第50話 アメリカ最強の魔法使いと手を組むようです。



『初めまして、荒河巧美さん。私はアリス・オールストン。Sランクハンターです』


 俺たちを訪ねてきたのは、アメリカ最強の魔法使いと呼ばれている赤毛の美女。一度会ってみたいとは思っていたが、まさか向こうから来てくれるとはな。


『初めまして、荒河巧美です。かの有名な猛火の支配者Inferno Mistressにお会いできて光栄です。それで、本日はどのようなご用件で?』


 この後再び、悪魔の迷宮に挑戦する予定があるため、俺は単刀直入にそう尋ねた。



『――では、言葉は飾らずにいきましょうか。荒河さん、私と共に悪魔の迷宮の踏破を試みませんか?』


 ――てっきり、アメリカに帰化することなんかを勧められるかと思っていたんだが……これは予想外だな。



『より詳しい話を伺っても?』


『もちろんです。先日の配信を見る限り、荒河さんたちは第20階層まで到達しましたよね? では、悪魔の迷宮の最下層は、第何階層だと思いますか?』


 ……ふむ。悪魔の迷宮は現在も、未踏破ダンジョンとして知られている。ならば、そんなこと知る由もないと思うのだが。


『おそらく今お考えの通り、正確には分かりません。ですが、最低・・第70階層まで存在することが確認されているのです』


『その言い方だと……』


『ええ、私たちのギルドは、第70階層が限界だったのです。私以外の主要メンバーは、成長限界を迎えてしまい、手詰まりとなっているのです』


 成長限界。人によって吸収できる魔力量は決まっており、それ以上の魔力はほとんど吸収できない。つまり、技術は向上できても、基礎能力はそこで頭打ちとなるのだ。


『私が第70階層以降でも活躍できるほど、成長できるとは限りませんよ』


『確かにそうかもしれません。ですが私は、私の仲間と、なにより自分自身の眼を信じます。あなたはきっと、これからも成長し続けると』


 まぁ、まだ成長の鈍化が起きていない現状を踏まえると、そうであってほしいという気持ちは湧いてくるものだが。


『なるほど、話は理解できました。ですが、現状として、私たちはまだ限界を感じていません。今あなたと協力して攻略にあたると、かえって成長が阻害されかねません』


『理解しております。ですので、第50階層を超えたあたりから、私も加わることが出来ればと思います』


 ふむ、一貫して、自身の力が踏破には必要だという立場か。……ああ、なるほど。だから俺たち2人だけで話したいと言って来たのか。彩姉に聞かせないために。しかし……これはどうしたものか。


『分かりました。ですが、私がここで決定を下すわけにはいきません。一度パートナーと話し合うことにします』


『ありがとうございます。よき返事をお待ちしています』









「――とのことだ」


 俺が彩姉に、先ほどの提案について伝えると、泣きそうな、悲痛な面持ちとなった。


「私は、もう、必要ないの……?」


「そんなことはない。昨日も言っただろ、俺が彩姉を見捨てることは絶対にしないって」


「だけど――! 実際、私の成長は鈍化してきているし。最下層まで戦力として活躍できない可能性の方が高い!」


「……たとえそうなったとしても、彩姉を見捨てることはしない」



「――私は、巧美ちゃんの足枷になりたくないの!」



 目を真っ赤にしながら、真剣に俺と向き合ってくれるのは嬉しい。だけど――



「だから、お願い。足手まといになったら、遠慮なく言って……!」



「――俺がなぜ、ダンジョン攻略をしていると思う?」



「――え?」



「いいかよく聞け。俺がダンジョン攻略をする理由は、それを配信・・という形で多くの人に提供したいからだ。俺が強くあった方が面白くなる思うから、俺は貪欲に強さを求めるし、悪魔の迷宮も踏破する方が面白い・・・と思うから、今アメリカに来ているんだ」


 もし配信できないなら、ダンジョン攻略をする価値なんて、俺にはないといっても過言ではないんだ。


「そして、その配信において・・・・・・、俺は彩姉の存在が必須だと考えている。普段はカメラマンとして立ち回り、時には一緒に出演する彩姉が、俺の配信には不可欠なんだ。俺には彩姉なしでの配信なんて、今ではもう考えられない」


 たまに休むぐらいならいい。だけどそれは、俺が彩姉を見捨てることと同義ではない。


「だから……そう自分を卑下しないでくれ」


 俺は彩姉を抱きしめ、あやすように頭をなでた。




 ――その後、彩姉が落ち着いてからしばらく話し合い、結論として俺たちはアリスの提案を受け入れることにしたのだった。



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