第16話 怪しげな男に襲われたようです。



「もっと力が欲しい。あいつらを見返せるだけの力を……ああ、分かっている。これが効率的なんでしょ?」


 その男は誰もいない部屋の中で、一人話していた。


「はは、次は誰にしようかな……ん? 誰、それ? ……ああ、こいつね。まあ、僕は誰でもいいし、次はこいつにしようか」


 電話をしている様子もない彼は、一体誰と話していたのか。それを知るものはいなかった。









 配信でも語ったが、俺は普通に高校に通っている。


 今日も今日とて、朝から授業を受けていた。前世でも高校は卒業していたが、別に勉強ができる方ではなかったし、ほとんど忘れていたので、全くアドバンテージはない。


 周りを伺うと、真面目に聞いている人もいるが、舟を漕いでいる人もいる。そんな中、どこからかお腹の音が聞こえてきた。


 分かる、俺も腹減った……。


 その後、チャイムが鳴り響き、昼休みの始まりが告げられた。


「お姉様、一緒に食堂へ行きましょう」


 小学校からの付き合いである、浅見あさみ麻衣まいがいつも通り声をかけてきた。色々あって、今では俺の事を"お姉様"と呼んでいるが、同級生である。


「そうだな、行こうか」


 うちの通っている学校は、小中高大と内部進学することができる、学費が少し高めの私立である。


 彩姉が通っていた学校だったため、俺もここに通うことになった。もっとも俺の場合、転生した時点での年齢を10歳としたため、転入だったんだけどな。


 あと重要なのが、ここの学食が美味いということだろう。


 いつも通り日替わり定食を頼み、俺たちは席に着いた。


「配信業の方は順調なようですね。リアルタイムで見れなかったものも、必ずアーカイブを視聴していますよ」


 麻衣は小学校1年生の頃に子役デビューし、その演技力から天才と呼ばれている。メキメキと成長しており、今もしっかり仕事をこなしている立派な芸能人である。ルックスの良さも相まって、人気は高い。


「麻衣も忙しいだろうに、見てくれてありがとう。そうだな、なかなかいい感じだ。順調にチャンネル登録者数も増えていっているしな」


「ふふっ、お姉様が楽しそうで何よりです」


「あぁ、実際楽しいからな。やり始めて良かったと思っているよ」


「私としては、一緒にお仕事をしたいなって思っているんですけどね」


 出会ってすぐのことだったが、俺に演技の経験があることはすぐにバレた。いや、隠すつもりも無かったから、当たり前ではあるんだが。


 それからというもの、ことある事に俺に共演の話を振ってくるのだ。


「前から言っている通り、今はこっちに専念したいからな」


「分かっていますよ。でも、心変わりがありましたら、すぐにお知らせ下さいね」


「気が向いたらな〜」


 俺の投げやりな返答に、むぅ……と不服そうな、それでいて悲しげな顔を見せる麻衣。


 そんな顔を見ていたら、つい罪悪感が芽生えてしまうのだが、ここまで計算済みだろう。全く、恐ろしいね。


 とりあえず俺は、今日の定食のメニューであった、トンカツに集中することで、それを無視した。


 うん、美味い。


「……まあ、いいですけどね。そういえば、今朝のニュースは見ましたか?」


「んー? どれのことだ?」


「低ランクハンターたちが複数名、行方不明になっている、という話ですよ」


「あぁ、あれね。確かこの近くに住んでいる人たちなんだっけ?」


 確か、僅かに闇魔法の痕跡も見つかったから、もしや誘拐なのでは、という話になっていたはず。


「ええ、そのようです。お姉様なら大丈夫かとは思いますが、くれぐれもお気をつけて」



 飯を食った後は教室に戻り、また授業を受けた。午後の授業が終わったらすぐ帰宅準備をする。俺はなんの部活にも入っていない、所謂帰宅部だ。


 さっさと帰って、修行しなきゃな。


「さようなら、お姉様」


「おう、また明日」



 そして俺は帰路に着いた。









「魔力の具現化も慣れてきたし、そろそろ豚頭の迷宮のボスを倒しにいこうかな……」


 俺はぶつぶつと声に出しながら、今後の予定について考えていた。


「なら、それまでに一回、ボスの手前まで行くのもアリか? ……あ?」


 ここではたと気づく。


 俺の音以外、何も聞こえないことを。


「――ッ!」


 殺気を感じ、俺は横へと転がった。


 ――バンッ! という銃声が聞こえたのは、俺が動いたのと同時だった。



「誰だッ!?」


「……まさか、銃弾を避けるなんてね。君、Dランクハンターじゃなかったの?」


 銃声の聞こえてきた方向を向くと、そこには武装した1人の男がいた。


 感じる魔力量的に、こいつはBランクハンター。今の俺にとっては、格上・・の存在である。


 俺がDランクハンターであることは、分かったうえで襲って来たのか。計画的犯行だな。


「……射撃されたのは、今回が初めてじゃないんでね。対策ぐらいするさ。……っと」


 こいつ、容赦なく撃ってくるな。


 俺は殺気を感じ、引き金を引く前に射線から逃れた。


「ふーん、勘はいいみたいだね。まあいっか。感じる魔力量は大したことないし。さくっと終わらせよう」



 いやぁ……マズイ。学校帰りで、武器なんもねぇわ。


 何らかの結界を張っているのか、外界から切り離されているような感覚。そしておそらく、逃げることも困難。


 かといって、倒せる相手かと言えば、正直、勝算は限りなくゼロ。


 さて、どうしたものか……。



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