第39話 非常事態のようです。



「竜の迷宮でスタンピードが確認されました」



 午前4時という朝早くに道田に起こされ、唐突にそんなことを言われた。



「………………は? ――やばい、やばい、やばいやばい!」



 スタンピードが起きたと表現したということは、今回の逸脱種はボスであるアクアドラゴン。ただでさえ強いアクアドラゴンが、さらに強くなって地上に出てくるかもしれないってことだろ? はー、ヤバイ。


 なんでここで発生するかなぁ? 沖縄に高ランクハンターはほとんど居ないんだよッ! クソ、今対応可能なハンターは何人いるんだ?


 あーあー、こんなことならダンジョン近くのホテルを使っておくんだった。



「ワイバーンが数体ダンジョンの外に出て、近隣を襲撃したことで今回の異常を察知することが出来たようです。ダンジョン近くに寝泊まりしていたAランクパーティが2組が現在、ワイバーンの対処をしています」



「了解。俺たちも現場に急ぐぞ!」









「クソッ! キリがねぇな!」



 Aランクハンターの男は、ワイバーンの群れを相手にしながら、そう愚痴をこぼす。


 市民に被害が出ないように立ち回るのが理想だが、次々に現れるワイバーンによって、彼らだけではそれも難しくなってきた。


 2組のAランクパーティが協力すれば、ワイバーン数十体を相手にしても勝つことはできるだろう。だがそれにはどうしても時間がかかり、地上に出てきたワイバーンを討ち漏らしなく討伐するのは不可能に近かった。



「リーダー! 追加で約50体のワイバーンが現れましたッ!」


「チッ! てめぇら、気合入れろ! 一刻も早く殲滅するんだ! クソッ……一気にワイバーンを地上に出さないのは、こちらの戦力を測る目的があったのか? めんどくせぇ!」



 その時、突如として膨大な魔力がダンジョンの方向から放出された。



「これはッ! リーダー!」


「分かってる! チッ、間に合わなかったか……」



 竜の迷宮がボス――アクアドラゴンがついに、地上へと現れた。



 ――アメリカの事例を踏まえると、ダンジョン内で奴を殺す必要があったんだが……クソッ、慎重になりすぎたか?



 彼らが戦う際に「命の危険」というものは、これまで存在していなかった。殺されたとしても復活できる環境だったからこそ、果敢に魔物と戦うことが出来ていたとも言える。


 だがここに来て、彼らは初めて「負けたら本当に死ぬ」戦いに挑んでいた。そのため、いつも以上に慎重な戦い方となるのは、至極当然と言えた。



 ――少人数でダンジョンまで突撃していれば……いや、このワイバーンの現れ方を見るに、どちらにせよ、数人では倒しきれなかったか。



 アクアドラゴンは飛び上がって周囲を一瞥し、自らが呼び出した手下を殺した者を探す。そしてアクアドラゴンは、彼らがいる方向へと狙いを定め、攻撃を準備した。



 アクアドラゴンの口元へと膨大な魔力が収束し、空間さえも震わせる。



「――ッ! マズイッ!」



 ドラゴンにのみ許された、究極の魔法――ブレスが今放たれた。




 このままブレスが彼らの場所に到達すれば、彼らはもちろん、その周辺にも多大なる被害が生じただろう。




 ――だが、現実はそうはならなかった。





「――――奥義」



 ブレスの射線に躍り出るは、1人の少女。



 空中に立つ彼女は、見るものを引き付ける何か・・があった。




「天跳――ッ!」




 彼女の抜刀は、ブレスを天へと跳ね上げたのだ。




「あれは――」



 男が呆気にとられていると、次の瞬間、大量の矢が雨のように、ワイバーンへと降り注いだ。



「――遅くなり申し訳ありません。私、西園寺彩ならびに荒河巧美が、援軍として参りました」



 頼もしい援軍が今、現れたのだ。



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