第20話 蒼牙のギルマスが神武を訪れたようです。
「なあ、本当に俺もいなきゃダメか?」
今俺がいるのは、西園寺ビルの応接間。今から蒼牙のギルマスが直接謝罪に訪れるらしく、洋介から同席するように言われたのだ。
「当たり前でしょう。当事者としての自覚はないんですか、巧美?」
「いや、まあそうだけどさ……」
ぶっちゃけ、こういったお堅いのは苦手なんだよなぁ。
「これまでも私に任せっきりだったのですから、最後ぐらい巧美も同席すべきでしょう」
「そうじゃな。諦めて、真面目な顔でも作っておけ」
「……へーい」
今回オヤジは、神武のギルドマスターとして同席する。俺、洋介、そしてオヤジの3人が今回この場に出席するのだ。
さて、氷華と呼ばれる蒼牙のギルドマスターと対面するのは、これが初めてだ。ニュース等では見たことがあるのだが、果たしてどんな人だろうねぇ?
◇
私――
巷では完璧美人なんて言われているが、全く、これっぽっちも、そんなことはない。
人を率いるなんてもっての他だ。可能なら、さっさとギルマス辞めたいわよ。
「うぅ……胃が痛い。やっぱりお姉ちゃんにギルマスは向いてないって……」
「はぁ、姉さん。頼むから他の人がいる前で、そんなこと言わないでね?」
「分かってるわよ、まーくん」
「……あと、いい加減"まーくん"呼び止めてよ。普通に
私と同行しているのが、私の弟、
蒼牙の運営は、ほとんど弟任せで、姉はお飾りである。
私はただ、クールなできる女を演じているだけなのよ。
「あー、武神ってマジで怖いのよねぇ。やだやだ、会いたくない」
今回は、これまで対応してくれていた西園寺さんの他に、武神と被害者であるその娘が同席するらしい。
そしてその武神の娘は今、ダンジョン配信をやっているらしい。まだ動画を見たことはないけれど、写真を見る限り可愛らしい女の子だったわ。
武神の娘に手を出すなんて、本当になんてことをしてくれたのよ! あのお爺さんを怒らせたら大変なんだからね! ……まあ、加害者の子はもう死んじゃったんだけど。
「そんなこと言わないで。仕方ないでしょ? ギルマスが行かなかったら、舐めてると思われちゃうじゃん」
「それは、そうだけど……怖いものは怖いのよ」
あのお爺さん、ほんと理不尽だからね? 同じSランクだけど1対1で勝てる気がしない、正真正銘の化け物よ。やっぱり何か、バグってるんじゃない?
「まあ、気持ちは分かるけど、そろそろ気を引き締めてね。もう着くから」
「分かったわ、運転ありがとう」
「いいって、いつものことじゃん」
まーくんったら、照れちゃって。そんなところも可愛いわ。
……まあ、そろそろ気合を入れよう。
何年もポーカーフェイスは練習してきたし、今日も鉄仮面で突き通すだけ。
大丈夫。私がボロを出さなければ、まーくんが上手いことやってくれる。やるべきことは既に教えてもらったから、あとはいつも通りやるだけだ。
道田さんという人に連れられ、私たちは武神たちの待っているところへ連れられた。道田さんが扉をノックし、中から西園寺さんの返事が返ってくる。
そして道田さんが開けてくれたドアを通り、私たちは入室した。
――わっ、可愛い!
そこにいた武神の子、巧美ちゃんは画像で見るより何倍も可愛かった。正に
――って見惚れている場合じゃないわ。
「西園寺会長、本日はこのような場を設けていただき、誠にありがとうございます」
私は表情を引き締めたまま、西園寺さんに挨拶をした。
「いえいえ。こちらこそ、はるばるご足労いただきありがとうございます。どうぞ、お席にお座りください」
私たちは勧められるがまま、席に着く。
「うちの巧美とは、お二人とも初対面でしたよね? ご紹介いたします。こちら、武神、荒河武雄の養子である荒河巧美です。現在は神武所属のDランクハンターであり、神武ギルド公式の配信者として活動しております」
「初めまして、荒河巧美と申します。Sランクハンターとしてご活躍なさっている、露崎ギルドマスターにお会いできて光栄です」
――やだ、めちゃくちゃしっかりしている子だわ! 物腰柔らかな態度といい、魅力的な
「これはご丁寧にありがとうございます。初めまして、私は蒼牙ギルドマスターの露崎蒼と申します。そして、こちらが私の弟であり、私の補佐官の露崎雅哉です」
「初めまして、ギルドマスター補佐の露崎雅哉と申します」
そして巧美ちゃんと名刺交換をしたのち、本題に入った。
もちろん、これまでにも謝罪はしていたし、諸々のお詫びについても、何度も話し合ってきた。
今回はそれらのまとめとも言うべき場だ。
幸いにも、話し合いはスムーズに進み、彼らと完全に和解することができた。
「――それでは本日はありがとうございました」
そして私たちが立ち去ろうとしたとき、巧美ちゃんが私を呼び止めた。
「露崎ギルドマスター、最後に少しよろしいでしょうか」
「ええ、どうかなさいましたか?」
「男性の方の前で言うのは恥ずかしいので、その、お耳をお貸しいただけますか?」
――まあ! 一体なにかしら? まーくんのプライベート用の連絡先以外なら、なんだって答えるわよ。
私はしゃがんで、巧美ちゃんに耳を近づける。そして同時に、小規模な遮音結界を張った。
まあ、聞かれたくないということなので、念のためね。
「これで今、周りに音は聞こえません。それで、一体何の用でしょうか」
間近で見るとやっぱり可愛いわね……といった感想はおくびにも出さず、あくまでクールな役を演じ続け、巧美ちゃんの言葉を待つ。
「――そうか、ありがとう。また
「……え?」
いやいやいや、ちょっと待って? そっちの喋り方が素なの!? さっきまでと雰囲気が全然違うじゃない! いや、そうじゃなくて、今「お互いに」って言ったわよね?
……もしかして、演技なのがバレてる?
困惑する私にウインクをした巧美ちゃんは、さっと身を引き、それまでと変わらない雰囲気に戻った。
「それでは、また会いましょう。本日はありがとうございました」
「え、ええ……。それではまた」
なんとか平常心のふりをし、私は挨拶を終えた。
そして私たちは帰路に着いたのだった。
「――いや~、巧美ちゃんって、
「……え、配信ではどんな感じなの?」
「一人称が俺で、男口調な
「……まーくん、女って怖いわね。まーくんは、変な女に騙されちゃダメよ?」
「え、急に何言ってんの?」
巧美ちゃん油断ならない相手ね。……でも、まーくんは渡さないんだから!
「まーくんは、私が守る」
「だから、さっきから何言ってんの?」
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