第25話 収録が終わったようです。
当然だが、これはあくまで企画の1つであり、殺す気で戦うわけではない。そのため武器も真剣は用いず、木製の武器を使って行われる。
池城さんはタンクとして活躍しているハンターであり、魔物の攻撃を引き付けるのが役割である。そんなこともあり、この企画では池城さんは左手に盾と、右手に木剣を装備している。
俺は自由に選んでいいらしいが、いつも使っている刀に近い木刀を手に取った。
「それでは只今より、神武所属の荒川Dランクハンターと烈火所属の池城Bランクハンターによる模擬戦を行います。時間は1分間です。両者、準備はよろしいですか?」
俺と池城さんは互いに目を離さず、首肯した。
「それでは――始めッ!」
新人配信者の実力を試すという企画の趣旨的に、先手は俺だ。
素早く身体強化を施し、緩急をつけながら距離を詰めていく。
あと一歩で間合いに入るという所でクルリと体を回転させ、木刀を身体に隠す。
足、膝、腰といった順に回転させて生じたその捻りに力を込め、一気に解放。
そして視認しずらいように、顔に目掛けて一直線に突いた。
「危ねッ!」
木刀の先端を、具現化した魔力で伸ばしていたのだが、残念、盾を用いながらのスウェーでギリギリ躱されてしまった。
接触した盾には外へ向かうような衝撃を与え、その反作用で木刀は中央に寄せていく。
池城さんは、崩れた重心を元に戻すために、右足を後ろに下げた。
それと同時に俺も左足を前に出し、内に戻した木刀に左手を右手の
盾を間に入れる時間は無いと判断した池城さんは、右手に持つ木剣を操作し、鍔迫り合いの形に持っていこうと同様に袈裟斬りをした。
――残念、ハズレだ。
「なっ……!」
右足を左足に寄せながら、肩甲骨から手首までを柔軟に使って木刀の先端を上向きにし、身体に寄せる。
右手と左手の距離が近いからこそ、少しの操作で大きな動きが出来る。振りにくいことこの上ないが、こんな時は両手を寄せるに限る。
そしてたったそれだけで、俺の木刀は池城さんの木剣を回避した。
即座に、右足で地面を蹴り、流れるように池城さんの背後を取る。
「シッ――!」
そのままバッサリ斬ってやろうかと思ったが、そこはさすがのBランクハンター。
バンッ! と地面が爆ぜ、池城さんは前方に転がり距離を取った。
ここで追撃するのは美しくない。
一旦仕切り直しだな――。
◇
いや、お嬢強すぎ。
卓越した技量を持っていることは配信を通じて分かったつもりになっていたけど、相対してみて改めて分かる、その巧さ。
さっきの攻防で俺は何もさせてもらえなかった。すべての対応が、お嬢に
俺がお嬢に勝っているのは、魔力量。これでゴリ押せば、勝機もあるかもしれない。
だけど――
「そんなダサい真似、出来ないよなぁ……」
相手がパワータイプだったら、それも良かっただろう。だけどお嬢は、圧倒的技量タイプ。
そして何より、これは配信する模擬戦だ。決して殺し合いではない。
一旦距離を取った俺に、お嬢は追撃の意思を見せなかった。なら――
「次は俺から攻めさせてもらうぞ!」
再びお嬢との距離を詰め、木剣による攻撃を始める。
身体強化の強度は全力ではないが、本気の攻撃なのは間違いない。
だけど――通じない。届かない。
どんな攻撃であっても、どれほど俺がフェイントを入れようとも、完璧に対応されてしまう。
だがそれは、俺を否定するような動きではなかった。
むしろ、俺の攻撃を引き出そうとしているかのような、
ああ――楽しいな。
それからも幾度か斬り合い、再び距離を取って仕切り直しとなった。
この攻防で分かったことがある。
それは、お嬢の器がとんでもなく大きいということ。
攻防の中で、俺は
相手を倒す技術だけではなく、相手を活かす技術。
その両方を、お嬢は高水準で身につけているのだろう。
さぁ、ここからはお嬢のターンだ。
俺もお嬢の攻撃を受けきれるといいなぁ……。
初手、お嬢はこれまで通りに距離を詰めてきた。
間合いまであと一歩。
ここから、何で来る……?
「――ライトボール」
ここに来て、今回初めての魔法。
一応想定はしていたので、すぐに目をつぶることができた。とはいえ少し目がくらんで、数瞬の間視界が役に立たなくなる。
この攻防における数舜は、それだけで命取りだ。
「そこッ!」
直前の記憶と
――よしッ!
回復しつつある視界にもお嬢のシルエットが見え、予想は当たったと思った。
だが――
「軽いッ!?」
木刀の手ごたえが、あまりにも軽かった。それこそ、木刀を持っていないかのようだ。
そしてあろうことか、お嬢の姿が
「まさか、幻影ッ!」
「――正解」
そんな声が聞こえたのと同時に、左脇腹に強い衝撃が与えられ、俺は吹き飛ばされた。
「――そこまでッ! 1分が経過したため、模擬戦はここまでです!」
――ああ、クソ。俺の完敗だな。
ジャスト1分でケリがついたことに、お嬢の作為的なものを感じずにはいられない。
時間配分も完璧ってか? 怖い怖い。
俺は立ち上がり、お嬢と向き直る。
吹き飛ばされはしたが、そこまでダメージはなかった。俺はタンクだから体が丈夫だというのもあるが、お嬢が手加減し慣れているような気もするな。
「池城さん、いい戦いだった。ありがとう」
「こちらこそ、やられっぱなしだったが、楽しかった。ありがとう!」
お嬢と俺は握手をし、そのままエンディングを撮影した。
そして俺たちは、いつかまたコラボすることを約束し、解散したのだった。
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