第47話 "猛獣"との戦いが始まったようです。




 ――時は少し遡る。


 アメリカに着いた翌朝、俺たちはマイケルの運転により、悪魔の迷宮の入り口近くまで来た。


 入り口付近は完全に砦になっており、おいそれと入ることはできない様子だった。


「迷宮蜂の巣におけるスタンピードの被害は甚大でした。あれがもし悪魔の迷宮で発生したら、非常にマズいことになります。ですのでこうして、入り口を覆うような砦を建設し、厳戒態勢をとっているのです」


「なるほどな。この辺りの行動力はさすがと言わざるを得ないな」


「日本だと、こういった対応がどうしても遅れちゃう現状にあるもんね」


 そんな話をしながら砦へと近づくと、門番が誰何してきた。


『こちらは、日本からやってきたSランクハンターの、荒河巧美さんと西園寺彩さんです』


『話は聞いております。どうぞお入りください』


 その門番が扉に手をかざすと、ピッという音が鳴り、扉が開かれた。


「この扉を開けられるのは、彼のような砦の関係者しかいないのです」


「おぉ、厳重だな」


「ええ、それだけ重要なダンジョンですから。それでは早速ですが、ダンジョンの第1階層へとご案内します」


 俺たちはマイケルに連れられ、第1階層へと向かう。


 近づくにつれて、ダンジョンから漏れ出る魔力の密度が高くなっていくのが分かる。


「この扉の先が、第1階層となります」


 そう言うとマイケルは、ボタンを押し、恐らく内線を繋いだ。


『こちら、マイケル・クィンシーです。扉を開けていただけますか』


『了解。扉を開けるので、一歩お下がりください』


 その指示に従い、俺たちが1歩後ろに下がると、扉の鍵が開錠され、その扉が開かれた。


「どうぞ、お入りください」



 ……これが悪魔の迷宮、か。



 第1階層にも関わらず、その魔力密度はAランクダンジョンのボス部屋よりも遥かに高い。



 そしてなぜか、そこには1人の男が立っていた。



『なっ! 何故あなたがここに居るのですか!』


『砦の責任者たる俺がここに居て、何が悪い』


 ニヤリ、と獰猛な笑みを浮かべる男。ああ、彼は確か――


『お前があの武神の娘か? おいおい、本当に強いのかよ? いっちょ戦おうぜ!』


 ――ライル・エーミス。アメリカのSランクハンターが1人。


 道田のように素手での戦いを得意としており、その二つ名は猛獣。


 ビシビシとこちらに闘気を放つこいつは、なるほど、魔物よりも魔物らしい。


『……戦うのは構わないが、俺は配信者だ。戦いの様子を配信してもいいか?』


『いいね、そうこなくっちゃな! ああ、配信でもなんでもすれば良いさ』


『分かった』


 チラリと彩姉の方に目配せをすると、頷きを返してくれた。どうやら、撮影係をいつも通り引き受けてくれるらしい。


『ちょっと待ってください! 他国のSランクハンターと戦って、万が一のことがあったら、国際問題になりますよ!』


『チッ……分かってるって。本気で殺し合いをするつもりじゃない。あくまでも模擬戦だ』


『……はぁ、分かりましたよ。ですが、お互いに致命傷となる攻撃は絶対にしないように! いいですね』


『分かってるって』


『ああ、それで問題ない。じゃあ、配信を始めるから少しだけ待ってくれ』


 俺は彩姉の方を振り向き、合図を送った。



「やぁ、みなさまごきげんよう。今日はついにアメリカは悪魔の迷宮に訪れている」


〈ごきげんよー!〉

〈予定時間よりちょっと早い開始やね〉

〈ごきげんよう!〉

〈わくわく〉


 予告もしていたためか、すでにそこそこの人数が待機所にいた。


「さて、さっそくだが、今からアメリカのSランクハンター、ライル・エーミスと模擬戦をすることになった」


 俺がそう言うと、カメラはエーミスの方を向けられ、それに対してエーミスも手を上げることで応えた。


〈なんでやねん!〉

〈なんでいきなりSランクハンターと模擬戦することに???〉

〈ライル・エーミスってあの猛獣か! うわっ、強そう!!〉

〈意外とカメラ向けられたら応えてくれるんだ〉

〈模擬戦することになった経緯を知りたい〉


「模擬戦の理由は、あいつがやりたい、と言ったからだな。それじゃあ、彩姉。これ、持っといて」


 そう言って俺は、腰に差していた天煌を彩姉に渡した。


『おいおい、刀は使わなくていいのかよ?』


『問題ない。俺は素手でも十分戦えるんだ』


『へっ、後で負けた時の言い訳にするなよ?』


『当たり前だ。それに、俺は負けんよ』


『へぇ……?』


 いい闘気を放つ。これは少し俺も楽しみになって来たな。


〈ごめん、なんて?〉

〈私、英語、ワカラナイ〉

〈お嬢が相手を挑発してる感じ〉

〈『いいね! エーミスをぶっ飛ばしちゃえ!』〉

〈英語のコメントも増えたなぁ〉



『それじゃあ、始めようか』


 全身から余計な力を抜き、じっと相手の出方を見る。



『――っ! ははっ! こりゃ楽しめそうだ!』


 エーミスは身体強化を施し、その巨体に見合わない速度で接近してきた。


『オラァッ!』


 おいおい、手加減ってものを知らないのか?


 エーミスが放つ右ストレートを躱しながら懐に入り、背負い投げの要領で投げ飛ばそうとしたが――


「おっ」


 背後から俺を退路を塞ぐように手を動かし、そのままエーミスは膝蹴りをしようとした。


 俺は足を集中的に強化して飛び上がり、エーミスの顎を蹴り上げ、距離を取った。


『はっ、そこそこ良い一撃だな!』


「おいおい、あれでビクともしないのかよ」


 今の攻防で分かったが、エーミスの強みは、圧倒的な腕力、そして耐久力だ。だが、その耐久力を過信しているような節もあるな。


 こいつとまともにやるのは、いささか骨が折れるが、まぁ、なんとかなるか。


『次はこっちから行くぞ!』


『おう! 来やがれ!』



 さぁ、どう攻めていこうか?



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