第13話 メイの旅立ち


 

 朝の陽を、両手一杯を広げて受け止めて、朝の緑の匂いを思い切り何度も吸い込んだ。

 

 お父さんやお母さんとも、この家や村とも、今日でお別れ。

 でも、少しも寂しくは無い。

 

 あの二人と一緒だから。

 

 私達の旅路は、燦々とした陽の階段の様にさえ思える。それはとても喜ばしい階段で、でも時に危ない思いをするかもしれない。それでも三人なら、互いに手を取り合って、どこまででも行ける。どんなに高い所だとしとも、或いは、どこまでも果てなく下っていようとも、絶対に怖くない。

 

 その手を繋ぐ為に私の手はある、そう思える時がある、私には。

 

 いつか供物になって、この身がどうなろうとも、この心だけは二人と共に居る。

 体を砕いても、決して砕く事の出来ない私の心は、世界樹の為のものでは無いのだから。

 

 私は戦いに行く。二人と世界を守る為に、供物となって戦う。

 

 もう、怖くも寂しくも無い。楽しみでさえある。

 

 シーアは、いつか私の事を忘れて、誰かと幸せを紡いでくれる。

 

 リキルも多分、きっとそうなる。

 

 私は二人を愛しながら戦える。これがきっと、私の人生が簡単でありきたりなものだったのなら、そうはいかない。

 でも、必ず終わりが来る人生の中で、その終わりの時を知りながらであれば、且つそれがどうしようも無い程近いものであるからこそ、私はその後の未来を、私の居ない未来を受け止めた上で描く事が出来る。

 

 最早、そんな所に未練も何も無い。それは強がりなんかでは無い。むしろ、未来が無いからこそ得られる、全身全霊の希望。

 

 村の子供達が笑いながら見送ってくれる。

 大人達が、尊敬の眼差しで見送ってくれる。

 リキルが、いつまでも強く導いてくれる。

 シーアが、いつまでも柔らかな色で世界を彩ってくれる。

 

 私の一切を考えずに、この人々の事だけを考えて、未来に希望を託せる事、そしてその嬉しみが、私の唯一持つ特権だと、今ならそう思える。

 

 私の手は震えない。

 いつまでも、二人が居てくれるから。

 

 行こう、三人で。

 

 

 

 

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