第14話 魔法の鍛錬をするようです。



「おー、あれがオークか。魔力量的にはこの前のゴブリンロードと同じくらいかな」


〈どっちも同じDランクで、そこまで強さは変わらんよね〉

〈オークの方が、防御力に優れてる感じ〉

〈でも、今回はダンジョン攻略がメインじゃないんやろ?〉


「コメントにもある通り、今回の主目的はダンジョン攻略ではなく、鍛錬だ。だから、2階層より先には行かないつもりだぞ。……とりあえず、道田。あれを魔力を用いた攻撃で倒してくれ」


「承知しました」


 道田はそう返事すると、歩いてオークへと近づいた。


「グモォ――!」


 威嚇するように叫びながら、オークは巨大な鉈を振り下ろす。


 対して道田は避けるそぶりを見せず、右手を上にあげた。


 ガンッ! という衝撃音が鳴り響き、オークの振り下ろした鉈は道田の手のひら、その少し上で止まっていた。


「これは、魔力を具現化したものです。このように盾にもできますが――」


 力を込めて、押し切ろうとしているオークを意に介さず、道田は続けて左手にも魔力を集め、そのままボールを投げるかのように、手を振った。


 相当力が込められていたようで、オークの腹には貫通した穴が開き、そのままオークは消滅した。


「――このように、攻撃手段にもなります。今のは属性を伴わないものでしたので分類上、無属性魔法となります。小規模なものなら、今のお嬢にも可能かと」


〈つぇええ!〉

〈さすがBランクハンター〉

〈貫通するって、相当魔力練られてるな…〉


「……なるほど。ちょっと試してみよう」


 俺は魔力を操り、目の前に障壁を作ってみた。だが――


「やはり、強度が足りないな」


 少し叩いただけで、障壁は割れてしまった。これでは盾に使うこともできない。やはり、そう簡単にはいかないか。


 ライトボールといった属性魔法は、魔力を属性変換しているため安定しやすいんだが、無属性となるとすぐに拡散してしまいそうになる。体内での強化魔法ならともかく、なかなか体外での操作が難しいな。


「すぐに具現化できるだけでも、十分ですよ」


〈しれっと一発で成功するやん〉

〈俺、具現化できるようになるまで苦労したんやけどなぁ〉

〈これが才能の差か〉


「障壁の強度を増すためには、魔力の密度を高める必要があります。体外での操作となるため難易度は上がりますが、これができるようになると、戦闘の幅が広がりますよ」


「分かった、密度だな」


 今度は人差し指の周りに、俺のほとんどの魔力を集め、圧縮していく。魔力量と俺の技量の関係上、これが精一杯かな。


 俺はダンジョンの壁へと近づき、腕を振るう。


「――お見事です、お嬢」


 腕を振り切ると、壁には一本の大きな傷ができていた。


 指への衝撃はほとんどなかったし、なるほどこれは鍛錬しがいがあるな。


 身体強化により、拳の強度を上げてゴブリンをぶん殴ったりしていたが、あれは普通に衝撃が返ってくるんだよな。それに比べるとこれは、武器が増えたような感覚。


「よし、じゃあ次はオークで実践だな」


〈はっやww〉

〈上達速度えぐいて〉

〈新しいことはすぐに試したくなるよな~〉


 そこから少し歩いて、オークを見つけた。今回は、刀を抜かずに素手での戦いだ。


「それじゃあ、いくぞ?」


 俺はまだ道田のように、オークの攻撃を受け止められるほどの障壁を作ることはできない。だがまあ、何も真正面からぶつかる必要はないだろう。


「フッ――!」


 俺はオークの鉈を、人差し指で受け流す。鉈と接触する部分が少しでもずれてしまえば、たちまち俺の手指は切り落とされてしまうだろうが、そこは腕の見せ所だ。


 渾身の一撃が受け流されよろめいているオークの背後へと素早く回り、なでるように指で首を一掻き。


 致命傷となりうるほどの深さを斬ることができたが、さすがに両断はできなかった。


 このまま放置しても死ぬだろうが、どうせならということで手を銃の形にして、オークへと人差し指を向ける。


「マナバレット」


 俺が放った魔力の弾は、先ほどの傷を拡げる程度の威力しかなかったが、まあ今はこれで十分だろう。


 そしてオークは消滅し、魔石のみが残された。



「ふむ……及第点といったところかな?」


〈十分だろww〉

〈やっぱ、そもそも体術が極まってるよな。何しても強い〉

〈威力はこれから上がっていくだろうしね~〉


「そうだな、やはり目下の課題は、魔力量の増大だ。こればっかりは、ダンジョンで魔物を狩っていくしかあるまい」


「一回しかダンジョン攻略をしていない割には、十分多い魔力量をお持ちですけどね」


「そうなのか?」


「ええ。そもそも、ハンターになってから今ぐらいの時期ですと、体外に出された魔力は、あっという間に周囲に拡散してしまって、具現化なんて到底できませんよ」


〈確かに〉

〈言われてみればそうやな。感覚麻痺ってたけど〉

〈そういえば、ダンジョン2回目の新人やったな。忘れてた〉


「なるほど……まあ、魔力の吸収率が良いことは確実に利点だし、喜んでおくか。ちなみに道田が初めてオークと戦った時は、どんな感じだったんだ?」


「そうですねぇ……私の場合は普通に、水属性を拳に付与して戦っていましたね。オークは土属性の魔物ですし」


〈やっぱり弱点属性で攻撃していくのが常套手段〉

〈ずっと拳で戦ってるんや〉

〈苦手な属性なら、その属性が付与された武器を使ったりもするよな~〉


 実は、魔物にはそれぞれ属性が決まっており、それ以外の魔法は使うことはできない。コメントにもあるように、その弱点の属性を使うのが鉄板である。


「俺は前も言ったが、光属性と無属性以外はてんでダメだからなぁ。道田は全属性万遍に使えるタイプだろ?」


「ええ。強いて言うなら、土属性が得意ですが、基本どれでもいけますよ」


〈あー、ぽいな〉

〈真面目そうやし、解釈一致〉

〈常識人って感じやしな~〉


「おい、まるで俺が変人みたいな言い方はするなよ」


 証明はされていないが、得意属性と性格には相関関係があるのだとか。そして、全属性万遍に使える人は常識人、適性が偏っている人は、得てして変人と呼ばれるのだ。


「おやおや……」

〈変人でしょ、確実に〉

〈どこの常識人が、ハンターなって初日にソロでボス戦までやるねん〉

〈鏡見ろよ〉


 こんな美少女になんて言い草だよ……まったく。



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