第7話 ダンジョン初攻略のようです。



 ――ついに始まったダンジョン攻略。


 とはいえ、今俺たちがいるのは第1階層。ここは魔物は出現せず、ダンジョン内で死んだハンターが蘇生される地点である。


「今から第2階層へ向かうわけだが、それまでの間少しばかり、荒河神武流体術について語ろうか」


〈あんまり解説されてないから、確かに気になる〉

〈巧美ちゃんもその使い手ってことやもんね〉

〈武神が師範ってこと以外、ぶっちゃけよく分からんよな〉


「隠しているわけではないんだが、いかんせん、宣伝に力を入れてなかったからな。あまり知られていないのも無理ない」


 神武ギルドのメンバーが戦っている映像を見たことがある人はいても、実際に説明を聞いた人は少ないだろう。


「そもそも元は、一子相伝の家伝体術でな。その武術に名前もつけられていなかった。他人に教えるわけでもなかったから、不必要だったんだ」


〈へぇ~〉

〈なんかそれは聞いたことあるわ〉

〈一子相伝の体術、ってなんか強そう〉


「その一子相伝が解かれたのが、オヤジの代だな。このままだと伝承が途絶えかねないと判断され、祖父が解禁を許したらしい」


〈なんで途絶えそうに??〉


「……オヤジが結婚を嫌がってな。それが原因だとさ」


〈草〉

〈武神のわがままで解禁されたってこと!?〉

〈それでええんかww〉


「まあ、だからこそ、荒河神武流体術の使い手はまだ少数ってこと。金稼ぎがしたいわけでもなかったから、広く宣伝もしなかったんだ。ギルド加入には、ギルドメンバーの推薦が必要っていうのもその名残」


〈なるほど…〉

〈あぁ、だから少数精鋭になってんのか〉

〈んで、特徴は?〉


「荒河神武流体術の特徴か。一言でいえば"使えるものはなんでも使う"だな。合戦でも使われてきたから、戦場のあらゆるもの利用して、生き延びることができるようになっている」


 俺は腰に差している刀を、視聴者に見えるように持ち上げた。


「例えば刀。自分のが折れてしまった時に、相手から強奪し、それで攻撃するような術もあるぞ。他にも、槍、弓、あとはもちろん、自身の身体。その場その場に応じた動きができるという認識で問題ない」


〈弓姫も普通に接近戦できるもんな〉

〈なんか器用貧乏になりそう〉

〈体術、って名前のわりに普通に武器使うよな〉


「どの武器の扱いも、体術の延長と考えているから、荒河神武流体術と名乗っている。もちろん、それぞれで得手不得手はあるんだがな。彩姉の場合は、弓の才能が特にあったんだ」


