第33話 Aランクへの昇級試験を受けるようです。



 アメリカで逸脱種による大災害――スタンピードが起きてから1か月が経った。


 スタンピードによる被害は甚大で、世界中に逸脱種の危険性が知れ渡ることとなった。だが……その対策はあまり進んでいない。


 無数にあるダンジョンの内、いつどこで逸脱種が発生するかは未知数。データが少なすぎるために、予想を立てることすら困難。どうしても、対応が後手になってしまうのは仕方のないことだった。


 一先ず、高ランクハンターたちには、定期的なダンジョンの巡回が命じられた。常に監視することはできないが、しないよりかは遥かにマシという判断からだ。


 そしてさらに、ハンターたちの援助の強化が始まろうとしている。もし万が一、日本でスタンピードが起きた際に、戦える者は多いほうがいいからな。



 ――さて、そんな中ではあるが、俺はAランクハンターへの昇級試験を受けることにした。



 Aランクハンターに求められるのは単純な武力だけではない。有事の際は、他のハンターたちをまとめる必要があるので、ある程度の指揮能力が必要なのだ。


 全体を俯瞰することができ、冷静に判断、そして適切な指示を出せる力。


 これがAランクハンターには求められる。


 そんな訳で、Aランクへの昇級試験には、集団戦が含まれる。同じBランクのハンターを率いて、Bランクダンジョンを踏破する。これが合格条件だ。


 ただし、パーティを組む相手は、他のギルド・・・・・のハンターに限られる。つまり会って間もないハンターたちをまとめ上げることが要求されるのだ。


 このパーティを組む相手を協会が見繕うのが、意外と時間がかかる。各ギルドには積極的な協力が要求されているが、それでもまずは適切なハンターを協会が見つけ、そのギルドマスターに依頼する必要がある。


 この依頼も、必ず受けなくてはならないわけではないし、当然断られる可能性もある。


 こういった事情もあり、昇級試験を受けたいと協会に伝えても、実際に試験を行えるのは半年後ということもザラにある。



 ……のだが。



「……まさか、申請から2週間後に試験を受けられるとは」



 今回協力してくれるギルドは、氷華の二つ名で知られる露崎蒼がマスターを務める、ギルド蒼牙。少し前に俺を襲撃してきた男が所属していたギルドだな。



「昇級試験の手伝いぐらいは、私たちにやらせていただかないと……」


「あー、前にも言ったが、取り繕わず気楽に話そうぜ」


「む……」


 ちょっと不服そうな顔でこちらを見つめる露崎さん。


 俺は今、蒼牙のギルド本部にお邪魔しているのだ。これから蒼牙のBランクハンターをお借りするわけだから、その挨拶とマッチングが目的だ。


「はぁ……まぁ、今は私たち2人しか居ないから、そうさせてもらうわね?」


「うんうん、その方が俺は好きだな」


「そう? ……私が演技してるってこと、他の人に言ってないでしょうね?」


「そう心配せずとも、口外はしていないさ。二人っきりの秘密ってわけだ」


 俺は微笑みながら、パチリとウインクをした。


 そんな俺のキザな態度に、露崎さんは少し顔を赤く染める。


「……本当に顔がいいわね、あなた。女の私でも見惚れちゃうわ」


「男女問わず注目されるのは好きだが、どうせ見惚れられるなら――あんたみたいな美人がいい」


「……ねぇ、今私のこと口説いてるの?」


「ただの本心さ」


 露崎さんは確か今年で34歳。前世の俺が死んだ時点で35歳であり、転生してからさらに5年経って、実質40歳なのだが……はっきり言おう。ストライクゾーンど真ん中である。


 だが、俺の肉体年齢は露崎さんの半分以下。そして残念ながら女だ。これでは落とせるものも落とせない。


「俺はあんたと、友達になりたいと思ってるんだよ」


「……友達」


 そこで露崎さんはフリーズした。


 なんだ? 別に変なことは言っていないと思うが……まさか?


「つかぬことをお聞きしますが……もしかしてぼっち?」


「……違うし。別に友達いるし」


「……涙拭けよ」


「うっさい。ちょっと私生活よりも仕事を優先してただけだもん」


「……そうだな、仕事は大事だもんな」


「憐みの目でこっち見んな」


「今まではぼっちだったかもしれないけど、大丈夫。もう俺たち友達だから。ぼっちじゃないから」


「ぼっちぼっち言うな! ただ、私はクールなイメージを保たないといけないから、気を緩めなくてね!」


「うんうん」


「だから、これは別に私がコミュ障ってわけではないの! 分かる!?」


「うんうん」



 ……それからしばらく、俺は愚痴のようなものに付き合った。


 そしてその過程で、俺たちの仲は深まり、俺たちは互いに下の名前で呼び合うことになった。



「……ずいぶん話し込んじゃったわ。時間的にそろそろ、巧美と彼らを合流させないとね」


「俺と一緒にダンジョンへ向かうBランクハンターのことか?」


「ええそうよ。彼らは今、訓練場にいるわ。試験官として協会から派遣された人も一緒にいるはずよ。私が案内するわ」


「ギルマスの蒼直々の案内なんて恐縮だなぁ……」


「よく言うわ。別にこのぐらい、友達・・として当然よ」


 むふふ、とドヤ顔を決める蒼。


 ……友達ができて、はしゃいでいる34歳児。可愛いかよ。




 ――そして俺は、今回ともにBランクダンジョンへ赴くハンターたちと対面したのだった。



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