第24話 恒例の模擬戦が始まるようです。
「みなさん、ごきげんよう! さて、本日も期待の新人紹介の時間がやって来たぞ! 先ほどの挨拶に聞き覚えはあるかな? つい最近決まった挨拶ということで、まだ知っている人は多くないかもしれないけど――今回、コラボするのはこの方!」
「みなさん、ごきげんよう。ギルド神武所属の配信者、荒河巧美です。本日はよろしくお願いします」
収録が始まると、池城さんは明るいテンションで話し始めた。この辺りのオンオフの切り替えはさすがだな。
「こちらこそ、よろしくお願いします。みんなは少し前に、神武ギルド公式ダンジョン配信者の誕生が発表されて、話題になったのは覚えているかな? そんな今、注目を集めている配信者さんに今日は来てもらいました! 早速だけど、自己紹介をしてもらってもいいかな?」
「はい。改めて、荒河巧美と申します。所属は神武で、父がそのギルドマスターである武神、荒河武雄です。今はDランクハンターとして活動しています。視聴者の方からは、お嬢と呼ばれたりしているので、皆様もぜひ、気軽にお嬢とお呼びください」
「ありがとうございます。本日はこの"お嬢"の魅力を深堀りしていこうと思います! ところで、配信の時とは雰囲気が違いますね?」
「ええ、今回は先輩配信者とのコラボですからね。配信のような口調だとさすがに失礼かなと思いまして」
「……そうですか。俺としてはどっちでもいいんだけどね。さて、これからは配信者になろうと思ったきっかけから、お嬢の歴史を振り返っていく時間になります」
ちょっとしたボードが準備され、それを使ってこれまでの軌跡を辿っていく。まだ、配信者になってからは間もないから、配信者としてのエピソードはそこまで持ち合わせていない。
だが、まあ、配信者になる前までの修行の内容など、語れるものはたくさんあるから問題はない。
「――なるほど、ということは神武ギルドに入ろうとするのは、やはり極めて難しいということですね」
「はい。ギルドマスターに、ギルドの規模を拡大しようとする意識が芽生えない限りは、このままの体制が続くと思います」
「神武に憧れるハンターは多いですが、これは残念ですね」
こんな感じに神武についても語ったり。
「俺も何度か見たことはありますが、やはりこのボス戦は圧巻ですね。ハンターになって初日にやることとは到底思えませんよ」
「でも、面白いでしょう? 自分でもそれなりにいい戦いができたと思っているので、満足していますよ。この動画が伸びて、知名度のアップに繋がりましたしね」
「確かに、この切り抜きはかなり伸びましたもんね。あ、今のところ凄い動きがありましたよ! すこし巻き戻してください!」
こんな感じで、過去の配信を振り返ったり。
何度もこの企画をこなしているだけあって、池城さんの進行はかなり上手い。こちらの魅力を上手く引き出そうとしてくれているのが分かる。
「それではここからは、お嬢への質問コーナーです! 事前にうちで作成した質問表がこちらにあります。この中からどれを答えてもらうかは、お嬢にさいころを振ってもらって決める、いつもの形式となっています」
「どんな質問が飛び出してくるかビクビクしていますよ。それじゃあ、振りますね?」
出たさいころの目は、3番。
「3番が出ました! ということは、質問はこちらになります! 『お嬢は現役の高校生だと思うのですが、配信者を始めた時の周りの反応はどうでしたか?』そう言えば確かに、お嬢ってまだ高校1年生でしたね?」
「ええ、ですが、小中高と一貫の学校ですので、周りは顔見知りばかりです。私は昔からダンジョン配信者になると公言していたので、みなさん応援してくださいました」
「なるほど、いいご学友をお持ちのようで」
「ええ。最近では私のファンクラブを作ろうとする動きもあるようで、少し恥ずかしいですが、嬉しく思います」
「それだけ真っすぐ応援してくれるファンが、身近にいるというのは心強いですね」
それからもいくつか質問に答えていき、質問コーナーは終わりを迎えた――
「最後に俺からも質問してもいいですか?」
――はずだった。
台本にはない流れ。だが、池城さんが何を聞きたがっているのかは気になる。
「ええ、どうぞ」
「ありがとうございます。これまでお嬢と話してきて、配信とは違った、その話し方が極めて自然なものに見えました。とても演技だとは思えない。……お嬢、あなたの"本当の姿"はどちらなのですか?」
……なるほど。
どうも、池城さんは悩んでいるらしい。
その悩みが具体的に何なのかは分からない、が、なんとなくであれば想像がつく。
――なら少し、語るとしよう。
「多くの人たちは、人間を区切った最小単位が"個人"だと考えています。そしてその"個人"の中には"たった一つの本当の自分"なるものが存在していると……でも、実はそんなものは存在しないかもしれません」
少し考えてみれば、分かること。
「親と接するとき、気の置けない友と接するとき、上司と接するとき、部下と接するとき、愛する人と接するとき、嫌いな相手と接するとき……全ての態度が同じなはずはありません。極めて当たり前のことです」
にも関わらず、人はたった一つの本当の自分、ありのままの本当の自分が存在すると考えてしまう。
「こういった、
まあ、あくまで考え方の一つに過ぎないんだけどな。
「ですがその中でも、人に見せたい自分は何かと問われると……やはり
意識を切り替え、立ち振る舞いを変える。
椅子から立ち上がり、広場へと歩みを進める。
その悩みも分かるぞ? 俺も演技をし過ぎて、一時期、自分が何者か分からなくなったことがあるからな。俺も分かったようなことを話しているが、今まで言ったのは全部、その時に洋介から聞いた、分人主義と呼ばれるものの受け売りだ。
――でもまぁ、そんなことはさておきだ。
「さぁ、最後は俺との模擬戦だろう? 楽しもうじゃないか」
「……ふふっ。そうだね、ちょっと気が楽になったよ。お嬢、ありがとう。――やろうか、模擬戦」
少し吹っ切れたような表情を見せる池城さん。
俺の言葉に効果があったならいいけど……ほんとにただの受け売りだからなぁ。まあいいけど。
よし、台本に合流した。ここからは俺と池城さんが模擬戦をして、フィナーレだ。
せっかくBランクハンターに挑めるんだ。本気で楽しまないと損だろう?
この前襲ってきたやつと同じBランクハンターとはいえ、そう無様に負けたりはしないからな?
さぁ――これが俺の舞台だ。篤と御覧じろ。
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