第27話 ダンジョン研究家と出会ったようです。



 そこは、闇だけが広がった空間だった。漆黒の闇の中でただ1人、男だけが存在している。



「――ようやく、ここまで回復できたか……」



 男は、身体の調子を確かめ、今後の計画を考える。


「ったく、日本にはとんでもない化け物が居るんだな。あれを相手にするのは、今の俺にはまだ厳しい……」


 まさか、パスを逆に利用されて攻撃を食らうとは、この男は想像だにしていなかったのだ。



「その辺の雑魚を駒にしても、意味はない……だが、強者を駒にするには、少し距離がありすぎる。――フハッ! ハハハッ! ハハハハハッ! 結局俺は、待つしかないのか! ただここで!」


 男は狂ったように笑い、叫ぶ。



「おい! 見ているんだろう! クソったれな神様よぉ! てめぇの願いは叶いそうかい!?」


 その男は思いのままに、魔力を開放し、黒き翼を顕現させた。



「この世界には、てめぇのわがままできっと異変が生じるだろうさ! だが、そんなこと俺は知ったこっちゃねぇ!」


 上を睨むように見上げる男は、激情を露わにする。



「俺は必ず、自由になってやる! いつまでも、てめぇらの駒のままで居られるか! すべて、自分の思うようにいくと思うなよ! クソがッ!」



 英語・・で叫ぶ彼に反応する者は、やはりどこにもいなかった。









「まさか、ダンジョン協会の会長に呼ばれるとはな……」


 俺たちは先日のダンジョンで発見された特殊な魔物について、直接会って話してほしいという要望を会長から受け、ダンジョン協会本部に向かっていた。


「そういえば、巧美ちゃんはまだ会ったことないんだっけ?」


「まともな奴だから、そう気負わんでよいぞ」


「いや、別に緊張はしてないけどさ」


 ダンジョン協会、会長――龍口たつぐちただし。ダンジョン発生時から精力的に活動しており、同じく黎明期から活動していたオヤジとは旧知の仲らしい。


 ダンジョン攻略にも手を出しており、確かAランクハンター相当の実力は持っているとか。


 なんにせよ、どんな人か楽しみだな。



 そんなことを考えつつ、俺たちは龍口会長が待つ部屋へと向かった。


「よぉ、龍口。元気そうじゃな?」


「ははっ。まだまだ荒河さんと比べたら若いですからね。そして――君が例の娘さんだね?」


「初めまして、荒河巧美です」


「ああ、初めまして。ダンジョン協会の会長をしている龍口正だ。君のオヤジさんには随分とお世話になっているよ。それから、西園寺さんもお久しぶり」


「こちらこそお久しぶりです、会長」


 確か今年で54歳だったか? ハンターとしても一流なだけあって、50代とは思えない肉体をしているな。


「さて、どうぞ座ってくれ。本題に入る前に1人、君たちに紹介したい人が居るんだがいいだろうか?」


 俺たちは勧められるがまま席に座る。


 それにしても紹介したい人、ねぇ……。


「別に構わんが、そやつは今どこにおる?」


「別室に待機しております。呼んでもよろしいですか?」


「ああ、呼んでくれ」


 一体誰が来るのだろうか?


 俺たちが疑問に思っていると、バタバタという足音が近づいてきた。どうやら走っているらしい。


 そのままの勢いで、扉を豪快に開く。


「やぁ! 初めまして! 私は戌亥いぬい美里みさとだ! よろしく!」


 現れたのは白衣を身にまとった、スタイルの良い長身の女性だった。


 俺たちがその勢いに呆気に取られていると、龍口会長が額に手を当てながら、紹介してくれた。


「彼女はダンジョンに関する研究を行っている人でね。今回の件でも知恵を貸してくれるだろう」


「さぁ! あの魔物と出会った時の話を聞かせてくれ!」



 ちらりと彩姉を窺うが、どうやら説明は俺に任せるらしい。



「分かりました。あれは俺たちが第14階層を探索していた時のことなのですが、その階層には相応しくない強い魔力反応を感知しました。気になった俺たちはそこへ向かうと、ちょうどハイリザードマンが、リザードマンの群れの最後の1体を殺すところだったのです」


「たしか、第14階層はリザードマンが4,5体の群れで現れる場所だったね?」


「ええ、その通りです。そしてリザードマンを殺したハイリザードマンの魔力量が、明確に・・・増加していました」


「闇魔法で魔物を操ったという線はないかね?」


 龍口会長が戌亥さんに尋ねるが、戌亥さんは首を横に振った。


「確かに、闇魔法を使えば魔物や人を操ったりすることができる! だが、魔物が魔物を殺すことはできない! これは操られた魔物であっても同様さ!」


「なるほど……」


「それにしても、先ほど魔力量が明確に増加したと言ったな! それほど魔物が一気に魔力を吸収したということだな! その吸収率が気になるな……おそらく、かなり高いはずだ! あとで君たち2人には、その吸収率の推定に協力してもらうぞ!」


「分かりました。先ほどの話を続けても? ……ハイリザードマンからはとてもCランクとは思えない魔力量を感じました。そして試しに、こちらの彩にそのハイリザードマンを第15階層に投げてもらったのですが、何事もなく、階層間を移動しました」


「……なるほど。そして最後は西園寺ハンターが仕留めたと」


「その通りです」


「やはり、階層間の移動ができるようになったと考えるべきだな! もしかしたら地上にも出れるかもしれん!」


「そうなると厄介ですね……」


 もしも高ランクのモンスターが今回のように、階層間の移動と同士討ちができるようになったら。そして、魔物を殺して強化された状態で、地上に出ることになれば。そうすれば、相当な被害が出るだろうな。



「……これは他言無用に願いたいのだが、実は階層間を移動し、魔物を殺す魔物の存在は、1件確認されているのだ。日本ではないのだが、つい2週間ほど前のことだ」


「これからそういった魔物が頻繁に現れるかもしれない、龍口はそう考えておるということかの?」


「その可能性は十分に考えらえるかと」



 ……マジか。


 いや、予想していたことではあるのだが、他にも同じ事例があったと聞くと驚きもする。



「一先ず、その魔物を逸脱種と呼称することにしようか! さて、話は一旦ここまでにして、早速だが私の研究室に来てもらおうか! 魔力の吸収率の推定をしてみよう!」



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