【本編完結】最強と呼ばれたアクション俳優が、美少女に転生してダンジョン配信を始めたようです。

第41話 より高みを目指すようです。

「……くっそ」

　もう何度目かも分からないが、地面に叩きつけられた俺は、アクアドラゴンを見上げ悪態をつく。

　いやはや、なかなかに手ごわい。

　とはいえ俺も、こうして吹き飛ばされた隙に回復を施しているため、致命傷をもらってはいない。しかし対するアクアドラゴンにも、身にまとう鱗が堅すぎて、有効打を与えることは出来ていない。

　つまるところ、両者ともに決め手が欠けていると言えるだろう。

　……いや、ちょっと盛った。まるで互角の戦いに言ったが、実際はそうではない。

　第一に、俺が回復できる回数にも限りがある。そもそも傷を負っていないアクアドラゴンの方が優勢だ。

　そしてなにより、アクアドラゴンにはあの"ブレス"がある。本来のブレスに比べて何倍もの威力を誇るあれを再び放たれると、こちらも無事ではすまない。

　幸い、ブレスにはクールタイムが存在するため、連発はできないが……どちらにせよ時間はアクアドラゴンの味方をする。

　さっさと倒せればいいんだが……やはり、あの鱗が厄介だ。

「まぁ、やるしかないんだがな！」

　あの鱗を斬るためにはどうすればいいか？

　単純な話だ。

　――俺が今ここで、斬れるようになればいい！

「次こそその身体、斬ってやるッ！」

　気合を入れ、再び魔力を刀に纏わせる。

　さらに魔力を圧縮するんだ！　限界を超えなきゃ、あいつは倒せない！

「はぁあああぁあああ――ッ！」

　アクアドラゴンの放つ魔法を躱し、時には切り捨て、再び俺は接近を試みた。

「グギャァアァアア！」

　何度も肉薄してくる俺を煩わしがるように、アクアドラゴンは吠える。

「うるせぇ！　黙って斬られとけッ！」

　これまでの限界を超えて魔力で強化した刀による一閃はしかし、鱗を数枚剥ぎ落すだけに留まった。

「チッ……だが、そこを重点的に攻撃すれば――」

　その時、無情にもアクアドラゴンの口元へと膨大な魔力が収束し始めた。

　――マズイ！　ブレスが来る！

　もしもブレスが放たれれば、なんとか俺が避けられたとしても、周囲への被害は甚大なものとなる。正直この近距離で、ブレスを空へ再び逸らすのは困難だ。

　つまり、かくなる上は――

「全力で止めるしかねぇよなぁッ!?」

　俺のありったけの魔力を使い、魔刀を量産。

　魔力が収束しているアクアドラゴンの首に向かって、魔刀を殺到させる。

　そして同時に、俺も刀による攻撃をしかける。

　……ブレスは超高火力な魔法だ。そんな魔法を途中で邪魔すればどうなるか。

「――――」

　轟音。

　容易く鼓膜が破れた。

　爆発の衝撃で吹き飛ばされた俺は、またしても地面を転がる。

　受け身を取る余裕なんてなかった。

「…………っ」

　ここで気を失うわけにはいかない。

　気合で回復魔法を施し、なんとか立ち上がる。

「……ははっ、ざまぁねぇな」

　落ちた（・・・）のは、何も俺だけではなかった。

　ブレスの暴発。

　さしもの強化版アクアドラゴンといえども、こうして地に落ちるほどにはダメージを受けていた。

　――クソ、魔力が尽きそうだな。

　ろくに魔力を纏えていない刀を握りしめる。

　これじゃあ、いくら弱っているとはいえ、アクアドラゴンに傷１つつけられや――

「――いや、待てよ」

　……いつからだ？　いつから俺は――魔力に依存していた？

　おいおい、舐めるんじゃないぞ。俺が今、手に持つ刀は、あの（・・）天煌だぞ？

　あぁ、クソ。自分が嫌になる。

　前世――魔力なんて存在しない時から、オヤジは刀で鋼だろうが、なんだろうが斬ってただろ。

　なのに、なんで俺は「魔力に任せて斬ろう」なんて甘えた考えをしてるんだ？

　オヤジを超えたいのなら――

「――魔力なんて使わなくとも、竜の鱗ぐらい斬れッ！」

　ここにきて初めて、俺は刀に魔力を纏うのをやめた。

「フッ――！」

　先ほどの暴発の影響で魔力を操れないのか、アクアドラゴンが魔法で追撃することはなかった。

　苦し紛れに繰り出された爪による攻撃を避け、アクアドラゴンの真下へとたどり着いた。

「――――ッ！」

　刀と身体が一体になったかのような感覚。

　極度の集中により、目に映るすべての動きが緩慢になっていた。

　――斬れる。

　そう確信した次の瞬間、アクアドラゴンの首が胴から離れたのだった。

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