに質問をする。


『基準に満たなければどうなる?』


『毒や麻痺といった状態異常になり、放っておくと1分足らずで死に至ります。光魔法による防御をすることで、少しは耐えられるのですが、攻撃が無効化されるので、相手を倒すことはできません。現状、状態異常にならず、魔物にダメージを与えられるのは私だけなのです』


〈いや、ヤバすぎるww〉

〈アメリカ最強しか基準満たせないとか、その基準バグってるやろ〉

〈お嬢はその基準満たしてるん?〉


「俺たちが戦えるかどうかは、実際に相対してみれば分かるだろう」


 ただ……俺が戦えるとしても、彩姉が戦えない可能性はある。その時は、まぁ、また考えるとしよう。


 俺たちは歩みを進め、ついにその魔物と遭遇した。


「あれが、デビル……!」


 ちなみに名前は、アリスたちが決めたものだ。デーモンとその上位種とは一線を画すことから、デビルという名前を付けたようだ。どうでもいいが、ここでレッサーデビルと名付けないのは、今後より弱いデビルが現れた時に困るからだ。


 それにしても……なるほど。確かに、これまで見たことのない邪悪なオーラを纏っている。


『巧美、大丈夫?』


『ああ、問題ない』


 少し力が抜けるような感覚はあるものの、致命的な状態異常には陥っていない。


「彩姉は――」


「私も大丈夫よ」


「……みたいだな」


 これは僥倖。ここで彩姉が落ちなかったのはデカい。


『……驚いた。正直、彩にはまだキツイかと思っていたんだけれど』


『ええ、自分でも驚きました。それはともかく……戦闘に入りましょう』


 彩姉の言葉に合わせて、俺たちは攻撃を開始した。


 いつも通り俺は、デビルに向かって駆けだす。


 その横から、彩姉とアリスによる攻撃が行われた。


「ガァッ!」


 ただその攻撃は、デビルによる防御魔法に妨げられる。


 そしてデビルは、俺から目を離し、彩姉たちに攻撃をしようとするが――


「――甘い」


 俺はさらに加速し、光魔法を刀に纏わせる。


 直観的に、こうすべきと判断したのだ。


 デビルもその魔法に危機感を抱いたのか、再びこちらに目をやるが……もう遅い。


 抜刀。


 その一閃はデビルの右腕を切り飛ばした。


「ギャァアッ!」


 チッ、身体をそらして、わずかに急所から外したか。


 デビルは怒り狂ったように、残った左手を振り上げ、俺に向かって振り下ろした。


 俺はそれを無視し、デビルの首へと突きを入れる。


 俺の刃より、デビルの攻撃が先に当たるかと思われたが、それは俺が1人だった場合の話。


 彩姉の矢が、アリスの魔法が、その左手を吹き飛ばした。


 そして俺の突きが、デビルの首を貫通し、デビルは魔石を残して消え去った。



「第70階層でも、問題なく戦えそうだな」









 悪魔の迷宮から帰還後、俺たち3人はホテルの部屋にて、振り返りを行っていた。毎回の恒例行事である。


『ダンジョンでも言ったけど、正直、彩がここまで成長するとは思っていなかったわ』


『それは私自身も同じですよ。何故か、最近は魔力の吸収量が、減るどころかむしろ増えているんですよ』


『まぁ、俺も悪魔の迷宮にきてから、魔力の吸収量は増えているから、ありえないとは言えないんだけどな』


『あら、巧美もそうなの?』


 ん、あれ? 言っていなかったか?


『ああ、これまでの迷宮に比べて、悪魔の迷宮で魔物を倒したときに吸収できる魔力量が、遥かに多いんだ。……あ、でもこれは、俺がこれまでSランクダンジョンに行ったことがなかった、っていう単純な理由かもな。同一のダンジョンで、吸収量が増えた訳じゃないし』


『……それも十分おかしいけれどね。高ランクのハンターほど、吸収しにくくなるんだから、AランクダンジョンでもSランクでもダンジョンでも、吸収できる量は大差ないのが普通よ』


『……謎だな』


『全くよ』


 まぁ、不都合はないから、気にする必要はないか。




 そしてその2週間後。俺たちは第90階層にまでたどり着いたのだが――



「これは……どういうことだ?」



 ――そこは、魔物のいない階層だったのだ。



******************************************************

ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら【フォロー】【応援】【★★★のレビュー】などをしていただけると嬉しいです!


皆さまの評価が執筆の励みとなっていますので、今後もよろしくお願いします!

******************************************************

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る