SS "サンタ"を捕まえろ!



 巧美が転生した年における、12月24日の深夜。


 "サンタ"が子供の目を盗み、プレゼントを贈る時だ。


 そして、巧美という小学五年生の義娘が出来た荒河家にも、当然サンタが訪れようとしているのだが……。



「…………」



 カチカチと、時計の針の音のみが聞こえる寝室で、巧美は全方向を警戒しながら、を待っていた。



 ――扉や窓の鍵は閉めた。隈無く壁や床を点検したが、隠し扉は存在しない。さぁ、どこから来る? 絶対に捕まえてやるぞ……!


 

 世界中の子供たちにプレゼントを配らなくてはならない、多忙なサンタを捕まえるという悪逆非道なマネを巧美がしようとする理由は、その日の昼間にした会話にあった。









「そういえば巧美。今年はいい子にしておったのぅ」


「え、急に何?」


「そんな巧美には、サンタさんがやってくるじゃろうな」


「はぁ……」



 ――クリスマスプレゼントをくれるってことか? にしてもサンタねぇ。



「うち、キリスト教じゃなくね?」


「そんなことを気にする日本人は、ほとんど居らんよ」


 ――まぁ、それもそうか。



「さて、ここで1つ、巧美に課題をやろう。これを達成出来た暁には、天煌てんこうをくれてやる」


「え! マジで!?」


 天煌――荒河家に代々伝わる刀であり、前世を含めて1回しか握らせてくれたことはない。


 だが、あの一振の感触は、そう簡単に忘れられるものではなかった。


 それをくれる、だと? 本気で?



「俄然やる気が出てきたな。で、その課題ってなんだ?」


 巧美の言葉に、武神はニヤリと笑って答える。



「――今夜、サンタさんを捕まえてみろ。気づかれることなくプレゼントを贈るサンタは、相当な手練だぞ? 覚悟して挑め」









「ふぅ…………」



 転生してからの約10か月の間に、巧美の感覚はそれなりに研ぎ澄まされていた。武神との修行の賜物である。


 だが、武神が認めるには程遠く――



「――っ!?」



 こうして、易々と"サンタ"の侵入を許してしまった。



 ――どっから入って来たんだよこのサンタはッ!?



 サンタの洗練された立ち姿を見ると、その身にまとう服の赤色が、どうしても血の色に見えてしまうのは気のせいだろうか。



「――え?」



 巧美がサンタの一挙手一投足に注視していたにもかかわらず、その視界からサンタの姿は消えた。



 はっと振り返ると、そこにはプレゼントを置くサンタの姿が。



「待てこらッ!」



 巧美は懸命に手を伸ばし、サンタを捕らえんとするが――その手は空を切るのみだった。



 サンタが身体能力に物を言わせて、目にもとまらぬ速さで動いているなら、まだ巧美は納得できただろう。だが、これは武神が巧美に与えた課題。



 つまるところ、ここまですべて、サンタは"技術"だけで動いている。



 ――ことは分かるが、理不尽すぎるだろ!



 いつの間にか部屋に侵入され、目の前にいたのに視界から消える始末。



 部屋から消えていたサンタに思いを馳せ、巧美は思わずため息をついた。



「――寝よ」





 このサンタを捕まえるという課題は、毎年の恒例行事となり、結局巧美がサンタを捕まえることができたのは中学3年生の冬のことだった。



 こうして手にした天煌は、巧美のメイン武器となり、Aランクハンターとなった今でも変わらず愛用しているのだった。



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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


メリークリスマス! 今更明かされる、巧美の刀のお話でした。


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