「そうですね。私も一通り扱えますが、弓が一番しっくりきます」


 俺も一応、弓を使えるのだが、彩姉には劣るし、前世も今世もやはり接近戦が好みだ。



 そんな話をしていると、早くも下へとつながる階段が現れた。


「――さて、あっという間に第2階層への入り口だ。ここからは待ちに待った実戦だな」


〈わくわく〉

〈どんな戦いをするのか楽しみ〉

〈魔力吸収してないからまだ一般人やろ?〉

〈早く戦っているところ見たい〉


 コメントを見る限り、そこそこ期待されているようでなによりだ。


「それじゃあ、降りようか」


 第1階層と第2階層で、そこまで様子が変わることはない。まあ、魔物は出るようになるんだが。


 階段を降りたところで立ち止まると、俺は目をつむり、集中する。


「……よし。この100メートル先を左に曲がったところに、1体いるな」


 そう言いながら、俺は歩き始めた。


〈なんで分かるねんww〉

〈ほんまか?〉

〈なんか魔道具使った?〉


「いや、魔道具は使ってないぞ。ただ気配を読んだだけだ」


〈は?〉

〈さすがに無理やろ〉

〈嘘松〉


「正直に答えただけなのに、散々な言われようだな。まあいい」


 俺がそのまま進んでいると、足音につられたのか、左奥からゴブリンが現れた。


「ほら、いた」


〈ほんまにおった〉

〈疑ってすみません〉

〈マジでわかるんか、すげえ〉


「グギャギャ」


 ゴブリンはこちらを視界に収め、手に持ったこん棒を振りかざしながら、挑発するように笑った。


 人間によく似た体格で、大きさは1.5メートルほど。「小鬼」と呼ばれる割に、あまり小さく感じないな。


「……ふぅ。さて、初戦闘と行きますか」


 俺はゴブリンに向かって、右から弧を描くように走り出した。


 そんな俺に対し、ゴブリンはその場から動かず棍棒を上段に構え、追撃の意思を見せる。


 ゴブリンまで残り3メートルの地点で、一気に加速。


 慌ててゴブリンは棍棒を振り下ろした。


 俺はそれを、間合いギリギリで止まることで回避。


 鼻先の風を切った棍棒を思い切り踏み、ゴブリンが前に体を崩したところで、抜刀。


 驚愕の色に染まったゴブリンの首が、綺麗に宙を舞い、やがて、ゴブリンの身体は消滅した。


 それを確認し納刀すると、ゴブリンの魔力が俺に集まり、吸収された。


「おお、これが魔力の吸収か。初めてだからか、よく実感できる」


 そしてゴブリンがいたところには、小さな魔石が一つ転がっていた。


「……まあ、記念に取っておくか」


 俺はその魔石をポケットに入れ、ぱちぱちと拍手している彩姉に向き直る。


「さすがだね、巧美ちゃん」


「ありがとう。……さて、俺の初戦闘はいかがだったでしょうか」


〈強くね??〉

〈棍棒当たりそうでひやひやした〉

〈見栄え良かったわ〉

〈抜刀、美しすぎて惚れた〉

〈てか、もう魔力感じれるん?〉


 ふむ、概ね好印象と。ただ、いくつか不思議なコメントもあった。


「魔力は元々感じることができていたが、なぜそんなことを聞くんだ?」


〈は?〉

〈いや、何言ってんの?〉

〈What?〉

〈どゆこと?〉


「いや、言葉のままの意味だが……え、何かおかしいか?」


 俺がそう言うと、彩姉は少し微妙そうな表情を浮かべた。


「あのね、巧美ちゃん。師匠にはあんまり口出しするなって言われてたから、言ってなかったんだけど。普通はダンジョンで魔力を何回か吸収して、初めて魔力を感じられるようになるのよ」


「え、でもオヤジは『これぐらい出来て当たり前』って……」


「そりゃ、ハンターとして経験を積んだ人にとっては当たり前かもしれないけどね。少なくとも10回は魔力を吸収しないと、感覚がつかめないと言われているの」


 ……マジ?


〈なんで、魔力吸収したことないのに、魔力感じれるんや〉

〈武神のスパルタ教育が浮き彫りになって草〉

〈10回で済んだら相当優秀だけどな〉

〈マジで向いてない人は、半年かかるって聞いたことある〉


「待って、魔力感じられないんだったら、こんな感じに魔法使えるのもおかしいってこと?」


 俺はライトボールと唱え、手の上に光の玉を出現させた。


「……巧美ちゃんは、この配信の照明代わりに、こっそりその魔法を使っていたけど、かなり常識外れではあるわね」


〈なんでもありやなwww〉

〈ありえねぇ〉

〈確かに元々人間には魔力が備わっているとはいえ、微々たるもんやろ?〉

〈こんな人、他に聞いたことないわ〉

〈あまりに天才過ぎる〉



 何が出来て当たり前、だ。帰ったら一発ぶん殴ってやるぞ、オヤジ……。



「……まあ、気を取り直して、どんどん攻略を進めていこうか!」



 まだまだ、この初配信は、初攻略は、始まったばかり――。



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