第18話 武神の力は圧倒的だったようです。



「な、え……?」


「して、コヤツが犯人ということで、間違いないかの?」

「おう、そうだが、もうちょい早く来て欲しかったなぁ」


この程度・・・・の相手に、随分こっぴどくやられた様じゃな。ほれ、回復薬じゃ」

「わっ、頭からかけんなよ」


「――ふ、ふざけるなッ! なんで、お前がここにいる! 武神!」


 明らかに狼狽した様子の男が叫んだ。


「はぁ……そんなこと、どうでも良かろう」


「どうでも良くない! そもそも、なんでこの結界を壊せるんだよ! 外から見ても、そこに結界がある事すら分からないはずなのに!」


「質問が多いのぅ。この結界に絶対的な自信を持っていたようじゃが、そもそもこの世に"絶対"なんてなかろうて」


 一見オヤジは冷静そうに見えるが、これ……激怒しているな。怖い怖い。


「それでお主、どこのギルドの者じゃ?」


「そ、蒼牙だよ」


「ほう! あの蒼牙か! あそこのギルマスは確かSランクハンターじゃったのう……」


 ギルド蒼牙。大規模ギルドの1つであり、うちとは比べ物にならないほどのメンバーの数を誇る。


 蒼牙というイカつい名前だが、ギルマスは女性だったはず。二つ名は……


「あぁ。だからもし僕に何かあったら、"氷華"が黙っちゃいないよ?」


 そうそう、氷華。水属性に抜群の適性を持ち、その派生属性とされる氷属性を使う、クールな美人さん。


 Sランクハンターとしての強さはもちろんあるのだが、蒼牙をここまで大規模なものに成長させた、敏腕な経営者としての側面もある。


 確かに敵に回すと厄介だろう。だが――


「あんな小娘・・が何をしでかそうが、痛くも痒くもないわい。そもそも、お前ごとき・・・・・のために、儂らと敵対する道は選ばんじゃろうて」


 まあ、そういうことだ。


「クソッ! おい、僕に力を貸せよ! は? これ以上は無理なんて、ふざけたこと言うなよ!」


「シッ――!」


 いつの間にかオヤジは男の背後を取り、何もない・・・・空間を斬った。


「ふん……仕留め損なったか。まあよい。今はそれよりも」


「ひっ……!」


 そしてオヤジの視線が男へと向けられる。


「オヤジ、殺すのはダメだぞ」


「分かっておるわい。ちゃんと手加減・・・はするぞ」


「……ッ! さっきから、僕を舐めやがって! 僕は強く――」




「――黙れ」




 魔力や殺気を用いた威圧。



 オヤジがしたのは、ただそれだけだった。



 自分に向けられていないとはいえ、冷や汗が止まらない。



 事実、男はその威圧を直に浴び、気絶していた。



 これが、武神――日本最強のハンターの実力。


 Bランクハンターごとき、勝負にすらならなかった。



「よし、これで終わりじゃな。とりあえず、洋介のやつに連絡するかの」


「……オヤジ」


「なんじゃ?」


「助けてくれて、ありがとう。それから絶対に俺、もっと強くなるから。オヤジよりも強く」


「……ふはは! そうか! じゃが、儂もまだまだ強くなってみせるぞ。追い越せるものなら、追い越してみろ」


「その余裕の表情、いつか絶対崩してやるからな……!」




 こうして男は、殺人未遂の容疑で逮捕された。


 男は、所属するチームの優秀なハンターたちに馬鹿にされ、そのハンターたちを見返すために犯行に及んだと供述。


 また、これまでに複数の低ランクハンターを殺害したことを認めているが、死体等は魔法を使って消してしまっているため、正確に何人が殺害されたのかを示すことはできない。



 連日行方不明になっていた低ランクハンターが、みな殺害されていた可能性が出てきたというショッキングなニュースは、何度もメディアに取り上げられた。


 男についてもそれからしばらくの間、メディアがこぞって調査・報道し、自身に劣等感を抱きやすい環境にあったことなどが報じられた。



 ギルド蒼牙はこの事態を重く受け止め、第三者委員会を設置し、事実確認を実行。


 その結果、チーム内でいじめやパワハラといったものは確認されなかったと発表が行われた。



 そして何より注目されたのは――魔法の危険性。



 男が使用していた、既存のものではない結界を危険視する意見が多く寄せられた。だが男は、もう再現は不可能であると供述。また様々な専門家が、そのような結界を生成するのは極めて困難という結論に達した。


 また、男には助力者がいたことが分かったが、そいつに関しては一切明らかになることはなかった。それについて強引に聞き出そうとしたら、いきなり男は死んでしまったらしい。


 これもまた、未知の魔法であり、人々は警戒を露わにした。



 ……まあ、魔法が危険なものなんて考えは、今に始まったことではない。そもそも、ハンターという存在自体、一般人からしたら危険極まりないのだし。



「……そういえば、オヤジはどうやって結界を見つけて、壊したんだ?」


「なに、お主がなかなか道場に来ないから変に思って、通学路を辿ってみたのじゃよ。そしたら、何やら違和感のある空間を見つけてな? 一見普通なのじゃが"認知できない"空間が重なっているような、妙な空間じゃった」


「認知できない空間を、認知できている時点で矛盾があるだろ」


「ははっ! まあ、それでここに巧美が囚われているに違いないと思って、その空間を斬ってみたのじゃよ」


「いや、空間を斬るって意味わからないが?」


「こう、力を込めて、フンッ! とやったら斬れたぞ? まあ、それで巧美と合流できたのじゃよ」


「…………なるほど? まあいっか。ああ、それと、どうやって助力者とやらを攻撃できたんだ?」


 オヤジ曰く、助力者の正確な居場所は特定できず、遠隔から男に指示し、力を貸していたそうだ。そして捕まえるのは不可能と瞬時に判断して、即攻撃をしたらしい。


 ――判断が早い!


「ふむ、男に繋がっていた魔力的なパスを逆算するように、気合を入れて斬っただけじゃ。深手を負わせることには成功したじゃろうな」


 気合で、空間を飛び越えた攻撃するのやめてもらっていいですか?



 本当に俺は、オヤジを追い越せるか不安になってきたのは、ここだけの秘密だ。



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