第34話 昇級試験が始まったようです。
「初めまして、荒河巧美さん。今回試験官を務めます、松原実と申します」
「あぁ、今回はよろしく頼む」
蒼に連れられて訓練場に赴くと、4人のハンターたちが存在した。その中で一番魔力量が多い彼が、松原さん。おそらく、ギルドではなく協会に所属するAランクハンターだろう。
「今回あなたが指揮するのは、こちらの3名です」
「蒼牙所属の小林菜月です。水属性を得意とする魔法使いです」
「同じく蒼牙所属の中村健太郎です。ランサーです」
「……同じく蒼牙所属の深森敏明です。タンクです」
「神武所属の荒河巧美だ。今回君らの指揮を担当する。よろしくな」
ふむ。バランスは悪くない。深森さんだけ少し堅いのが気になるが、まぁ大丈夫だろう。
「そして今回、あなた方に攻略していただくのは、"人狼の迷宮"です。さっそく出発しますか?」
「今すぐ行く必要はないと?」
「ええ、その通りです」
「なら、1人ずつ軽く実力を見ておきたい。蒼、この訓練場のものは使ってもいいのか?」
俺がそう言うと、4人全員が目を見開き、俺を凝視した。
……ああ、蒼を呼び捨てにしたからか。
「構いません。自由に使ってください」
「了解。それじゃあ、小林さんから順に見ていこうかな」
それから俺は3人の実力を確認し、それが終わると人狼の迷宮へ向かったのだった。
◇
「申し訳ございません!」
時は遡り、巧を襲った人物の身元が分かった頃。
深森は露崎ギルドマスターに深く謝罪をしていた。
多くの低ランクハンターたちを殺害した容疑にかけられている男は、深森がリーダーを務めるパーティメンバーだったのだ。
「改めて確認しますが、パーティ内で冷遇等はした覚えがない、ということで間違いありませんね?」
「はい。そのような事実はございません。ですが、親身に寄り添えていたかと問われると疑問が残ります。もっと彼の理解を深めていれば、もっと彼のケアが出来ていれば防げたことなのではという後悔が尽きません」
深森の言う通り、パーティ内でいじめ等は起きておらず、彼らにとっても寝耳に水な状態であった。
「分かりました。ですが今後も取り調べなどが続くでしょう。嘘偽りなく、それには協力しなさい。また、只今をもってあなたをパーティリーダーの役職から外します。ギルドから追放するつもりはありませんが、これは確実ではありません。それは理解しなさい」
「はい、もちろんです」
「ああ、それからもう一つ。あなたが被害者の方、並びにその関係者の方に、個人的に謝罪に赴くことは認めません。ギルドメンバーの失態は、延いては私の責任です。交渉もありますので、勝手な行動は慎むように」
「っ! ……分かりました」
「結構。下がってよいですよ」
「失礼いたします」
結局深森が口出しすることなく、ギルドとしての謝罪や交渉はつつがなく終わった。
だが、深森のパーティメンバーであったという事実は変わらず「あの時こうしていれば」と深森は後悔しきりであり、彼の罪悪感が薄れることはなかった。
……そんな中で舞い込んできた、巧美のAランク昇級試験の話。
深森は、被害者であった巧美に協力することができるこの機会を好機ととらえ、自ら志願した。そしてそれをギルドマスターは認めたのだった。
――配信者として活動していると聞いたから見てみたが、個人の力はとっくにAランク相当。だが、これまで常にソロで活動していたようだし、上手く指揮できるのだろうか……?
深森の懸念点は、巧美の経験不足。ほとんどのハンターはパーティを組みダンジョン攻略を行っている。だが、巧美は徹頭徹尾ソロだった。
――だが、こちらが負担をかけないように立ち回ればいいだけだ。
パーティリーダーを務めた経験のある深森は、パーティとして戦うノウハウを熟知していた。そのため、万が一の時は自分が助言すればいいと、深森は考えていたのだが――
「小林は、連発できる魔法の準備を。中村は、左からウォーウルフへと接近。深森もそれに合わせて前進!」
――そんな心配はいらなかったらしい。
巧美は1人で一体を請け負いながらも、的確に指示を出し続けた。
――凄いな。背中に目でも付いているのか……?
指揮をするうえで重要な能力として、全体を把握する力が挙げられる。だがそれは、巧美が常に意識していたことだった。
カメラと自分、そして相手の位置や、光加減……。
それらを考慮し、もっとも美しく映るように戦う。
そんなことを続けていたため、3人の指揮をとる程度、巧美にとっては造作もないことだった。
「――中村と深森は後退! 小林は強力な魔法の準備を!」
巧は2体ダメージを受けた状態のウォーウルフを誘導し、まとめあげる。
「よし、放て!」
「はいっ!」
そして巧美がまとめたところに、小林の魔法が叩き込まれた。
それは、指揮される側からしても、非常に安定した戦いだった。
「……よし。なかなか順調だな。特に深森の立ち回りは良かった。上手く注意を引き付けてくれていたな。今後も頼むぞ」
「任せてください」
――本当に、しっかりしているなぁ……。パーティの士気を保つことも忘れていないのか。
それからも巧美たちは順調に攻略を続け、ついにボス戦へとたどり着いたのだった。
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