第12話:タウンハウスにて side.レグロ




 可愛い可愛いレヒニタ。

 1つ下のレヒニタは、偶然立ち寄った街の本屋で働いていた。

 静かに店内の掃除をしている姿は、とても理知的だったのを覚えている。

 客に話し掛けられても、静かに微笑んで頭を下げるだけの控えめな態度に好感を持った。


 俺も態々わざわざ彼女を探して、本の場所を聞いたりした。

 しかし彼女は控えめに「お客様との会話は禁止されておりますので」と頭を下げて去ってしまう。

 そういう時は必ず、店主がこちらを睨んでいた。



 ある時、意を決して彼女をお茶に誘うと、こっそりとメモを渡された。

 店の名前と時間が書かれたメモだった。


 その店で、レヒニタは今の辛い職場の事を涙ながらに語った。

 住み込みで働いているのだが読み書きが出来ないので、無給タダ同然で働かされている事、学も伝手も無いから、他の仕事に就けない事を。


 あまりにもレヒニタが泣くので、人目を避ける為にタウンハウスへ連れて来てしまった。

 そして慰めているうちに、一線を越えていた。

 初めこそ痛がっていたレヒニタだったが、その日のうちに喘ぎ始め、最後には自分から腰を動かすほど感じていた。

 そのままレヒニタはうちの下女になった。




 俺が最初の結婚をしても、その関係は続いていた。

 政略結婚だった妻に愛情など感じていなかったので、俺は益々レヒニタに溺れた。

 妻が純潔では無かった事で発覚したのだが、驚いた事に妻も実家から連れて来た使用人と出来ていた。


 後継を望んでいたのでは無い、短い期間でも縁を繋げは良いだけの政略結婚だったので、めでたく円満離婚となった。


 その時に父にレヒニタを追い出されそうになったので、こっそりと俺の養子としてレヒニタを戸籍に入れた。

 父も当主である祖父も反対するに決まっていたので、偽造文書こっそりだ。

 未だに二人は養子の存在を知らないはずだ。

 そうでなければ、屋敷の中に恋人が居る俺に再婚しろなどと言わないだろう。


 祖父に言われた再婚相手は、いつもダボッとした服を着ている、レヒニタとは正反対の地味な女だった。

 真面目そうな女だったので、離婚して子供がいると言えば、同情を買う事が出来た。

 むすめに会わせろと言われた時は焦ったが、体が弱いと言えば大人しくなった。


 そして俺は、カリナと再婚した。


 初日こそ馬車から降りるのを拒否して抵抗していたが、その後は大人しくタウンハウスの女主人の仕事をしていた。

 家庭教師の部屋へ追いやっても、文句ひとつ言わない従順な女だ。

 まぁ、一度結婚に失敗しているのだから、そう簡単には離婚出来ないだろう。




 地味女にレヒニタの茶会を開くように命令したのに、生意気にも拒否したらしい。

 レヒニタに泣きつかれたので文句を言いに行くと、茶会は茶会でも、スワッピング目的の茶会を侯爵邸で開く計画だと言う。


 ふさけるな。そんな恥ずかしい事を出来るわけ無いだろう!


「今までもスワッピングに参加していたのか?」

 レヒニタに説明を求めたら、俺が仕事へ行っている昼間に、侍女と乱交に参加していたと白状した。

「でも、みんな慣れてるから中に出さないし、安全なパーティーよ」

 

 それは、お前も慣れているって事か?



 しばらくして、レヒニタの下腹が出始めた。

 嫌な予感がして医師を呼ぶと、腹に子供がいると言う。

 それは、本当に俺の子なのか?


 初めてレヒニタとカリナの3人で食事をした。

 今まで3人で食堂に居ても、カリナはレヒニタの教師役で、一緒に食事はしなかった。

 だから気付かなかった。

 レヒニタの食事の仕方の酷さに。


 俺はこんな女のどこが良かったんだ?


「カリナ、部屋を私の隣へ移動しろ」

 そうだ。カリナは俺の妻なのだから、これからはカリナを可愛がってやれば良い。

 貴族の妻だったのだから、せいぜい経験は前の夫だけで、不特定多数との性交などしていないはずだ。

 結婚前に妊娠していなかったし、間違い無く俺の子を産むだろう。


 そう思っていたのに!

 生意気にも断ってきて、更にレヒニタの肩まで持ちやがった。

 これは、誰が主人か体に教え込む必要が有るな。



 勇んで訪れた部屋に、カリナは居なかった。隠れられそうな所も全て探したが、部屋は無人だった。

 そして女主人の執務室へ行くと、鍵が掛かっていた。

 クソ! ここは中からだけの鍵が掛けられるんだ。


 俺の出勤時間になっても部屋から出て来なかったカリナ。

 仕事から帰ったら、有無を言わさず寝室へ連れて行ってやる。そしてベッドに鎖で繋ぎ、泣いて謝るまで部屋から出さないでおこう。

 いや、泣いて謝っても、1週間は出さない方が良いな。

 逃げられたら困るから、逆らう気力も無くなる位に従順に躾けなくてはな!



 しかし、仕事から帰ると、屋敷からカリナの姿は消えていた。

 そしてそのまま行方知れずとなってしまった。

 失踪したと届けて離婚して新しく若い妻でも迎えようとしたら、屋敷に捜索の為の人間が来るし家の恥だからやめろ、と当主である祖父に止められてしまった。



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