第5話 修行のやり直しが始まったようです。



 俺がダンジョン配信者になることを決意した翌日・・。俺はダンジョン攻略から帰還した、オヤジと対面することとなった。


 10年前とは比較にならないほど強くなっているという話だが、いったいどれほどの力なのか。そんな期待と一抹の不安を抱えながら、俺はオヤジが待つ道場へ向かった。


 俺の事情に関する秘密保護のために、オヤジ以外には誰もいないらしい。道場へ続く廊下に、俺の足音だけが反響する。



 ――あれが、60になったオヤジの後ろ姿、か。


 白髪が増えた点以外に老いを感じるものはなく、その肉体には大きな力が感じられた。


 そんな後ろ姿を視界に入れながら入り口で止まり、正面に一礼する。



 俺が礼を終えたタイミングで、こちらを見ていたかのようにオヤジは立ち上がり、俺へと向き直った。


 その眼光は、俺のすべてが見透かされていると感じるほど鋭く、自然と身体に緊張が走る。


「……お久しぶりです、師匠オヤジ


 最後にオヤジと会ったのは、俺が死ぬ半年ほど前なので、俺からしても久しぶりの対面である。


「久しいな、巧。儂もお主に言いたいことは、いくらかあるのじゃが、一先ず……」


 そこでオヤジは、何の前触れもなく、俺の視界から消えた。


 ピリッとした嫌な予感を背後から感じ、振り返ろうとしたその時。


「カハッ!」


 背中に強い衝撃が与えられ、俺は吹き飛ばされた。



「一手、稽古してやろう」



 ……それから一時間ほど、俺はひたすらボコボコにされ続けた。



「はぁ……はぁ……」


 全身に力が入らず、床に倒れ伏す俺に対し、オヤジは息ひとつ乱してはいない。


「全く、情けないぞ巧」


「いや、オヤジと、比べないで、もらいたい」


 昔からオヤジには手も足も出なかったが、その差が圧倒的に広がっていた。


「聞いたぞ、ダンジョン配信者になろうとしているそうじゃな」


「ふぅ……そうですね。なるつもりです」


 少し息が整ってきたので、俺は体を起こし、座りながら答えた。


「自分でも分かっておるじゃろうが、このままでは、儂は許可・・できんぞ」


 まあ俺自身、まだ自分の身体に慣れてないことは自覚していたし、技術面でも足りないことは分かっていたが――


「許可、ですか?」


「なんじゃ、洋介から聞いておらんのか?」


 あ、そういえば洋介のやつ、何か隠しているような素振りは見せていたな……。


「その様子じゃと聞いておらんようじゃな。お主は、儂の養子となる」


「…………え?」


 養子……? 俺が? オヤジの……?


「どうせお主は、いち早くダンジョン配信をしたいと考えておるのじゃろうが、最速で5年後。お主が15歳となるまでは、法律でダンジョンに入ることはできん。15歳になっても、未成年のうちは保護者とダンジョン協会の許可がいるのじゃよ」


師匠オヤジが本当に養父オヤジになるのか……?」


「おい、話を聞いておったか?」


「大丈夫、聞いてましたとも」


 いや、そうか。前世の両親は俺が死ぬ前に死んでしまったし、そこは除外される。洋介を父と呼びたくはないし、洋介も俺を娘と呼びたくはないだろう。そう考えると、この人選はわりと妥当か……。


「……まぁよい。これからお主には、実戦を想定した修行を課していく。これまではあくまで"アクションに昇華すること"が目的じゃったから、省略していた部分も多い。特に第六感と呼ばれるものじゃな」


「第六感……」


「例えばお主、最初の攻撃に感づくのが遅すぎる。儂の殺気を読み、見ずとも回避できるようになれ」


「……そんなことができるようになるので?」


「ダンジョン攻略には必須じゃよ」


「分かりました、やりましょう」


 実戦に必要なら仕方ない。


「よし。後言うことは……ああ、そうじゃった。基本的にこれからは儂と同じ家に住むことになる。これからお主は、荒河あらかわ巧美たくみと名乗れ。"巧"一文字じゃと、ちと女の子っぽくないから、"美"を付け足しておいたぞ。戸籍等ややこしいことは、洋介が手配してくれた。感謝しておけよ」


 荒河巧美、ね。これが今世の名前か。


「分かりました。改めて、これからよろしくお願いします」


「うむ。ちとキツく感じるじゃろうが、ついて来いよ?」


「望むところです!」



 この日から、俺の新しい生活が幕を開けた。



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