Another World
――耳をつんざく銃声が鳴り響く。
その弾丸に
「巧さん!」
西園寺彩を守るように抱きしめていた、西園寺薫が叫ぶ。
『クソがッ! こんな奴が護衛してるなんて聞いてないぞ!』
巧を撃った男は、英語で悪態をついた。
子供1人を攫うだけという、簡単な仕事だったはずなのに、まさかここまでしてやられるとは、男は思ってもみなかったのだ。
『念のため、隠れながら待機しておいて正解だったな。おい、お前ら! さっさと起きやがれ!』
男は気絶している仲間を蹴り、目を覚まさせようと試みる。
――と、そこへ、パトカーのサイレンが近づいてきた。
『チッ! お早い対応だな、クソがッ! もういい。こいつら見捨てて、さっさと逃げるか』
男は誘拐を諦め、1人車に乗り込んでそのまま逃走を始めた。
「……巧さん! しっかり! 巧さん!」
薫は必死に巧の腹部を圧迫し、声をかける。
だが、その応急処置を無意味と否定するように、血は大量に流れ続ける。
そして彩は、その様子を唖然とした様子で眺めることしかできなかった。
その時、少し離れたところから、
その後パトカーが到着し、少し遅れて救急車が到着した。
そして、巧は救急病院へ緊急搬送されたのだった。
◇
その頃、西園寺洋介は、アメリカの大手企業と商談を進めていた。
あともう少しで話がまとまるという時、プライベート用の携帯から着信が鳴り響く。
洋介が確認すると、それは妻の薫からの電話だった。
この番号を教えている人はごくわずかだ。親友の巧もこの番号を知る一人だが、巧は滅多に電話をかけてこない。
――嫌な予感がします。
今日は大事な商談があることを、洋介は薫に共有していた。
――それにもかかわらず、薫は電話をかけてきました。何かあったと考えてしかるべきです。
商談相手に一言伝え、洋介は退室後、その電話に出た。
「もしもし、薫。一体、何があったのですか?」
『……ごめん、なさい……私……っ!』
携帯から聞こえてきたのは、泣いているのか、震えた薫の声だった。
薫の泣いた声を滅多に聞いた覚えのない洋介は、焦りを募らせる。
「何が、何があったのですか……?」
『巧さんが……っ! 私たち、襲われて……それを、守るためにっ――』
薫はここで声がつまった。だが、洋介に伝えなければならないと、息を吸い、覚悟を決めた。
『巧さんが、撃たれました……っ!』
「……な、え?」
――撃たれた? 誰が? ……巧が?
『今、巧さんは、救急病院へ、緊急搬送されました……っ』
「――ッ! どこの病院だ!」
洋介は薫からその病院名を聞くと商談を切り上げ、急いでそこへと向かった。
だが――
「そん、な……」
――洋介がついた時には、すでに巧は命を落としていた。
「あぁ……あぁああぁあああ"あ"あ"ッ!」
その翌日、日本から荒河武雄がアメリカへと訪れた。
「誰だッ! 誰が、巧を殺したッ!?」
目を真っ赤にした武雄は、洋介へと詰め寄る。
「……それを聞いてどうするおつもりで?」
「決まっておるッ!
「……無理なんです」
「俺が負けるとでもッ!?」
「もう! そいつは死んでいるんですッ!」
あの男が逃げた少し後に、薫と彩が聞いたあの衝撃音。あれは、あの男の車が派手に衝突事故を起こした音だったのだ。
その後、車は大炎上し、男の死体は酷い有様になったらしい。
「なん、だと……なら、この怒りは! 悔しさは! どこに向ければ……ッ!」
日本が世界に誇る、アクション俳優――鈴木巧。彼がアメリカで射殺されたというショッキングなニュースは、あっという間に知れ渡ることになったのだった。
******************************************************
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたなら【フォロー】【応援】【★★★のレビュー】などをしていただけると嬉しいです!
皆さまの評価が執筆の励みとなっていますので、今後もよろしくお願いします!
******************************************************
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます