第21話 タイムアタックに挑戦するようです。



「――今更なんだが、始まりの挨拶、決めたくないか?」


〈第一声がそれかよww〉

〈確かに〉

〈こんにちは~〉

〈また豚頭の迷宮だ。お気に入り?〉


 ダンジョンでの戦闘に意識が向きすぎていて気が回っていなかったのだが、配信者というものは挨拶を決めるのが鉄板らしい。


 "烈火"という大規模ギルドがあるのだが、そこの配信業がかなり有名でな。他のダンジョン配信は見ないけど、烈火の配信は見るという人もかなりいるほどだ。


 まあ、そんな評判を聞いたから、実際に見てみて気づいたんだ。あ、俺挨拶決めてないやと。


「何か良い挨拶の案はあるか?」


〈こん○○、おつ○○の形が多いけどな~〉

〈こんたくみ、おつたくみ、みたいな?〉

〈お嬢っぽく、お勤めご苦労、とかどう?〉


 んー、別に悪くはないんだが……しっくりこないな。まあ、急に聞かれて、秀逸な意見を出せる人なんて、そうそういないか。


 SNSでアンケートを取るようにするか? それとも――


〈いっそ、お嬢様っぽく「ごきげんよう」でもいいんじゃね?〉


 ふと、1つのコメントが目に留まる。


 ごきげんよう。ごきげんよう、ねぇ……。


「お嬢様っぽくごきげんようって言うのはアリだな。何より、最初と最後のどっちでも使えるのが便利でいい」


〈いいじゃん。お嬢の"外見には"ピッタリやしwwww〉

〈いっきに、終わりの挨拶まで決めたぞww〉

〈じゃあ、リスナーもごきげんよう、って返したらいい?〉


外見には・・・・ピッタリな挨拶ってどういうことだ、おい。……まあいい。俺が『ごきげんよう』って言ったら君らも『ごきげんよう』って返してくれ。さて、準備は良いか?」


 意識、そして立ち振る舞いを変え、お嬢様っぽく見せる。


「みなさま、ごきげんよう」


〈え、誰???〉

〈お嬢どこ行った?〉

〈影武者さん清楚で可愛いね〉

〈ごきげんよう!〉

〈草〉


「おい、てめぇら。ちゃんと、ごきげんようって返せや」


〈あ、元のお嬢だ〉

〈びっくりしたー〉

〈お嬢、役者さんになれるよ、知らんけど〉

〈ごきげんよう!〉


「素直な一部リスナーを見習ってくれよ? まあ、挨拶の件はこれぐらいにして、本題に入ろうか。前回の配信でも言ったが、魔力量の増大。これが俺の課題だ。そこで今回は豚頭の迷宮タイムアタックに挑戦するぞ!」


〈おーー!!〉

〈タイムアタックか~〉

〈今回は、何周するん?〉


 ダンジョンでのタイムアタックは、第1階層をスタートしてからボスを倒すまでの時間を、いかに短くできるかを競うもの。効率的に魔物を倒し、効率的にダンジョンを進んでいく必要がある。


 高ランクハンターの方が早いのは確実なので、一般的には同ランクのハンターの記録を参考に競っていく形となる。まあ、最終的には自分との戦いになるのだが。



 魔力量を増やすには、格上の魔物を倒すのも有効だ。ただ現段階では、豚頭の迷宮を周回した方が効率的だろう。今の俺にとって、オークはまだ格下という位置づけではないからな。



「今日は手始めに2周してみようと思う。それを参考にして、明日以降の動きも考える。あと、タイムアタック中はほとんどコメントを見ることが出来ん。何か重要な質問等あれば、彩姉が対応すると思う」


〈了解〉

〈まあ仕方ないわな〉

〈タイムアタックがんば~!〉



 さて、前回の配信において、踏破にかかった時間は2時間。


 早さを重視しなかった時間がそれなら、最終目標は30分、いや20分にするか。この迷宮は20階層までだし、そっちの方が分かりやすい。



「彩姉、ストップウォッチの準備はいいか?」


「おっけーだよ」


「よし、それじゃあ、行くぞ? 3,2,1,GO!」



 身体強化魔法を施し、ダッシュで迷宮を駆ける。


 ルートは暗記しているから、あとは如何に減速せずにいられるかが勝負。



 っと、前方にオーク発見。別のハンターが戦っている様子もないから、俺の獲物だ。


 魔物を避けてタイムを計っている人もいるが、今回の趣旨は魔力量の増大だからな。可能な限り倒していく。



 オークは左から鉈を横薙ぎに振ろうとするが――遅い。


 振り始める予備動作をした時点で魔力を操作し、爆発的な速度を得て、飛び上がる。


 ちょうどいい位置にオークの首が来たところで、抜刀。


 確かな手ごたえを感じた俺は、振り向くこともなく、そのまま疾走を続ける。



〈はっっやwwww〉

〈止まるんじゃねぇぞ!!〉

〈あれ、魔石はどうするん?放置?〉


「魔石の回収は私が担当するので、ご心配なく」


〈え、カメラ持ちながらどうやんの?〉

〈もうさっきの所、過ぎちゃったで?〉

〈さすがにキツくない?〉


「いえ、魔石はこの通り回収済みですよ。魔力を第3の手のように具現化して、遠く離れた物を取る技術です。矢の回収もできるので便利ですよ」


〈あれ、離れるほど具現化って難しくなるんじゃなかった?〉

〈お嬢を追いつつ、カメラを構えつつ、魔石の回収もしつつ、コメントの対応もしてるってこと!?〉

〈マルチタスクの量エグイって〉


「こう見えて私、Aランクハンターなので」


〈見えないけど、ドヤ顔が見えるぜ〉

〈可愛い〉

〈でも、これはドヤっていい〉



 そう、これは俺と彩姉と実力が隔絶しているからこそ成り立つ配信だ。彩姉にはかなりの負担をかけてしまっているが「大丈夫」とのことだ。


 ……ちょっと悔しいな。いつか絶対に置き去りにしてやる。



「べ、別にドヤ顔なんてしてませんからね!?」



 振り向きたくなるような発言やめろよ。どんな顔してるか気になるじゃん。



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