第4話 ダンジョン配信者というものが現れたらしいです。
「そういや、あの時俺らを襲ったやつはどうなったんだ?」
「ああ、そのことですか……」
俺が尋ねると、洋介は少しきまりが悪そうな顔をした。
「巧が無力化していた2人は、そのまま捕まえることができたのですが……肝心の、あなたを殺した人物は、現在も行方をくらましたままです」
「10年経った、今でもか」
「ええ。全く痕跡が見当たらず、まるであの日、巧と同じように消えてしまったかのようです」
「なるほど……ちなみに襲撃の理由は?」
「誘拐して、私から身代金を要求するつもりだったようですよ。まぁ、あなたがその誘拐を阻止してくれたのですが」
「まぁ、そうだろうな」
あいつら、ナイフをちらつかせて、脅してきただけだからな。最後の俺を殺したやつは別だが。
俺と同じように転生している? いや、あいつは死んでいないはず……ただ、隠れるのが上手いだけか?
なんにせよ不思議なことに、俺はあいつと、またどこかで再会するだろうと感じている。何か運命的なものを感じずにはいられない。
いつか再び会ったら、その時は殺された恨みを晴らしてやる。覚悟しとけよ――。
それからも、洋介としばらく話していると、廊下からバタバタというこちらに向かう足音が聞こえ、そのままノックもなしに扉が開かれた。
そこにいたのは、黒髪をポニーテールにまとめ、凛とした顔に少し幼さが残る、制服を身にまとった可愛らしい少女だった。
彼女はそのまま部屋を見渡し、俺を視界に入れたところできょとんと首を傾げた。
「はしたないですよ、彩。急ぐ気持ちも分かりますが、ノックぐらいはしなさい」
「す、すみません、お父様」
「……おお、彩ちゃんか! 大きくなったなぁ!」
そうか、彩ちゃんももう15歳か。ずいぶん成長したなぁ……。
「あの、こちらのお嬢さんは、どちら様で?」
「彼女こそ、10年前に消えた巧ですよ」
「え……でも、女の子……え?」
「生まれ変わったら、女になったんだ。久しぶりだな、彩ちゃん。まさか、身長を追い越される日がくるとはな」
俺は立ち上がり、彩ちゃんを見上げ、自分の手を彼女の頭に置いた。俺の記憶にあるのは5歳の彩ちゃんだから、この驚きもひとしおだ。
「いや、もう俺の方が年下なんだから、彩先輩とでも呼んだ方がいいか?」
「……本当に、巧さんなんですか?」
「おう、姿は全く別物になっちまったがな」
彩ちゃんはちらりと洋介の方を見やり、洋介が頷いたところで本当のことだと信じたのか、そのまま勢いよく抱き着いてきた。
「おっと」
俺は体格差でよろめきそうになるものの、なんとか堪え、そのまま受け入れた。
「巧さん……私、ずっとっ、あなたにもう一度会いたくて、それで、もう一度話し、たくて……」
「落ち着いて、ゆっくりでいいよ」
「巧さんが、
「すまん、辛いもの見せちゃったな」
「私を助けてくれたのに、お礼も言えなくて、巧さん、消えちゃうし……」
「すまん」
「いえ、私こそ、ごめんなさい。愚痴みたいに、なっちゃって。あの、巧さん」
「なんだ?」
「私を助けてくれて、ありがとうございました」
「……どういたしまして」
彩ちゃんが泣き止むまで、俺はそのままあやし続けた。
……それにしても、撃たれたのは頭じゃなくて、腹なんだがな。まぁ、幼いころの記憶違いなんて、よくあることか。
彩ちゃんが落ち着くと、俺の事情を説明し、話はまたダンジョン関連の話題となった。
「じゃあ、巧さん。まだダンジョン配信見てないんですね?」
「ダンジョン配信? なんだそれ?」
「実際に見たほうが分かりやすいと思います。隣、失礼しますね」
彩ちゃんはそういうと、俺の隣に腰かけ、スマホの画面を見せてくれた。
「お、これはダンジョンの中か?」
「ええ、このようにダンジョン攻略の様子を配信する人を、ダンジョン配信者と呼びます」
「へぇ……お、あれが魔物か?」
画面の奥に、2足歩行をするイヌのような生き物が現れた。
『皆さん、見てください。コボルトが現れました。奴らは素早く、初心者の方は攻撃を当てるのに苦労するかもしれません。ですが、奴らは遠距離攻撃ができないため、近づけさせないで倒すのがよいとされます。私のような魔術師ですと、このように――"ロックバレット"』
その配信者がそう言った次の瞬間、いくつもの鋭利な石が散弾銃のようにコボルトへと飛んで行った。
コボルトはその攻撃を身に受け、ホログラムが飛び散り、そのまま消えてしまった。消えた後には、小さな石のようなものがそこに転がっている。
『このように、攻撃範囲の広い魔法を使うと楽に倒せるでしょう。コボルトは比較的弱い魔物ですので、これからドロップする魔石も小さめですね』
「なるほど、あれが魔石か。ところでさっきのホログラムはなんだ?」
「ああ、それは刺激を抑えるためのフィルターによるものです。本来は血が飛び散ったりするのですが、それをそのまま見るのは、年齢制限がかかっています。私のような未成年が、ダンジョン配信を見る場合、このようなフィルターがかかるのですよ」
「なるほどな……」
――ああ、なんとか平静を装っているが、ダメだな。この胸の高まりを、抑えられそうにない。
「――決めた、俺はダンジョン配信者になる」
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