第49話 前世で死んだ場所を訪れるようです。



「――今日はこの辺りで引き返すとするか」


「うん、それでいいんじゃない? まだ初日なんだし」


 現在到達したのは第20階層。これより先は、レッサーデーモンより上位のグレーターデーモンが現れると聞く。あまり初日から欲張る必要もないだろう。


「ここからはのんびり地上へと帰るだけだから、今日はここで配信を終わろうと思う。また明日も悪魔の迷宮に来るから、ぜひまた見にきてくれ。それじゃあ、ごきげんよう!」


〈お疲れ様~〉

〈ごきげんよう!〉

〈明日も楽しみ!!〉


 そんなコメントを眺めつつ、俺は配信を切り、ぐっと伸びをした。


「よし、それじゃあ帰るか」


「うん。それにしても、巧美ちゃん、なんだか動きがすごくよくなったように思う」


「そうか? まぁ、ここまででも、かなり魔力を吸収することが出来たからな。絶好の狩場だよ、ここは」


「そっか。いいな~、私は結構成長が鈍化してきたからさ」


 一般的に人間は、魔力を吸収すればするほど、さらなる魔力を吸収しにくくなると言われている。そしてその吸収の効率は人によって異なり、才能がない人は頑張ってもCランクが限界だったりする。


「俺はむしろここに来て、吸収量が増えたからな。まだまだ成長できそうだ」


「私も頑張らないとね。巧美ちゃんに付いていけなくなったら、私がハンターをやる意味なんてないから」


「俺が彩姉を見捨てることはないよ、絶対」


「本当?」


「当たり前だろ」


 そういうと彩姉は少し安心したような表情を見せた。


「そっか。ありがとう。でも、足手まといになるつもりはないから」


「おう、期待してるよ……あぁ、そうそう。ホテルに戻る前に一つ寄っておきたいところがある」


 なんだかんだ、訪れることはしなかったからな。でも、せっかくここまで来たんだし、一回ぐらい行っておこう。


「ん? どこに行きたいの?」


 彩姉の質問に、俺は努めて明るく言った。



「――前世の俺が死んだ場所」









 案内役兼監視役を務めるマイケルに一言伝え、俺たちは悪魔の迷宮から500mほどの、ギリギリ砦になっていない部分を訪れた。


「確かこの辺だったような……」


「何を探しているんですか?」


 事情を知らないマイケルが、不思議そうに尋ねる。


「アクション俳優の鈴木巧は知っているか?」


「ええ、もちろん知っていますよ。私が子供の時に、世界的に有名だったアクション俳優でした。今から15年ほど前に亡くなった方ですよね。死体が消えた事件として有名です」


「おお、よく知ってるな。その鈴木巧が殺された場所が、確かこの辺りだったはずだ」


 ぶっちゃけ、だいぶ景色も変わっているから、確証はないのだが。


「なるほど、彼のファンだったのですか。荒河さんが生まれる前に活躍した俳優なのに、少し意外ですね」


「いや、まぁ、ファンというか、関係者というか」


 さすがに俺の前世です、なんて言えないしな……。


「ん? ああ! 確かに関係者と言えなくもないですね。西園寺さんのお父様が、鈴木巧の銅像・・資料館・・・をお作りになりましたもんね」



 ――なんて?



「銅像、ですか」


「ええ、今や有名な観光地です。なんでもその銅像にお祈りすると、役者として大成すると言われていまして、世界中から芸能人がそこを訪れることで有名ですよ」



 いや、俺は神ではないが? 絶対そんなご利益ないって。



「荒河さんも動画配信をなさっているのですし、一度訪れてみるのもいいかもしれませんね」


「いや、それはいいかな」


 自分が自分にお祈りするのは、さすがに意味が分からないし。


 おい、彩姉。隠れて笑ってるの、バレてるからな!





 その翌朝。


『初めまして、荒河巧美さん。私はアリス・オールストン。Sランクハンターです』


 アメリカ最強の魔法使いが来訪した。



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