第6話 女神プロダクディア

 バルバロッサは逃げ回る群衆を押しのけ、処刑台へと歩き出す。


「な、何をしているお前たち! 早くあの男を殺せ!」


 司祭は叫び、傍にいた衛兵達に指示を出す。


 衛兵達は少し躊躇した後、覚悟を決めてバルバロッサに向けて剣を構える。


 しかし、構えられた剣は衛兵達の手を離れて宙に浮き、剣先は衛兵達の方を向いていた。


 剣はそのまま直進し、衛兵達の身体を貫く。


 バルバロッサは頬に飛び散った返り血をハンカチで拭き取り、処刑台の階段を登る。


「俺を殺したきゃ軍隊まるごと持ってくるんだな」


 司祭を見つめ、バルバロッサは笑う。


「き、貴様は自分が何をしたのか分かっているのか!? 冒涜だぞ、これは神に対する冒涜だ!」


 司祭は震える指でバルバロッサを指す。


 バルバロッサはその様子を楽しむと、笑いながら司祭の下へ歩き出した。


「あんたらは何かとつけて冒涜だって喚くがね、それは誰に対してだ?」


 バルバロッサの問いかけに、司祭は困惑の顔を浮かべる。


「誰だと? 女神プロダクディアに決まっているだろう! 世界を創られた崇高な神だ!」


「女神プロダクディア?」


 バルバロッサは司祭の横へと着くと、左手で頭を掴む。


「そんな奴は最初っから居ねえよ」


 バルバロッサは前を向いまま左手を強く後ろへと回し、司祭を後方へと投げ飛ばす。


 司祭はまるで大砲から放たれた砲弾のように吹き飛び、女神プロダクディアの像に激突した。


 像は司祭が激突した箇所からヒビが入り、それはやがて全身へとまわる。


 顔までヒビが入ると像は音を立てて崩れ落ち、瓦礫の山を作った。


「こんな世界を創った神なら崇めない方が正解だろ。さて」


 バルバロッサは剣を構えたまま硬直していた処刑人に目を向ける。


「お前もああなりたい?」


 処刑人は黙って首を横へ振る。


「じゃあ帰りな。剣捨てて。あっそれとこいつの手錠の鍵もな」


 処刑人は震えながら剣と鍵をその場に捨て、何度か転びながら処刑台を去っていく。


「面白い奴ばっかだなこの国は」


 バルバロッサは笑いながらミカエラの手錠を外す。


 何日かぶりに自由の身へとなったミカエラは、固まった関節をほぐす。


「礼を言う。おかげで解放された」


「良いってことよ。それじゃあちょっくら休憩すっか」


 バルバロッサは大きく伸びをすると、そのまま処刑台に大の字で寝そべる。


「休憩? この状況で?」


 いつの間にか、広場の周辺は武装した軍隊によって埋め尽くされていた。


 これはミカエラを包囲していた時の数とは比べものにならない。


「雑魚が群がったって数には入らんよ。それより俺はある男を待ってんだ。そいつが来るまでゆっくりしてるから、お前はその間にあいつとなんかしときな」


 バルバロッサは下でのたうち回るアルクノンを指さす。


 ミカエラはアルクノンをしばらく見つめると、「いや」と言って首を横に振る。


「今思えば殺す価値もない。わざわざ連れてきてくれたところ悪いがな」


「あーそう。まあ別にいいけどな。あいつがどうなろうが俺は知ったこっちゃねえし」


 バルバロッサは軍隊を見つめて大きく欠伸をする。


「ところで、ある男とは何者だ? 協力者か?」


 ミカエラはバルバロッサに問いかける。


「俺の武器を持ってる奴だ。名前は忘れたけど、なんか図体がやたらとデカいらしい」


「随分と曖昧だな」


「俺の武器を持ってるってこと以外は興味ねえしな。おっ噂をすればってやつじゃねえか」


 バルバロッサは身体を起こし、遠くを見つめる。


 その先には、遠目でも分かるほどの巨大な肉体で、手には巨大な黒い斧を持った兵士の姿があった。


「あの男は、怪獣兵スターモン……!?」


 ミカエラは思わず声を上げる。


「なんだ知ってんのか。物知りだな」


「ここへ来る前にある程度の下調べはしておいた。鍛え抜かれた巨体はどんな刃も通さず、斧を一振するだけで辺りは更地へと変貌するとまで言われた男だと聞いている」


 ミカエラの説明に、バルバロッサは感心を示す。


「つまり俺の斧はそこそこ名のあるやつに使われてたってことだ」


 ニヤつくバルバロッサをよそに、スターモンは大勢の兵を連れて歩き出す。


「こっちに向かってきているのか?」


「みたいだな。ありがてえじゃねえか。わざわざ持ってきてくれるんだ」


 バルバロッサは処刑台から飛び降り、スターモンの下へ向かう。


「ミカエラ。お前はそこで休んでろ。まだ回復しきれてねえだろ」


「し、しかしだな」


 ミカエラは困惑した顔を浮かべる。


 それを見たバルバロッサはニヤリと口元を緩めた。


「そう心配すんな。これからボスになる男の戦いぶりを特等席で観戦しとけ」

 

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