第38話 彩姉と共闘するようです。
「それじゃあ、行くぞ?」
俺は身体強化を施し、ワイバーンへと駆け始めた。
「ギュガァ!」
そんな俺に対し、ワイバーンは水属性の刃を放つ。
だがその直後、その刃は彩姉の火属性を纏った矢に貫かれ、蒸発した。
――さすがだな。
高速で飛来する魔法を矢で貫くなんて、そう簡単にできるものではない。少なくとも俺には無理だ。
俺は蒸気に身を隠しつつ、空中に魔力を具現化し足場とすることで、ワイバーンへとさらに接近した。
「ギュガアァアッ!」
突然目の前に現れた俺に、ワイバーンは動揺しつつも爪で俺を攻撃しようとしたが――そんな見え透いた攻撃を許すほど、彩姉は甘くない。
初動を彩姉が放った矢によって潰されたワイバーンは、一瞬硬直する。
そしてその一瞬をつき、俺は魔力で強化した刀でワイバーンの首を両断した。
「……このダンジョンに入ってすぐの俺だったら、両断はできていなかったかもな」
ワイバーンは強化魔法を自身に施しており、ただでさえ固い鱗が、より強固なものになっていた。
たぶん、ここのボスのアクアドラゴンは、もっと固いんだろうなぁ……。
「お疲れ様、巧美ちゃん」
「ああ、ナイスアシスト、彩姉」
〈おぉ!! 快勝やん!!!〉
〈弓姫のアシストも凄いけど、お嬢の動きもやべぇ!!〉
〈息ぴったりやったな〉
「実は、共闘自体は初めてじゃないからな。俺らとオヤジが2対1で戦ったりしているぞ」
「2人がかりでも、まだ勝ったことはないんだけどね」
〈やっぱ武神ってバグってるな〉
〈この2人を同時に相手して勝てる人おるんや……〉
〈なるほど、だからスムーズに行ってたのね〉
「さて、この調子でどんどん進んでいこうか!」
◇
初めて竜の迷宮に挑んでから、5日経った金曜日。ついに俺たちは、ボス部屋1歩手前まで潜ることが出来た。
あれからずっと彩姉と共闘を続けているが、討伐が非常にスムーズになったため、魔力の吸収効率は下がるどころか、むしろ上がっていた。
「さて、明日はついにボス戦に挑もうと思う。13時頃から攻略を始める予定だから、忘れずに来てくれよな。それじゃあ、ごきげんよう!」
配信を切り、彩姉と共にダンジョンの外に出る。
今日は10時頃から配信を始めたのだが、もうすでに6時を回っており、夕暮れ時になっていた。
ダンジョン前で待機していた道田の運転する車に乗り込み、40分ほどかけて西園寺家の別荘へと戻る。
ダンジョンの近くにもホテルはあるのだが、別荘があるならそこでいいだろうということで、毎日別荘とダンジョンを行き来しているのだ。
ちなみに道田はBランクハンターのままなので、竜の迷宮に同行することはできない。こっちに来てからも運転手としての仕事ぐらいしかできていないが、逆に俺たちがダンジョンに潜っている間、随分沖縄を堪能しているらしい。
まぁ、問題ないならいいか。
部屋に戻り一息ついたところで、俺は彩姉に尋ねる。
「さて……勝てるかな?」
相手は言わずもがな、アクアドラゴンだ。
「……勝率は7割ぐらいだと思う。勝てない相手じゃないよ。私が手下を相手するから、巧美ちゃんはボスに集中してね」
「ああ、そのつもりだ」
俺も魔刀を使って、全体に攻撃はできるが、彩姉の方がその能力は上だ。彩姉が手下を殲滅するまで、アクアドラゴンは俺が受け持ち邪魔させなければいい。
問題は俺の攻撃が、アクアドラゴンに通じるかどうかだが――
「まぁ、なんとかなるだろう」
俺は天煌を手入れしながら、そうつぶやいた。
そして明日の決戦に備え、俺たちは早めに眠りにつくのだった。
だが――翌日。その予定はすべて崩れ去った。
午前4時。竜の迷宮にてスタンピードが確認。
のちに、"沖縄の悪夢"と呼ばれる災害が、今、発生したのだ。
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