第6話:手段と目的




 翌朝、クルスの腕の中で幸せに目覚めました。

 しかしゆっくりは出来ません。

 クルスは急いで自室に戻り、私はいつも通り過ごさなければいけないのです。

 唯一の救いは、侍女は私達夫婦の関係を全て知っている協力者である事です。


「お辛いでしょうから、普通に体調不良という事にしてお休みになられてはいかがですか?」

 朝の身支度を整えながら、侍女のマーサが提案してくれます。

 ですが、どこかのケダモノと違って、クルスは私の事をきちんとおもんばかってくれています。

 動けないほどの無理、無体は働かないのですよ。


 昨夜もとても優しくて……私は何を思い出しているのでしょう。

 あぁ、鏡の中の顔が真っ赤です。

「うふふ。ご馳走様です」

 髪を結い上げていたマーサが手を止め、「今日はハーフアップにしましょう」と提案してきました。特に異論はないので了承しました。



 朝食を食べていると、珍しくレグロが起きてきました。

「おはようございます」

 一応の礼儀として挨拶をします。

「ああ」

 レグロは私を見もしないで返事をしました。

 夫としてというより、人間として尊敬できない人に成り下がりましたね。

 結婚前はかなり無理をしていたのが、大変よく判りました。


「レヒニタが茶会をしたいそうだ」

 突然、前触れもなくレグロが言葉を口にしました。

 まさかこれを言う為だけに、結婚後初めて、朝食の席に現れたのでしょうか?

 呆れてしまいます。


 勝手にすれば良いと思い無視していたら、レグロはテーブルを叩きました。完全な礼儀違反です。

「聞いているのか!」

 怒鳴りつけてきますが、レヒニタさんのお茶会と私は基本無関係ですのに、何を言っているのでしょうか?


「レヒニタさんは成人していらっしゃいますよね?」

 口元を拭いながら、レグロへ確認します。

「当たり前だ! レヒニタはお前の2歳上だ」

 あら。まさかの年上でしたわ。いえ、言動はともかく、見た目としては納得でしょうか。


「子供が未成年ならば別ですが、お茶会は主催者が企画して準備するのが当然です」

 だから貴族の令嬢は、未成年のうちに最低でも1回はお茶会を開くのです。

 成人後で母親と一緒に主催する時は、余程の大規模なものか、家の事業に関連するもの、婚約者探しをするものと決まっております。


 今、レヒニタさんが私と共同で開くとしたら、婚約者探しとなりますけど良いのでしょうか?


「ごちゃごちゃとうるさい! お前は言われた通りにすれば良いんだ!」

 レグロはまた、テーブルを叩きました。

「かしこまりました」

 私は返事をすると、席を立ちます。

 食事は終わりましたし、このままここに居たら、絶対に笑い出してしまいます。

 上がった口角を見られないように、私は俯き加減で食堂を後にしました。




のお茶会、ですか」

 執務室で仕事の準備をしていたクルスに、食堂での事を話しました。

 何となくぎこちないのは、しょうがないですよね。クルスの耳が赤いです。

 私も顔が熱いので、赤くなっているのでしょう。


 深呼吸して、頭を切り替えます。

 真面目に仕事をしましょうか。


「招待客を探さなくてはいけませんね」

 特に男性側の。

 レヒニタさんの年齢と礼儀作法の水準を考えると、高位貴族の方や低位でも嫡男の方は無理ですね。失礼にあたります。

「本気で探している方は、お呼びできません」

 クルスも助言してくれました。


 確かに、本当に嫁に出す気は無いのですし、考え方を変えた方が良いのかもしれません。

「隠れて会う、もしくは割り切って遊ぶ方……でしょうか」

 今までは男娼も呼んでいたようですし。



「旦那様は、茶会開催の意味を理解しているのですよね?」

 大規模か家の事業関連か、婚約者探しの3択という事ですよね。

 元は伯爵家後継者だったクルスは、母親と成人した娘の共同開催の意味を正しく理解していました。


 しかし、朝のレグロの様子だと……

「おそらく理解していませんわね。レヒニタさんにねだられたから、というだけでしょう」

 口元が片側だけ意地悪く上がってしまいました。


「お嬢様は理解しているのでしょうか」

 クルスが首を傾げます。

「それなのですが、お茶会主催の話はでお話ししたばかりなのです」

 お茶会開催の規則の事は、昨日、レヒニタさんの淑女教育の時にしっかりと説明しておきました。


 それで今日、お茶会開催の話が出たのですから、これはもう婚約者探し男漁りとしか思えません。

 後で勿論確認をしますが、つい最近チェンバーメイドの話を聞いたばかりですし、ほぼ間違い無いと思います。




───────────────

お茶会ルールは、独自設定ですのでご了承ください

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る