ショートストーリーズ ~日常のひととき~
火の力 ~結晶人の戯れ~
彼女と別れを告げてから、私たちはひたすら鍛錬の日々を送っていた。
体に染みついた火の力。これのおかげで私もリルも、燃えるはずのない結晶の体から、火が消えて絶えない。別に生活に支障はないのだけれど、草木には近づけないし、水の中に入るわけにもいかなくて、なかなか大変だった。
だから、とにかくこの火をどうにか制御できるように、修行を行うことにしたのだ。
周りに草木も水もない岩場で、溢れ出る精力が体に馴染むように念じ続ける。魔法を使う時の感覚を思い出しながら、荒れ狂う熱を結晶体の中へしまうように。
「お姉ちゃん」
そんなことをしていると、同じく体を燃やしている妹が邪魔してくる。
「リル。お姉ちゃん今修行中なの。邪魔しないで」
先ほどまで一緒に静かに修行していたはずなのに、もう飽きてしまったのだろうか。まだまだ子供だな、とそう思いながら、リエナは少しだけ笑っていた。
「お姉ちゃん」
「・・・リ~ル?」
だが、何度も集中を乱すような悪戯をするのであれば、それなりに叱っておかなければならないだろう。
そう思って、修行を一旦やめ、後ろを振り向くと、そこには宙に浮いたまま燃えいている、リルの姿があった。
「もう、邪魔しないでって言ってるでしょう。このまま火の力を制御できないと里に帰れないのよ?」
「帰れなくてもいいもん」
リルはそう言うが、仮に里へ帰らずとも、このままと言うわけにはいかないだろう。行く先々で森を燃やすわけにもいかないし、水に入ったら水蒸気の破裂で体を砕いてしまうかもしれない。この火は水に触れても消えないのだ。
ある意味いたるところに危険があるようなものだ。だからこそ、火の制御を行わなければならない。
彼女は、いずれは己の力にできると言っていた。彼女から受け取ったこの精力は、結晶族がもともと持っている精力とは異なる。根本的な扱い方がわからないのだ。
「はぁ、リルも、いつまでも浮いたままってわけにはいかないでしょう?」
先日のことだが、リルは自分の力で宙に浮く魔法を使うようになった。リルはもともと、私の体の一部から成長した、いわば同一の存在だ。私と同じ魔法が使えて当然なのだ。
とはいえ、精神的にまだまだ幼いから、こういった地味な修行には興味はないのだろう。
「見てぇお姉ちゃん」
「ん?」
改めて浮いたままの妹を見ると、リルは溶けていた。
「え?」
「見て見て~」
「ちょっと、リル、何やってるの」
あわててリルの腕をつかむと、その腕がどろりとした液状のものに変わった。
「あっ、・・・なに、これ」
「修行をしてたら、なんかこうなったー」
当の本人は、のんきそうにそう言うが、溶けている部分は、なぜか火が消えていた。冷静に考えれば、熱によって翠結晶が溶けたということだろうが、だとしてもおかしな点がある。そもそも、溶けた体の感覚はどうなっているのだろうか。
「リル、ちょっと、体は?体は平気なの?」
そうこうしているうちに、リルは全身をドロドロ状態になり始めていた。
「平気だよ~?」
やがて空中で液状のまま球状の姿に成り、人の姿ではなくなっていた。しかし、リルはすぐに、液状の体を操り、元のリルの姿へと戻っていった。
「じゃじゃーん。すごいでしょー?」
「すごい、けど。え?」
正直訳が分からなかった。元に戻ったリルの体からは火が消えていたのだ。なら、なぜさっきまでは燃えていたのだろうか?
「リル、もしかして火の力を制御しているの?」
「うーん?わかんない!」
元気よく答えたリルは、再び体から火を放ち始めた。やはり、完全ではないけれど、彼女から受け継いだ精力を操っている。まさか、リルの方が先の体得するなんて、思ってもいなかった。
いや、彼女は私と同じ能力のはずなのだ。異なるのは精神と体の丈夫さだけで、それ以外は、ほとんど私なのだ。
「ねぇ、今のどうやったの?」
「うーん、よくわかんない」
「教えてよ」
「じゃあ、教えたら遊んでくれる?」
「火の制御が出来れば、どこへだって連れてってあげるよ」
私がそういうとリルは笑顔になって、再び体をドロドロにし始めた。
・・・それ必要なのかな?
「こうやるんだよ~?」
「わかんない!もっと言葉で教えてよ」
「うー、うん?」
その表情を見る限り、リルも詳しくわかっていないのかもしれない。もともと毛色の違う能力だ。言葉で表現するのは難しいのだろう。だけど、私はそれ以上に悔しかったのだ。
これでも、次期結晶族の長ともてはやされたくらいの力を持っているのだ。だから、なんか悔しい・・・。
「教えてよー!」
「教えてるよー!」
おしまい
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