第7話:お茶会の計画……?




「はいコレ。お茶会に呼びたい人」

 淑女教育の授業を始める前、応接室へ入って来たレヒニタさんは、いきなり私に紙を渡してきました。

 そこには『お茶会に呼ぶ男』から始まり、十人以上の名前があり、貴族と平民が混在していました。

 中には既婚貴族の名前もあります。

 文字が書けるようになったの!? と驚きましたが、ある文字の特徴のあるハネ方でレヒニタさん付きのメイドが書いたのだと判りました。


「レヒニタさん。婚約者探しなのですから、既婚者は呼べませんよ」

 内容を確認してそう告げると、レヒニタさんは眉間に皺を寄せました。

「嘘言わないでちょうだい。私が元平民だと思って馬鹿にしてるんでしょう?! その人達は、アタシを第二夫人にしてくれるって言ってたんだからね!」

 嘘では無いのですが、正直、レヒニタさんが理解出来るように説明する自信がありません。


 それにしても、第二夫人?

「こちらの方は婿ですから、愛妾すら無理かと」

 とある伯爵家へ婿に入った方です。婿養子では無いので、爵位は奥様が持っているはずです。


「こちらの方は、嫡男ですが既に跡継ぎがおられる低位貴族ですから、第二夫人は迎えられないでしょう」

 まだ爵位を継いでいらっしゃらないし、自由気ままに生活出来るほど裕福でも無い男爵家です。


「こちらの方は、そもそも貴族では無いので、第二夫人は迎えられません」

 準男爵の名前がありました。

 と付くだけあり、正式には貴族では無い一代限りの爵位で、重婚は許されていません。



 私の説明に、段々とレヒニタさんの顔が恐ろしく変化していきました。

 こういう顔を何と言うのでしたかしら?

 鬼のような形相、でしたかしら。

 とても淑女が浮かべて良い表情ではありませんね。


「騙された!」

 握った拳で机を叩いて叫んだレヒニタさんですが、どっちもどっちだと思うのは私だけでしょうか?

 だってレヒニタさんは私の夫レグロの愛人なのですから、その方達の第二夫人にはなれませんよね?

 今も義娘ぎじょうなので、絶対に無理とは言いません……が。



「この方達とはどちらでお知り合いに?」

 基本屋敷から出ないレヒニタさんが出会う機会は無いはずですが。

「レグロとする前よ。3年前までは、街に住んでたからね」

 あぁ、前の奥様に存在が露見する前の事ですか。

 それでは浮気とは違うのですね。

 あら? でも当時もレグロとは付き合っていたのですから、やはり浮気? まあどうでも良いですが。


 それにしても、この方達全員がそういうお付き合いのあった方なのですよね。

 随分とそちら方面にだったようです。



「それから、この貴族では無い方々は呼べませんよ」

 一覧の中の数人を指で示します。

 名のある商家の方や、元貴族で後ろ盾に実家が付いている方なら別ですが、それ以外の平民を侯爵家のお茶会には呼べませんわ。

 そして『お茶会に呼ぶ女』と書いてある所には、退職したチェンバーメイド二人の名前があります。

 あの二人も平民ですし、辞めた人間をお茶会に呼ぶなど非常識な行動です。


「何よそれ。じゃあスワッピング出来ないじゃない」

 すわ? え? 今、何て言っていたのでしょう?

 知らない単語が出てきました。


 首を傾げていると、レヒニタさんが私を馬鹿にするように見てから説明してきます。

「男が各部屋を時間毎に回るのよ。宿屋を貸し切りでやるのが普通だけど、この屋敷も部屋は多いから丁度良いじゃない」

 説明されても、意味が解りませんでした。


 そもそもお茶会で複数の部屋を使ったりはしません。

 かなり大規模の夜会ならば、男性、女性、それぞれの休憩室や談話室、喫煙室などを用意しますが、それの事では無いですよね?

 私は素直に「そのようなお茶会は、私では開催出来ません」と説明しました。

 知らないものは、どうしようも無いのです。



「もういいわよ!」

 なぜか怒ったレヒニタさんは、部屋を出て行ってしまいました。

 今日は授業も中止のようです。


 それにしてもサラリとと言ってましたけれど、結婚はしてないですよね。

 自分でも「むすめ」と言っていたのに、大丈夫でしょうか?

 今度の授業では、そのあたりの法律も勉強した方が良いかもしれません。

 外でうっかりと口にしてしまっては困りますからね。




 翌日、またレグロが朝食の席に顔を出しました。

 しかし今回は席に着かずに私の横へ来ると、いきなり食べている途中の私のお皿をテーブルから払い落としたのです。

 勢いよく飛んだお皿が床に落ち、激しい音を響かせました。


「お前は何て意地悪な女なんだ! むすめのささやかな願いを拒否したそうだな!」

 お皿が割れる音に負けない大声で、レグロが私を怒鳴りつけます。

 給仕や料理人、執事にメイド、そしてクルスが何事かと飛んて来ました。


 書類整理をしていたらしいクルスは、昨日のあの『お茶会に呼ぶ男』の紙を持っていました。

 素晴らしい偶然ですね。

 私は無言で席を立ち、クルスの所へゆっくりと近付きました。

 そして、手を差し出します。

 クルスは私の意図を理解したのでしょう。『お茶会に呼ぶ男』の紙を渡してくれました。



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