第9話 ボスとの戦いが始まったようです。



 ホブゴブリン、ゴブリンマジシャンが単体で現れる第6、7階層を抜け、俺は第8階層に到達した。


「ここからは、かなり難易度が上がると言われている第8階層だな。第8、9階層では、ホブゴブリンたちがパーティを組んで現れるらしい」


〈第3階層から第4階層への違いと変わらなくね?〉

〈第4階層のゴブリンは、明確な役割分担がなかったけど、ここからは違うもんな〉

〈前衛、後衛って分かれて連携するから、ソロだとそろそろきつくなる。ソロだけに〉


「たしかに、前衛後衛がうまく連携している相手はちと厄介だが、どうとでもなるさ……っと、出てきたな」


 片手剣と盾を構えるホブゴブリンが1体、槍が1体、弓が1体。そしてゴブリンマジシャンが1体。


 そこそこバランスの良い構成と言えるだろうな。


「グギャ!」


 弓のゴブリンが俺に向かって矢を放つ。


 俺は姿勢を低くして前進することで、それを回避。


 そのまま後衛を攻撃できたらいいんだが、それは許してくれないようだ。


 後衛を守るように、盾を持つゴブリンが前に立つ。


 俺はその盾に発勁を放ち、盾を持つ手へとダメージを与える。


 そのゴブリンの横からタイミングよく槍が突き出され、俺は一旦後退した。


 そしてそれを追うように放たれる矢と炎の玉。


 俺は位置を微調整し、抜刀。一刀のもとにそれら2つを切り伏せた。


「なるほど。確かに難易度は少し上がるな」


〈おー、初めて戦いが成り立ってる〉

〈さすがに一人じゃしんどいでしょ〉

〈さっきの抜刀、変態やろ。なんで一振りでどっちも切るねんww〉


 今のままでも倒せなくはないが、俺の方にもそろそろ変化をつけた方がいいか。


「よし、ならこっちも、そろそろギアを上げるか。今からは魔法を使うようにする」


〈…今まで強化魔法とかもなしやったん?〉

〈魔法なしであの動きは、わりと人間やめてるけどな〉

〈え、でも魔法切ってなかった?あれ魔法じゃね?〉


「ただ魔力を流していただけだから、あれを魔法と呼ぶかは微妙だな。これからは身体強化もしていくぞ」


 そんなことを言いながら、俺は魔力を体に巡らせ、身体強化魔法を施す。


 ちなみに、こういった属性を伴わない魔法を無属性魔法という。


「じゃあ、仕切り直して……いくぞ?」


 魔力を足に集め、爆発的なエネルギーを得ることで急加速。


 ゴブリンマジシャンへと急接近する俺に、慌てて盾のゴブリンが割り込む。


 だが、先ほどのダメージによりその扱いは十全でない。


 俺はその盾を、思い切り殴りつける。


 盾がひしゃげ、ゴブリンは後方へと吹き飛んだ。さすがにこれでは致命傷にならないが、問題ない。


 こぶしを振り切った俺へ、槍が伸びてくるがそれは無視し、ゴブリンマジシャンに肉薄。


 慌てて魔法の準備をするが遅すぎる。そんな準備を待つことなく抜刀。これで1体目。


 飛んでくる矢をよけながら、今度は槍のゴブリンへと接近。安易に矢を放てないように、弓のゴブリンの射線には槍のゴブリンがいるように立ち回る。


 俺の首へと突かれた槍を軽く回避し、一閃。これで2体目。


 どうやらこの時間で、盾を持っていたゴブリンはなんとか戦線に復帰したようだ。ただ、盾を持っていた方の手は、使い物にならず、盾も捨て、今は片手剣一本である。


 体も傷だらけであり、ほとんど力も入っていないその剣の振り下ろしをいなして、一閃。さらに弓のゴブリンへと踏み込んで一閃。


「ふぅ……これでおしまいっと」


〈何度も殴られた盾持ちのゴブリンに合掌〉

〈相変わらず、安定してるね〉

〈つっよww〉


「さすがに魔法ありだと、楽勝だな」



 そこからも俺は、同じようにホブゴブリンどもを倒していき、ついに第10階層へと到達した。


 第10階層はこのダンジョンのボスが現れる場所。ボス部屋と呼ばれる空間に繋がる扉の前に、俺は立っていた。


「さて、ついにクライマックスだな」


〈あっという間やな~〉

〈てか、今まで被弾ゼロじゃね?〉

〈これで、ダンジョン攻略初日なんだぜ?頭おかしいだろ〉


「いや~、なかなか楽しいな。もう俺はダンジョン配信の虜だよ」


 ダンジョン配信を始めてからというもの、俺は大きな幸福感と高揚感に身を包まれていた。


 アドレナリンが出ているのか、徐々に技のキレ・・が、確実に良くなっている。


 この感覚、これこそが俺の求めていたもの、か……。アクション俳優としての前世の俺では、完全には満たされなかった、どうしようもない俺の"願望"。


 ……いや、そうだ。一度だけ、前世でもこの感覚を味わっていた。俺が死んだあの瞬間。本気で命のやり取りをし、それを2人の観客・・に見せていた、あの瞬間。


 そしてダンジョン配信では、本気で殺しに来る相手と戦い、それを多くの観客に見せる。


 ――ああ、これは"天職"と言わざるを得ない。



〈戦闘狂じゃないですか、やだー〉

〈俺ももう、巧美ちゃんの配信の虜だよ〉

〈チャンネル登録者数も、えぐい伸び見せてるよな~〉



「ああ、そうだな。みんなチャンネル登録よろしくな。……さて、じゃあ、行きますかね」


 俺は扉に手をかけ、ボス部屋へと足を踏み入れた。


 俺と彩姉が入った時点で、扉が閉まり、ボスたちが出現する。


 これまでにも出現していたホブゴブリンが10体。ゴブリンマジシャンが5体。


 そして、それらを従えるように後方に座するのが、一際大きな力を放つ、ゴブリンロード。


 体長は3メートルほどか? 俺の倍くらいの大きさだな。


「グギャア――ッ!」


 そのゴブリンロードが俺を指さし、叫ぶ。


 空間全体が震えるほどの、強い咆哮。


 それが一種の魔法だったのか、ホブゴブリンたちの力が増したようだ。


 ホブゴブリンたちの目が赤く染まり、今にも襲い掛からんと、こちらに殺気を向ける。


〈うるさ!〉

〈こえぇぇ…〉

〈配下の強化がめんどいんよな。巧美ちゃん大丈夫か?〉


 コメント欄には俺を心配するような声があった。そして、ゴブリンロードは、俺が臆したと考えたのか、あざ笑うような笑みを浮かべる。



 ……おいおい、なめるなよ?




「シャァア"ァ"ア"ア"ア"――ッ!」




 魔力と殺気を叩きつけ、射殺さんとばかりに威圧する。合戦でも使われた技の1つだ。



 ゴブリンロードを含めた敵の全てが動きを止める。



 俺はそんなゴブリンロードへ、首を掻っ切るジェスチャーをした。



 さあ、ボス戦の始まりだ――。





「……ひっ」



 後ろで悲鳴を上げた彩姉は、この際無視することにした。



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