第15話 記憶に齟齬が生じたようです。
もともと、豚頭の迷宮に行ったのは攻略が目的ではなかったので、適当にキリがいいところで配信を終了し、俺は帰路に着いた。
今後について考えながら、車に揺られること一時間と少し。車が止まり、ドアが開かれた。もうすでに黄昏時になっており、空は茜色に染まっていた。
「それではお嬢、お疲れさまでした」
「ああ、道田もな。いつもありがとう」
「いえいえ、これが仕事ですから」
車を見送った俺は、我が家の玄関をくぐった。
「あれ? オヤジ、帰っていたのか」
玄関にはオヤジの靴が置いてあった。
こんなに早く帰っているなんて、珍しいこともあったもんだな。いい匂いが漂っているし、今は料理中かな?
「ただいま、オヤジ」
台所に顔を出すと、いつもより少し豪勢な料理を準備しているオヤジがいた。
「おかえり、巧美」
「今日って何かの記念日だっけ?」
「……巧美の、Dランク昇級のお祝いじゃよ」
こちらに顔を向けず、そっぽを向きながらオヤジは答えた。
相変わらず、不器用というか、なんというか。
「ふふっ、ありがとう。何か手伝おうか?」
「不要じゃよ。巧美は居間で待っておれ」
「ほーい」
去り際にちらっと様子を伺うと、包丁も使わず一瞬で具材が切り分けられていた。もはや、何も言うまい。
◇
そこは少しさびれた、人気のない境内だった。落ち着いた、静かな場所で、懐かしさの感じる場所だった。
『たくみは、面白いね?』
振り返るとそこには、中性的な見た目の
――いや、違う。俺はこいつを知っているはずだ。
『君は……?』
『――いつか
『待って……!』
手を伸ばせど届くことはなく、視界が次第に歪んでいき……。
◇
「……ぃ、起きろ!」
「痛っ!」
あ……? あぁ、居間で寝ていたのか、俺。
「随分疲れていたようじゃな? 飯ができたぞ。さっさと食って、さっさと寝ろ」
「ん、おお! ありがとう! いただきます!」
品数が多いし、いつもより気合入ってるねえ!
「……うまい!」
「そうか。焦らず食え」
「うっす」
飯を食べつつも、頭の中を占めるのは先ほどの夢のこと。見覚えのある場所だったんだが、はてさてどこだったか……。
「あ、あそこか」
「急にどうした?」
「いや、前世でオヤジと初めて会った、あの神社。あれって、道場のすぐ近くだったよな?」
「神社……?」
そうだ、子供のころに何度かそこに行っていて、お気に入りの場所だったんだよな。
……あれ? なんで、行かなくなったんだっけ?
「まだ寝ぼけておるのか? お主と初めて出会ったのは、お主が道場に連れてこられた時じゃろうて」
「……え? そうだっけ?」
んー、言われてみればそうだった気もする。
「というか、道場の近くに神社は存在せんよ」
「いやいや、それは噓でしょ?」
「儂が何年、あの道場を使っておると思っておるんじゃ。もし近くに神社があれば、見落とすわけなかろう」
「おかしいな……まあ、もしかしたら、俺が別の場所と勘違いしているかもしれないか。明日確かめてみるよ」
「うむ、そうせい。ああ、そういえば、今日の配信のことじゃが――」
「え、オヤジ見てたのかよ」
「なんじゃ、見られて困るのか?」
「いや、そうじゃないけど、意外だっただけだ」
「ふむ、まあよい。それでその魔力の使い方じゃが――」
夢に出た神社の話は一旦終わり、それからも他愛のない話を続けた。
◇
「――マジで、無いな」
翌朝、俺はどうしても気になり、道場付近で神社を探した。記憶に残っていた、神社へとつながる道は存在せず、物は試しにその道なき道を無理やり通ってみたが、一向に何も見つからなかった。
「何か大事なことを忘れているような気もするが……まあ、いっか」
結局、あの時夢で見た場所も、そこにいた誰かのことも分からず、俺自身も時が経つにつれ忘れていくのだった。
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