第42話 独壇場のようです。



 首を両断されたアクアドラゴンは消滅し、後には荒々しい戦闘の痕跡のみが残っていた。


「……勝った。勝ったぞ!」


 納刀し、俺はアクアドラゴンに勝った余韻に浸る。


「ふぅ…………あっ」


 逸脱種は迷宮外で殺されると、ダンジョンの第1階層で復活する。これは今回殺したアクアドラゴンも例外じゃないはずだ。今頃、竜の迷宮で復活しているだろう。


「マズいな……ここから竜の迷宮までどれくらいだ?」


 戦闘を経て、かなり遠ざかってしまったような気がする。


 地上で逸脱種の相手をしたのは初めてだったから、完全に失念していた。あー、どうにかしてダンジョン付近に誘導して殺すべきだったな……。



「えっと……こっちか!」



 周りを見渡しだいたいの現在地を把握した俺は、全速力で竜の迷宮、第1階層へと向かおうとした。



 だが突如として「パリン」という何かが割れた音とともに視界が真っ白になり、俺は立ち止まざるを得なかった。



「……っ!」



 視界が元に戻ると、あたりの空気が変わっており――目の前に



「…………は?」



 全くもって意味が分からないが、どうやら竜の迷宮の第1階層に転移したようだ。



「いやいやいや……え、何で?」



 混乱している俺を待つことなく、アクアドラゴンは俺に向かって魔法を放った。


 慌てて俺は回避し、意識を切り替える。



「……まぁ、何はともあれ好都合だ。さっきの感覚を、完全にものにしたいと思っていたんだ。実験台にさせてもらうぞ?」



 先ほど俺に首を斬られたことを覚えているのだろう。アクアドラゴンはむやみに俺に接近してくることなく、じっと警戒したようにこちらを見据える。



「あ、そうだ。ダンジョン内ってことは……」



 慣れた手つきで、摩訶不思議なカメラを召喚し、配信をスタートする。



「ごきげんよう! 突然だが、今からこいつをシバくッ! ちなみに街の現状は俺も知らないし、答える余裕もない! すまん!」



 それだけ言って俺は、刀を構える。魔力はほとんどないので、一撃でも貰うとキツイが……まぁ、全て斬れば問題ない!



「いざ、ショータイム!」









 沖縄の竜の迷宮でスタンピードが発生したというニュースは、あっという間に世間に知れ渡った。


 アメリカで起きたスタンピードとその被害については、人々の記憶に新しい。そして今回は、アメリカよりもランクの上である竜の迷宮でのスタンピード。


 被害がどれほどになるか想像もつかない、というのがその知らせを聞いた人の正直な感想だった。



 また、巧美の配信の視聴者たちは総じて、彼女らの安否を案じた。


 国内有数の実力者たるAランクハンターである彼女たちは、必ずスタンピードの解決に動くだろう。だが、地上での戦闘は命がけだ。空を飛ぶワイバーンが存在するため、ヘリなどによる報道もかなわず、スタンピードの現状は誰も分からなかった。




 ――そんな中で始まった、巧美の配信。




 早朝のゲリラ配信にも関わらず、通知を取っていた視聴者が多かったのか、あっという間にそれなりの視聴者が集まった。




〈お嬢無事!?〉

〈スタンピードどうなってるん?〉

〈え、ドラゴン!?〉

〈もしかして、あれが元凶?〉

〈何回か配信で見たけど、ここ第1階層よな?なんでドラゴン居るん?〉

〈今からこいつをシバく、は草〉

〈街の現状知らんってどういうこと????〉

〈え、1人なん?〉

〈一人でドラゴンに突っ込んでいったで〉

〈状況的に、あのアクアドラゴン?が逸脱種ってことで間違いないだろう〉

〈アクアドラゴンが外に出る前に間に合ったか、地上で殺したかやね〉

〈逸脱種ってめっちゃ強化されてるんでしょ?一人やったら勝てないでしょ!〉

〈待って、第1階層って死んでも蘇生されへんよな?お嬢死んじゃうって!!〉

〈一人じゃ無理やって!逃げて!!!〉



 今回のスタンピードの元凶と思わしき相手との戦いの配信は、あっという間にSNSで拡散され、視聴者数が急増していった。


 日本中を揺るがす大災害の様子がリアルタイムで見れる機会。これを逃すまいと、多くの人がその配信へと訪れたのだ。



 そして、その誰もが驚くこととなった。



〈……え、こんなにお嬢って強かったっけ?〉

〈圧倒的やんwwww〉

〈街の様子はどうなっているんですか?〉

〈強化されてるはずのアクアドラゴンを相手に1人で無双?この子ヤバくない?Sランクハンター?〉

〈街の様子は答える余裕がない【定期】〉

〈まだドラゴンが一回もブレスしてこないのは、なんでかな?〉

〈この子の動きを見る限り、あまり身体強化を施していないようなんだけど、それでいてなんでアクアドラゴンを圧倒出来ているのか……意味が分からない〉



 まずはその翼が斬り落とされ、その次に尻尾が斬り落とされた。



 じっくりと、試し切りをするかのようにアクアドラゴンを追い詰めていく。



 傷をつけることすら並大抵の実力では不可能と呼ばれる竜の鱗を、あっさりと斬る巧美に、視聴者たちは驚きを隠せなかった。



 そしてついには、その首すらも斬り落とされ……スタンピードの元凶はここに散ったのだった。



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