第26話 魔物に異変が生じたようです。



 烈火での収録が終わってから、俺は再び豚頭の迷宮に行き、タイムアタックに挑戦した。3日ほど通うと、20分を余裕で切れるようになり、俺はCランクハンターへの昇級試験を受けることにした。


 さすがにずっと、豚頭の迷宮に通うわけにはいかないしな。そろそろ狩場を変える必要がある。



「――ということで、Cランクハンターになったぞ」


〈おめでとう!!!〉

〈あっという間にCランクまで上がったなぁ〉

〈もう豚頭の迷宮も卒業か~〉

〈烈火とのコラボ動画見たよ!〉


「もう見てくれた人もいるようだが、先ほど烈火とのコラボ動画が公開された。概要欄にリンクを貼ってあるから、この配信が終わったら見てくれよな」


 公開されてから、まだあまり時間は経っていないが、視聴回数の伸びはいい感じだな。これを機に、俺を知る人が増えるとありがたい。



「さて、ということで今日のダンジョンはこちら、Cランクダンジョン――"蜥蜴人の迷宮"だ!」


 リザードマン。全身を覆う固い鱗が特徴的で、比較的高い知能を有する魔物らしい。


 どんな魔物か楽しみだな。



「よし、それじゃあ行くぞ?」



 第1階層を通り過ぎ、第2階層に到達する。


 これまでのダンジョンと異なり、地面が少しぬかるんでいる。そして、湿度も高い。


「あれがリザードマンか……」


 槍を手に持つリザードマンからは、オークロードと同等の魔力量を感じる。


 これなら余裕だな。


「ガァア!」


 こちらに気づいたリザードマンが、ぴちゃぴちゃと音を立てながら接近してくる。


「おっと」


 さすがはCランクダンジョン。普通の戦士っぽい魔物からも、魔法が飛んでくるのか。


 俺は放出された水の玉を切り捨て、前進する。


 近づいてきた俺に対し、リザードマンは鋭い突きを連続で放つ。


 それらすべてをかいくぐり、俺の間合いに入る。


 そのまま抜刀しようとしたが、リザードマンはくるりと回転し、その大きな尻尾で攻撃してきた。


 まともに食らっては、かなりのダメージを貰ってしまうだろう。


 だが――予備動作が少し大きいな。


 前に飛び上がることでそれを回避した俺は、リザードマンの首めがけて抜刀。


 鱗が固く、両断することはできなかったが、十分斬ることはできた。


 そしてリザードマンは魔石を残して消滅したのだった。



「よし、十分に戦えそうだな」


〈さすがお嬢〉

〈Cランクのモンスターは、Cランクハンターのパーティと同じ戦力という当たり前のことを忘れてはいけない〉

〈オークロード相手にソロで勝ってる時点で、Cランクハンターの力はすでに超えてるんだよなぁ〉


「この調子で、行けるところまで行こうか!」









 ダンジョン攻略を進めて、現在、第14階層に到達した。


 第10階層からは、リザードマンが群れで現れるようになり、少し難易度は上がったが、なんとかここまで進むことができている。


 だが、配信時間と俺の体力的に、キリのいい第15階層に着いたら、今回は引き返そうかね。



 ――そんなことを考えていると、これまでに感じたことがない、強大な魔力の反応を感知した。



 どういうことだ? これほど強力な魔物は、この階層では出現しないはず……。



「強い魔力の反応を感知した。何が起きているのか気になるから、確かめに行くぞ」



 そう言って向かった先には、見たことのない光景が広がっていた。



「なっ……魔物の同士討ち・・・・だと!」


 そこにいた明らかに強い魔物、おそらくハイリザードマンが、リザードマンを殺すところだった。


 そして、明らかに・・・・ハイリザードマンらしき魔物の魔力量が増加した。


〈え、そんなことある?〉

〈は?〉

〈聞いたことないぞ、こんなの!〉


「彩姉、こんな事例は聞いたことあるか?」


「ううん、聞いたことない! それにあれはハイリザードマン。この階層には現れないはずだよ!」


 そう、不可解な点はその同士討ちだけではなかった。


 ハイリザードマンは第20階層以降に現れる魔物であり、第14階層で現れるはずがない。


 そしてなにより――


「あれは本当に、ハイリザードマンなのか? とてもCランクモンスターには思えない」



 纏う魔力量が、桁違いに大きい。


 今の俺だったら、ほぼ確実に勝てはしないだろう。



 ――ふと、この前、襲撃された日を思い出した。



 人が人を殺して吸収できる魔力の効率は、人が魔物を殺して吸収できる魔力の効率よりはるかに高い。


 これは吸収した魔力が、自身に適応させやすいため。



 そして魔物は、人を殺すことで成長する。つまり、魔物だって人のように倒した相手から魔力を吸収できるということ。



 ――ならば、魔物が魔物を殺したときに吸収できる魔力の効率は、かなり高いのではないだろうか?




「巧美ちゃん! 来るよ!」


「――っ!」


 ハイリザードマンから放出された、巨大な水の玉を、なんとか避けることに成功する。


 危ないな。気を引き締めないと……。


 リザードマンの魔法とは比べ物にならないほどの、威力、そして速度。



 ……これはマズイなぁ。



 なにより、これが今回だけの特別な事例であるという保証がない、ということがマズイ。



 ちらりと奥を見ると、そこには第15階層に繋がる階段があった。あそこから登って来たのかね?



「彩姉! あの魔物を第15階層へ叩き込むことはできる?」


「分かった、任せて!」



 彩姉はそう答えると、カメラを置いてあっという間にハイリザードマンの背後を取り、その尻尾を掴んで階段へと放り投げた。



「やっばぁ……」


〈彩姉強すぎwwww〉

〈お嬢引いてるやん〉

〈これがAランクハンターの力か〉



 そしてその魔物は、何の抵抗もなく下へと落ちた。


 普通の魔物なら、見えない壁にぶつかって、移動はできないんだけどな……。



「なるほど、階層間の移動と同士討ちができるようになった感じかね?」


〈いや、さらって言ってるけど、めちゃくちゃヤバイやん!!!〉

〈階層間の移動ができるんなら、もしかして地上にも出られるんじゃね??〉

〈いや、同士討ちで強くなって、かつ階層間の移動もできるとかキツすぎるって…〉



 コメント欄が阿鼻叫喚と化しているが、気持ちは分かる。俺だってあんなやつと遭遇したくないさ。


 だが、まあ……彩姉がいるし。今回は大丈夫だけど。



 魔力量を精密に測る機材とかも持っていないし、これ以上の検証もできないな。



「彩姉、その魔物倒しちゃって」


「え、いいの?」


「うん、今の俺だと荷が重いし」


「分かった」


 そう言うと、彩姉は弓を構え、火属性の魔法で作られた矢をつがえる。


 そして放たれた矢は、下に落ちたハイリザードマンの頭を一撃で吹き飛ばし、そのまま消滅させた。


「さすがだね」


「巧美ちゃんだって、そのうち出来るようになるよ」


「まあ、そうなるつもりではいるけど……」


 まだまだ、差は広いなぁ……。




 この配信はかなりの話題を呼び、世界中のハンターたちがこれに言及した。そして、かつてないほどの視聴回数を記録したのだった。



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