閑話 凡人ハンターの場合



 俺は福原ふくはらつかさ。高校を卒業した俺は、早速ダンジョン協会へ行き、Eランクハンターとなった。


 ――これで俺もハンターの仲間入りだ!


 ここから俺の英雄譚が始まるような、そんな予感がした。



 ダンジョンで魔物を狩るに、武器は必須。そこで俺はハンター御用達のお店を訪れた。西園寺財閥という誰もが知る有名なグループが経営するお店だ。


 ここの武器や装備品の質は非常に高く、俺みたいな初心者から一流のハンターまで、様々なニーズに応える品揃えが評判と聞く。


 早速展示されている武器を見てみたのだが……


「え、高ッ!」


 俺が買いたかった長剣は、1番安くとも10万円を軽く超え、とてもじゃないがポンと買えるものではなかった。


「むむむ……」


 ヤバい。何を買えばいいのか全然分からん。


 しばらく悩んでいると、店員さんが俺に話しかけてきた。


「武器をお求めでしょうか?」


「は、はい。えっと、昨日ハンターになったところで……」


「なるほど。でしたらまずは、こちらの短剣はいかがでしょうか。長剣よりも安く、ハンターになってすぐはこちらをお使いになる方が多いですよ」


「わ、分かりました。なら、これを買います」


「武器以外の装備品等は既にご用意なさっていますか?」


「いえ、まだです」


「でしたら、こちらの――」



 結局俺は、勧められるがままに、商品を買っていった。


 これも必要経費だ。別に痛い出費ではないからな! ……たぶん。




 さて、準備は整った。


 とりあえず俺は、1番家から近いEランクダンジョンの小鬼の迷宮を訪れてみた。


 Eランクダンジョンなのだから、俺でも戦えるはず……。


「とりあえず、下に向かう階段を探すか」


 特に目標もなく歩き続け、なんとなく角を曲がると、そこにはゴブリンが居た。


「ひっ!」


 ゴブリンは俺に向かって、躊躇なく棍棒を振る。


 予期せぬ戦闘開始に俺はどうしたらいいのか分からず、怖くなって目をつぶった。


「痛いッ!」


 たまたま左手に持つ盾に棍棒が当たったが、それでも左手が痺れるほど痛い。


 そしてその衝撃に、俺は尻もちをついた。


 ――こんなのどうやって勝てばいいんだよ!


 腰が抜け、立ち上がることが出来ない。


 そんな俺をゴブリンは見下ろし、棍棒を振り下ろした。


「ひぃっ!」


 俺は咄嗟に、頭を守るようにうずくまった。


 ――痛い、痛い、痛い! ヤバイ、このままじゃ死ぬ!


 ……そこでふと俺は、ポケットに入れていた物があったことを思い出した。


「ッ! これでもくらえ!」


 それは、先日勧められるがままに買った爆発石。


 それをゴブリンに投げつけた。


 ――ドンッ! という衝撃に俺も巻き込まれ、俺は吹き飛ばされた。



「……痛い」



 なんとか身体を起こし、ゴブリンを見ると、そこには魔石のみが転がっていた。



「……ははっ、やってやったぞ。ちくしょう」


 ――あぁ、そういえばポーションも買っていたな。


「おー、こりゃ凄い!」


 1番安いポーションだったが、それを使うだけで打撲の痛みが無くなった。


「きょ、今日はこの辺で帰るか」



 魔石を拾い、俺はダンジョン協会へと向かった。魔石を買い取ってもらわないといけないからな。


 こんなに苦労したんだから、高く買い取ってくれると思ったんだが――


「えっ!? こんなに安いんですか!」


「はい。ゴブリンの魔石は込められた魔力量も少なく、このお値段となります」


 まさかのたった500円。


 今日は爆発石もポーションも使ってしまったので、大損である。


 俺はとぼとぼと帰宅した。




「クソッ……ハンターは稼げるんじゃなかったのかよ!」


 はぁ……少なくとも爆発石を使わず、ポーションも使わずに勝てないと、プラスになるはずがない。


 このままだと、家賃も払えないぞ……。


 親には、大学に行かず就職もしないと宣言している。親は大反対したが、俺は絶対になんとかなると言い張り、結局喧嘩別れしてしまった。


 今更、親から仕送りを貰うこともできない。



「ちくしょう……」



 それからしばらく、俺は毎日小鬼の迷宮へ行った。


 毎回順調にゴブリンを殺せるはずもなく、俺は1度本気で死にかけた。


 だが、たまたま近くにいたDランクの先輩ハンターたちに助けてもらい、それから色々な話を教えてくれた。


 そこで知ったのだが、初心者に小鬼の迷宮は荷が重いらしい。同じEランクダンジョンとはいえ、レベル差は確かにあり、最初はスライムといったゴブリンより弱い魔物を狩るようするのが定番のようだ。


 また、ソロで攻略するのは無謀であり、パーティを組むのが一般的らしい。


 そして先輩たちに基礎的な戦い方を教えてもらいつつ、魔物と戦うこと2か月。


 俺はついに、魔力を感じることができるようになった。


 収入は相変わらず厳しいが、確実に成長できているし、飯まで奢ってくれる先輩たちには感謝しかない。


「先輩たちはどうして、こんなに俺を手助けしてくれるんですか?」


 一度俺は先輩たちにそう聞いたことがある。すると先輩はこう答えた。


「俺らも、初心者の頃はお前と同じように、先輩に色々助けてもらっていたからな」


 俺もいつか、そんなことを後輩に言えるようになるのだろうか……。



 一先ず、一人前のDランクハンターを目指して、これからも頑張っていこうと思う。



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ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


巧美はサクッとランクを上げていますが、多くのハンターはこんな感じです。


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