第13話:タウンハウスにて
どれくらいぶりでしょうか。
アレンサナ侯爵家のタウンハウスに戻って来ました。
私もお義父様も居なかったので、かなりレグロとレヒニタさんが好き勝手していたようですね。
エントランスには趣味の悪い絵が飾られ、調度品も無駄にキラキラした物に変わってます。
しかし肝心な部分はアレンサナ侯爵が手配した人が管理していたので、屋敷が荒れたり、変に改築されたりはしていないようです。
「あーうー?」
エントランスで呆然としていたからでしょうか。
腕の中で後継者のオスカルが私の顔に手を伸ばしてきました。
「どうした? オスカル」
横に並んだクルスが、我が子の手に自分の指を触れされます。いつもの事なので、オスカルはクルスの指をキュッと握りました。
「可愛いだけでなく、とても聡明なお坊ちゃまですね」
迎えに出てくれた執事が、とろけそうな笑顔でオスカルを見つめます。
使用人達には、アレンサナ侯爵家の後継者を連れて帰る事は連絡済です。
新しく雇われた家政婦長も、今日から働く乳母も、皆、私達親子を歓迎してくれました。
「あ! カンナじゃん!」
階段の上から叫んだのは、ドレスを着たレヒニタさんでした。後ろには二人の使用人を引き連れていて、一人は子供を抱いています。
あぁ、あの子供は、あの時お腹にいた子ですね。
着ている服からいって男の子でしょうか?うちのオスカルより1才は年上のはずです。
「今更帰って来たってアンタの居場所なんて無いんだよ。アタシが後継者産んじゃってるし、この子もレグロの子を妊娠してるからね!」
レヒニタさんが子供を抱いていない方の使用人を、肩越しに親指で指し示しました。
確かに使用人のメイド服はエプロンの位置がおかしく、お腹が
本当に好き勝手やっていたのですね。
「貴族家の後継者は、いつから当主の許可無く届け出が出来るようになったのだ」
威厳のある声が響き、エントランスの空気がピリリと緊張しました。
「お帰りなさいませ、旦那様」
扉から入って来たアレンサナ侯爵へ、執事が頭を下げます。そしてそのままの姿勢を保ちます。
それは一緒に居た他の使用人も同じです。
「楽にして良いぞ」
アレンサナ侯爵が声を掛けると、皆が顔を上げました。
「失礼いたしました。セサル様もご一緒でしたか」
執事が侯爵と一緒にいるお義父様に気付き、軽く頭を下げました。
扉を入った途端に侯爵が声を発したので、使用人達は顔を確認する間もなく頭を下げたのでしょう。
「レグロは仕事か」
侯爵が周りを見回しながら質問しました。
「今日は王城での警備の日です」
執事が答えます。
レグロは騎士でも近衛でも無いのに、週に2回王城へ警備に行きます。
それは昔から、それこそ学校を卒業してからずっとだそうです。
「王と茶をするのが警備か」
お義父様が吐き捨てました。
「うあぁぁ……」
お義父様の様子に驚いたのか、オスカルがぐずり始めました。
それに気付いたお義父様が眉根を寄せ、オロオロとオスカルに声を掛けます。
「ごめん、ごめんよオスカル。じいじが悪かった。泣かないでくれ」
その様子がおかしくて、私もクルスも、侯爵も、そして使用人達まで、つい頬が緩んでしまいました。
「ちょっと! いきなり来て何様!?」
今まで階段の途中で止まっていたレヒニタさんが、ヒールが折れそうな勢いで足音粗く近付いて来ました。
この状況でこの態度が取れる事を尊敬してしまいます。
執事が「旦那様」と呼んでいるのだから、アレンサナ侯爵様に決まっているのに。
レヒニタさん達の方へ視線を向けた侯爵は、酷く冷たい目をしています。
お義父様に至っては「穢らわしい」と呟やきました。
「なっ!」
レヒニタさんは自分に言われたと思って、顔を真っ赤にして怒っています。
しかし、侯爵とお義父様の視線は、後ろの二人の使用人です。
いえ、正確には、使用人が抱く子供と、使用人の膨らんだ腹部でした。
執事が1番豪華な応接室へ、私達を案内しました。
当たり前のように付いて来たレヒニタさん達ですが、部屋の中には入れましたがソファに座る事は侯爵が許しませんでした。
「はぁ? アタシはレグロのむすめで、その子供も産んでんのよ!? アンタの孫で、アンタの曾孫なのよ」
レヒニタさんはお義父様と侯爵を順に指差しながら叫びました。
侯爵やお義父様は勿論、使用人達も冷たい目でレヒニタさんを見つめました。
レニヒタさんと一緒にいた二人は、完全に俯いてしまっています。
まだ幼い子供まで連れて来て、レヒニタさんは何がしたいのでしょうか。
「おい! 何で誰も迎えに出て来ないんだ!」
エントランスで叫んでいるのはレグロでしょうか。
「誰かいないのか! ふさけんなよ! ご主人様のお帰りだぞ!」
大声と共に、足音を立てながらレグロがこちらへ向かって来ています。
絨毯が敷いてあるのに足音を出すって、どれだけ変な歩き方しているのでしょうね。
レグロの声が聞こえたからか、レヒニタさんが嬉しそうな顔に変わりました。
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