第17話 絶体絶命のようです。



 まともに戦っても勝算は薄いので、初手、通報。


 俺は相手を警戒しながら、ポケットよりスマホを取り出す。


 こんなあからさまな動作をしているのに、何もしてこない相手を怪しみながら、スマホを操作しようとしたが……


「……うっわ、圏外になってる」


 圏外なんて文字、久しぶりに見たな。今では、ダンジョン内であっても、通信できているというのに。


「ははっ! ここは、切り離された世界だからね。君は助けを呼ぶことも、逃げることもできない。そして、外の世界から認知することもできないから、助けが来るはずもない。……絶望したかい? お嬢ちゃん?」


「はっ! お前こそ、たかがDランクハンター相手に、随分と対策しているようだな。どうやらそれほど、自分の力に自信がないようだ」


「黙れッ! 知ったような口を利くな! 僕は、強い。そして近い将来、ギルマス・・・・たちも相手じゃなくなるさ。僕はこんなにも成長・・できているんだから」


 ……あー、こいつ、もしかして。


「――お前、何人のハンターを殺したんだ?」


「……ひひっ、知りたいかい? Dランクハンターなんて雑魚を殺しただけで、こんなにも魔力を吸収できるなんて、びっくりだよ。ああ、人数だっけ? これまでに、えっと、11? いや12か。まあどちらにせよ、今日また1人増えるさ」



 人が魔物を殺して、吸収できる魔力の量は、放出された魔力の3%にも満たない。


 だが、人が人を殺して、吸収できる魔力の量は、放出された魔力の40%を超えるというデータがある。


 これは、人から吸収した魔力の方が、自身に適応させやすいためだと言われている。



 ……まあ、要するに、強い魔物を倒すより、弱い人間を殺した方が成長しやすい、ということが起こり得るのだ。



「下種が。そんなやり方で成長して、嬉しいのか?」


「は? Dランクハンターごときが、僕に説教してんの? おいおい、止めてよ、笑えないって」


「ランクが下のやつにしかイキれない、クソ雑魚の癖に思い上がるのも大概にしろよ?」


「……僕を、雑魚と呼んだか、貴様! もういい、ぶっ殺してやる!」


「図星で顔真っ赤だなぁ、おい。どうやら、メンタルも弱いらしい」


「チッ、死ねえぇッ!」


 バンッ、バンッ! と連射してきたのを避けながら接近。


 身体強化を使い、一気に距離を詰める。


 銃では殺せないと考えたのか、相手は銃を投げ捨て、剣を抜いた。


 そして、剣を中心に魔力を纏い、リーチが倍近くに伸びたそれを、横薙ぎに振るう。


 かなりの力が込められており、俺が斬られたら、ひとたまりもないだろう。


「さっさと、死ね!」


 俺はそれを、飛び上がることで回避した。だが――


「はっ! 空中では避けられまい!」


 男は再び、俺に対して剣を振るう。



 ――よし、狙い通りだッ!


「――ライトボールッ!」


 俺は視界を閉ざしながら、一瞬強い光を作る。


 直視していた男の目をくらまし、空中に魔力を具現化させることで足場を生成。


 それを踏み込み急降下。


 目標を見失いながら振るわれた剣を回避し、今度は手の周りに魔力を具現化。


 それを使って俺は、男の顔面を思い切り殴った。


 普通に攻撃しても、有効打にはならないと感じたため、重力なんかも漏れなく使った渾身の一撃だ。


「グ――ッ!」


 体勢を崩した男は、背中から倒れ、後頭部を強打した。


 だが、これぐらいで終わる相手では無い。


 いざ追撃を、と思ったところで、相手から魔力の高まりを感じ、慌てて後退した。


 ――だが、少し遅かったようだ。


「ダークドレイン」


 闇属性の魔力が一瞬で拡散され、俺もそれに巻き込まれた。


 そして同時に、俺の体力や魔力が抜けていく。


 咄嗟に、対属性である光属性に魔力を変換し、体を守るように展開。


 それにより、これ以上奪われることは無かったのだが……マズイな。今ので魔力がかなり減ってしまった。


「いや……油断してたね。まさか、こんないい一撃を貰うとは。でも、僕を倒すにはまだ足りなかったようだ」


 闇属性魔法、ダークドレイン。範囲内の生物から体力や魔力を吸収する魔法だ。知っているし、実際に見たこともある。だが――


「なぜ、一瞬で闇の魔力が拡散したか、気になっているようだね」


 そう、効果が大きい反面、その有効範囲が広がるのは遅く、対応されやすい魔法のはずだ。あれほど速く拡散するなんて聞いたことがない。


「なんだ、教えてくれるのか?」


「教えたところで、君には対処出来ないからね。……まぁ、一言で言えば、この結界のお陰さ。闇属性魔法の効果を激増してくれるんだ。それに……何? ああ、もう分かったよ。さっさとやればいいんだろ」


「おい、誰と話しているんだ?」


「悪いけど、それを教えるわけにはいかないんだ……じゃあ、そろそろ死んでもらうよ? ペトリファイ」


「うお……ッ!?」


 あっぶねぇえ! あとちょっとで石化光線に当たるところだった。いやてか、服の一部が石化してるわ。


「チッ、なら範囲魔法ならどうかな! パラライズ!」


「――ッ!」


 だから、拡散が速いって! 避けれるか、そんなもん!


「死ねッ!」


 光属性を展開していたため、心臓麻痺にまでは至らなかったが、身体は十分に動かせない。


 そのため、男が俺の首を狩らんと振る剣を避けることはできず、全力で魔力を圧縮し、剣が当たるその一点だけで具現化させた。


「ガァッ――!?」


 なんとか首を切断されることは免れたが、首にえぐいダメージが入った。


「……ライトヒール」


 吹き飛ばされながらも、回復し続けることで、なんとか一命をとりとめることに成功する。


 ……ちくしょう、頭が割れるように痛い。こりゃ、魔力が枯渇寸前だな。


「よく粘るね? まあ、これで終いだよ」


 男はカツカツと、こちらに歩みを進める。



 まさに満身創痍、絶体絶命。


 俺がここから逆転するなんて、ほぼ不可能だろう。


 だが、まあ――


「ガッ――!」


 ――こんなところで死にたくはねぇなあ……。



「き、貴様ァ!」


「……おいおい、元はと言えばお前のだろ、これ。その辺に捨ててたお前が悪い」


 俺は隠し持っていた銃を、煽るように見せつけた。


 さすがに油断していたようで、俺の射撃は男の太ももを貫いた。



 一回死んだ身ではあるしさ。今更死ぬのが怖いとは言わんよ?



 だが――死ぬなら、もっと"観客"の居るところがいい。



 こんな、誰も見てないところで、死ぬのはもったいない・・・・・・だろ。



「死に損ないが……!」



 ――あぁ、クソ。弾切れかよ。


 

「さっさと、くたばれ!」


 

 男が剣を振り上げたその時だった。


 ――パリン、という音がなり、結界が破壊された。




「――おい! 生きておるか、巧美!?」



「……遅いよ、オヤジ」



 日本最強のハンターが今、現れた。



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