Another World



 ――耳をつんざく銃声が鳴り響く。


 その弾丸にを貫かれた鈴木巧は、腹部を抑えながら倒れ伏した。



「巧さん!」


 西園寺彩を守るように抱きしめていた、西園寺薫が叫ぶ。



『クソがッ! こんな奴が護衛してるなんて聞いてないぞ!』


 巧を撃った男は、英語で悪態をついた。


 子供1人を攫うだけという、簡単な仕事だったはずなのに、まさかここまでしてやられるとは、男は思ってもみなかったのだ。



『念のため、隠れながら待機しておいて正解だったな。おい、お前ら! さっさと起きやがれ!』


 男は気絶している仲間を蹴り、目を覚まさせようと試みる。


 ――と、そこへ、パトカーのサイレンが近づいてきた。


『チッ! お早い対応だな、クソがッ! もういい。こいつら見捨てて、さっさと逃げるか』


 男は誘拐を諦め、1人車に乗り込んでそのまま逃走を始めた。



「……巧さん! しっかり! 巧さん!」


 薫は必死に巧の腹部を圧迫し、声をかける。


 だが、その応急処置を無意味と否定するように、血は大量に流れ続ける。


 そして彩は、その様子を唖然とした様子で眺めることしかできなかった。



 その時、少し離れたところから、大きな衝撃音・・・・・・が鳴り響く。




 その後パトカーが到着し、少し遅れて救急車が到着した。



 そして、巧は救急病院へ緊急搬送されたのだった。









 その頃、西園寺洋介は、アメリカの大手企業と商談を進めていた。


 あともう少しで話がまとまるという時、プライベート用の携帯から着信が鳴り響く。


 洋介が確認すると、それは妻の薫からの電話だった。


 この番号を教えている人はごくわずかだ。親友の巧もこの番号を知る一人だが、巧は滅多に電話をかけてこない。



 ――嫌な予感がします。



 今日は大事な商談があることを、洋介は薫に共有していた。



 ――それにもかかわらず、薫は電話をかけてきました。何かあったと考えてしかるべきです。



 商談相手に一言伝え、洋介は退室後、その電話に出た。



「もしもし、薫。一体、何があったのですか?」



『……ごめん、なさい……私……っ!』



 携帯から聞こえてきたのは、泣いているのか、震えた薫の声だった。


 薫の泣いた声を滅多に聞いた覚えのない洋介は、焦りを募らせる。



「何が、何があったのですか……?」


『巧さんが……っ! 私たち、襲われて……それを、守るためにっ――』



 薫はここで声がつまった。だが、洋介に伝えなければならないと、息を吸い、覚悟を決めた。



『巧さんが、撃たれました……っ!』




「……な、え?」



 ――撃たれた? 誰が? ……巧が?



『今、巧さんは、救急病院へ、緊急搬送されました……っ』



「――ッ! どこの病院だ!」



 洋介は薫からその病院名を聞くと商談を切り上げ、急いでそこへと向かった。



 だが――



「そん、な……」



 ――洋介がついた時には、すでに巧は命を落としていた。



「あぁ……あぁああぁあああ"あ"あ"ッ!」









 その翌日、日本から荒河武雄がアメリカへと訪れた。



「誰だッ! 誰が、巧を殺したッ!?」



 目を真っ赤にした武雄は、洋介へと詰め寄る。



「……それを聞いてどうするおつもりで?」


「決まっておるッ! がその首を討ちとってくれるッ!」


「……無理なんです」


「俺が負けるとでもッ!?」


「もう! そいつは死んでいるんですッ!」



 あの男が逃げた少し後に、薫と彩が聞いたあの衝撃音。あれは、あの男の車が派手に衝突事故を起こした音だったのだ。


 その後、車は大炎上し、男の死体は酷い有様になったらしい。



「なん、だと……なら、この怒りは! 悔しさは! どこに向ければ……ッ!」





 日本が世界に誇る、アクション俳優――鈴木巧。彼がアメリカで射殺されたというショッキングなニュースは、あっという間に知れ渡ることになったのだった。



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