第31話 アメリカで逸脱種が暴れているようです。



 国土面積3位を誇る大国――アメリカには、日本の10倍以上のダンジョンが存在する。それだけ多くのダンジョンがあると、その中には当然、不人気のダンジョンもある。


 そんな不人気ダンジョンの1つが、Labyrinthine Beehive迷宮蜂の巣である。そのダンジョンに現れるスティンガービーは、優れた素早さと集合知による連携が非常に厄介なBランクモンスターである。


 そのダンジョンの立地も不人気さに一役買っているが、最も重要な理由が、ボス戦である。


 基本的にダンジョンのボスは、ハンターが現れると手下を召喚する。その手下を殺したとしても、しばらくすると、またボスは新しく手下を召喚することができるのだ。


 このダンジョンのボス――通称女王バチは、そのいわばクールタイムが非常に短い。


 次から次へとスティンガービーを召喚していき、しかもその連携が非常に巧み。


 他に倒しやすい魔物はいくらでもいるのだから、わざわざこんなダンジョンに行く人はほとんどいなかった。




 ――だからこそ、ダンジョン内で起きている異常事態・・・・に、誰も気づかなかったのだ。









 蜥蜴人の迷宮を初めて踏破してから2か月が経った。


 この間に俺は、Bランクハンターへ昇級することができ、ついに道田と同じランクにまでなった。


 だが、魔力量で比較すると、まだ道田には及ばない。同じBランクハンターだとしても、このように実力差はかなりあるらしい。Aランクハンターになるのは面倒だからな。


 次のランク、Aランクハンターになるには、Bランクモンスターをソロで倒せる実力だけでは、まだ不十分なのだ。Bランクまでは実力さえ認められれば昇級できるが、Aランクハンターになるには、別の審査を通らなければならない。


 Aランクハンターというのは、これまで以上に責任が増えることもあり、BからAへの昇級はかなりハードルが高い。


 ――まぁ、ここで焦る必要はないな。


 ランクがなかなか上がらないとしても、実力は確実に伸びている。ならば、後からランクもどうせ付いてくるだろう。



 配信が終わり、家でのんびりストレッチをしていると、珍しく洋介から連絡がかかってきた。



「おう、洋介。どうしたんだ?」


『……その様子だと、まだ見てないようですね。テレビを付けて、ニュースを確認してみて下さい』


「ん? 分かった」


 指示通りにテレビを付けてニュースチャンネルに切り替える。


 そこに映し出されていたのは――壊滅的被害を受けたアメリカの街並み。そして、地上を飛び回るスティンガービーの群れ・・だった


「なっ! まさか逸脱種がダンジョンの外に?」


『ええ……しかも最悪なことに、今回の逸脱種は、そこの女王バチです。そのボスが地上で手下を召喚し、このような事態になっています』


「おいおい、マジかよ……」


 想像の遥か上の事態だ。いつか逸脱種が地上に出てしまうことは想定していたが、まさかボスが地上に出て、手下を召喚するなんて……!


「それで、その女王バチは討伐できたのか?」


『現在、アメリカ最強の魔法使いを含むSランクハンターたちを動員し、対処に当たっています。もう間もなく討伐できるとは思いますが……ボスを倒しても手下は残ります。討ち漏らすと厄介です』


 そのニュースによれば、現時点での死者が約5000人。まさに、大災害だ。


「これだけ暴れているなら、女王バチもかなり魔力量が増えているんじゃないか?」


『ええ。すでに、Aランクの域すら超えている可能性もあります。ですが、アメリカも人材は豊富ですし、必ず討伐は可能でしょう』


「……ああ、そうだろうな」


 きっと、強化された女王バチであっても、討伐はできるのだろう。



 ――だが、なぜだ? なぜ、ここまで嫌な予感がするんだ……?



『おっ、ちょうどアメリカのSランクハンターたちが、女王バチの討伐に成功したようですね! あとは、掃討戦ですか……』


 その現場に赴いていた勇敢なカメラマンにより、その光景が撮影されていた。おそらく、このカメラマンも、高ランクハンターの一人なのだろう。


 そしてSランクハンターの操る業火によって、女王バチが消滅・・したシーンが映し出された。


 その後、中継に切り替わり、ハンターたちの雄姿を讃えているようすが映された。



『あれが、アメリカ最強の魔法使い……さすがの実力ですね』


「そう、だな……」



 ――なんだ? なにに対して俺は今、違和感・・・を抱いた?



 女王バチが消滅するのは、ダンジョンで魔物を殺したときと同じだ。この前の逸脱種だって、殺せば消滅した。だから、これは、不自然なことでは――



「――魔石は?」


『はい? どうかしました?』


「おい! 今、女王バチの魔石はドロップしなかったんじゃないか!?」


 魔物を殺せば、魔石が残り、消滅する。ボスだってこれは例外ではない。


 ただ、ボスの場合は、宝箱というおまけが付いてくるが。


「本当に、女王バチは殺せたのか?」


『……確かに、それはおかしいですね。召喚された手下を殺したときは、魔石が残ったという話ですし』


 中継に映っている、赤毛の女性――アメリカ最強の魔法使いと呼ばれる彼女も俺と同じ違和感を抱いたのか、周りのハンターたちに魔石は見つかったかと聞いている。



 ……とそこで、速報が入ってきた。



 迷宮蜂の巣を取材していた報道陣からの、最悪・・の連絡だった。




 ――女王バチが、"迷宮蜂の巣"の第一階層にて復活した。



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