第22話 コラボのお誘いが来たようです。



「……前の人がボス戦中か。一旦ストップ」


 ボス部屋への扉が閉まっていたので、俺はその手前で立ち止まり、カメラの方へ向き直る。


 誰かがボス戦をやっている時は、このように扉が閉まっているのだ。こんな時は、前の人が終わるまで待つしかない。


 ここまでノンストップで走り続けたので、さすがに息も乱れている。深呼吸を2度繰り返し、呼吸を整えてから、彩姉に話しかけた。


「彩姉も、一旦ストップウォッチを止めてくれ」


「うん、もう止めてるから大丈夫」


「そうか、ありがとう。ちなみに、今のタイムは?」


「今で、45分29秒だね」


「あーやっぱり、かなり時間かかってるな」


〈いや、早いて〉

〈1階層あたり3分切ってんのヤバイwwww〉

〈前回の3倍ぐらいのペース?〉


「前回は2時間ほどで踏破したから、まあ2.5倍ぐらいのペースか? 最終目標は20分を切ることだから、まだまだだ。もっと効率的に倒していかないと」


 出だしは良かったんだがな……。


「ただのオークは一撃で片付くが、まだハイオーク以上は無理だし、このボス、オークロードは特に時間がかかる。さすがはCランク・・・・モンスター、他とは格が違うね」


 Cランクモンスターが一体でも手を焼くのに、ダンジョンのボスは配下を召喚するかならぁ……。


「前回ボス戦にかかったのは10分ほどだっけ? 今回は5分以内で片付けたいな」


 ここまでの過程で、ある程度は魔力も吸収できたし、ギリギリいけるはず。


〈お嬢って広範囲攻撃は苦手やもんね〉

〈1人でボス戦挑んでるのが、まずおかしいって自覚しようか〉

〈大変やろうけど、頑張れ~〉


「……む、扉が開いたな。それでは入ろうか」



 中に入ると、そこは前回と変わらない空間だった。だが挑戦者が現れてから出現するはずのボスとその配下たるハイオークやオークマジシャンは、すでにそこに存在していた。


「あー、前の人負けたな?」


〈マジかよ〉

〈Dランクやし、たぶん転移玉持ってないやろ〉

〈たぶん殺されちゃったか~、マズイね〉


 何がマズイって、人が魔物を殺して成長するように、魔物も人を殺して成長するのだ。


 一回人を殺したぐらいなら、悪くとも強さが1.1倍になる程度だが、これが積み重なると大変なことになる。


 実際、Cランクのボスモンスターに挑戦者が殺され続け、ボスモンスターがAランク相当まで強化されてしまい、Aランクハンターが討伐に向かはなくてはならない事態が発生したことがある。


  一回討伐されると、新しく出現する魔物にはその力が引き継がれず元通りになるから、それで解決できるんだけどな。


 その魔物の強化を防ぐために、ハンターランクより上のダンジョンへ入ることは禁止されており、Bランク以上のハンターなら、転移玉は必ず携帯しなければならない。


 高ランクのモンスターが強化されてしまうと、それを討伐できるハンターが限られ、より重大な問題になるからな。


「……まあ、やることは変わらない」


 ちょっと魔力量が増えたぐらいで、俺は殺せんよ。


「それじゃあ、行くぞ?」









「あー、ギリ5分切れなかった! 悔しい!」


 あと2秒、あと2秒で5分切り出来たのに……!


〈ドンマイww〉

〈悔しがるお嬢すこ〉

〈5:01ってめっちゃ惜しいねwww〉


「絶対、行けただろ、これ。はぁ……」


 結局、タイムアタック初挑戦の結果は50分30秒。まあ、早さを意識した攻略は今回が初めてだったし、まあまあかな?


「10分休憩したら、もう1周始めるぞ。君らも今のうちに休憩しとけよ~」


〈はーい〉

〈画面ずっと見てたら、ちょっと酔った〉

〈休憩10分でいいとか、タフやな~〉





 それから10分後。


 俺は再び、豚頭の迷宮1階層から攻略を始めた。


 1回目より時短のコツが分かってきて、魔力量が増えたのもあるだろうが、いいペースでボス戦まで進むことができた。


 幸い、今回は通常のボスが相手だったので、5分を余裕で切ることができた。


 そしてその結果、32分12秒という好タイムを記録。


 30分を切ることは叶わなかったが、初日にしては十分だと判断し、今回はこれで配信を終えることにした。



「――また明日、30分切りを目指してここに来る。それではみんな、ごきげんよう!」


〈ごきげんよう!!〉

〈また明日、ごきげんよう!〉

〈ごきげんよう!〉





 そして帰宅後、一通のメールが届いていることを道田から告げられた。



「コラボのお誘い?」


「ええ、配信業で有名なギルド烈火はご存知ですよね?」


「ああ、それを見て挨拶を決めようと思ったぐらいだ」


「その烈火から、自分の番組に出ないかというお誘いが来ています」


「へぇ……ちょっと見せてくれ」


 烈火には複数の配信者がおり、それぞれが自分の番組をやっている。烈火はいわばテレビ局のような側面を持っているってわけだ。


 もちろん、大規模なギルドなだけあって、高ランクハンターもそこそこいる。


 何より、烈火のギルドマスターはSランクハンターだしな。



「期待の新人配信者を紹介する番組ねぇ……」



 とにかく面白そうと思った新人を発掘して、その魅力を発信するのが番組の趣旨らしい。それで今回、俺が選ばれたと。


 なるほど、生配信ではなく、しっかり打ち合わせしてから収録、編集を経て公開されるんだな。


「比較的評価の高いものでして、そこで取り上げられた新人が一躍、有名人になることもあるようですね。受けても損はないかと思いますが、どうなさいますか?」


「いいんじゃないか? いつかはコラボもやりたいと思っていたんだ」


「なら、そのようにお答えしておきますね。収録日時等の希望はどのようになさいますか?」


「特に希望はない。道田がいいと思うように組んでくれ」


「……かしこまりました。負担にならないように調整させていただきます」



 なんか、久しぶりに芸能人っぽいお仕事だな? ちょっと楽しみだ。



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