第14話 リキルの旅立ち

 大人しいものだと、俺は思った。あれだけ、供物の旅人だと騒いでおきながら、大の大人達はただただ、己の引け目から逃げる様にして、控えめな笑みを互いに、そして俺達に見せてくるだけだった。

 特に何かを期待しているわけではない。ただ、これが、俺達の育った世界の一端だと思えてしまう事が少しばかり、残念でならなかった。

 まあ、両手を高々と掲げて派手に送り出されるのも癪に触る訳ではあるが。


 陽も穏やかで、雲一つ無く、気候も過ごしやすい日で有り難かった。

 この旅はきっと上手く行く。この村の誰よりも強く、俺はそう信じている。


 俺は無事に役目を終えるだろう。

 メイは無事に供物となり、世界の潤いとなって世界に循環するだろう。

 シーアはいずれこの旅の結末を乗り越え、俺達の希望の先となって、幸せに生きてくれるだろう。


 今は、そんなだろうばかりの信念も、いずれはきっと、もっと強いものになってくれる。

 

 シーアとメイは今、俺の後ろを歩く二人となった。

 谷と山を越え、つい先日に訪れた世界樹の麓に広がる白い世界を目指した。

 

 そして、これから俺達は、あの危険な世界樹の枝が降り注ぐ中、世界樹を登っていかなければならない。


 俺は二人を下から支え、時に盾と成り、時に毛布となり、時に友となって、二人の心を支えていく。それが守り人の使命だ。


 あれだけ修行しても、先日では逃げる事で精一杯だった。

 俺はその事実を克服する事は出来なかったが、怯む心が宿った訳でも無かった。

 

 心を一つにして進む、それ以外の最善策は無い。

 

 「メイ、シーア、行くぞ!」

 俺は二人を抱え、革で出来た鎧の下に二人を潜らせながら、世界樹の麓まで全速力で走った。

 あの世界樹の枝は、いつどんなタイミングで降り注ぐものなのかは分かってはいなかった。

 ただ、たまたま俺達があの日にそれと出会した際、大きな咆哮が鳴っていた。

 恐らく、あれが起きると、世界樹の枝が大量に降ってくる。

 あれが起きたら、それこそ運に身を任せ切るしかない。

 

 白い世界の入り口から麓までのちょうど中間に到達する頃、俺の息は少しずつ切れ始めていた。


 そして、一瞬の出来事だった。

俺の足に、長く太い枝が突き刺さってしまった。

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ユグドラシルの歌 燈と皆 @Akari-to-minna

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