第10話 回顧・儀式


 メイが供物に選ばれると、残る行事はメイが誰か一人を選ぶというものだけだった。

 

 村人達はというと、まるでメイが既に亡くなったかの様に悲しみ慰め合う親族達と、最早豊作を収穫し切った様に喜ぶ人達の模様が、翌朝になっても続いていた。

 

 メイは、つまらない儀式や行事に文句を垂れていた。

 

 シーアは、そんなメイを遠くの木の影から覗いて、見つめているだけだった。

 

 俺は、そこに自分も居たかも知れないと思えてぞっとしながら、シーアの姿を見ていた。

 

 俺は、より本格的に厳しくなった修行に血を吐いていた。父との稽古で、何十発も木の剣による打撃を食らい、そこらじゅうを痛めていた。

 それでも、あのシーアよりはマシな方だと、心の底から思えた。

 

 シーアも、メイが好きだった。


 貝殻を渡す時も、きっと好きな気持ちで一杯だっただろう。そしてその貝殻を、とても喜んでメイは受け取ってくれたのだから、嬉しさで一杯だった筈だ。

 そんな好きだったメイが、たった一日で供物という訳の分からない決まり事によって永遠の別れを告げる相手になるなど、残酷な運命にも程がある。

 

 「シーア、大丈夫か」

 俺はシーアの肩を後ろから叩いて、声を掛けた。

 

 「リキル、やあ」

 木の影に隠れている事を恥じたのか、シーアは苦笑で誤魔化そうとしていた。

 

 「メイが心配なのか」

 「うん、そんな所かな」

 俺が聞くと、シーアはそう言いながらメイの方へ少し振り返った。まるで、少しでも目を離すとどこかに飛んでいってしまう雀を見張っている様な感じで。

 

 「大丈夫、メイはメイだよ」

 俺はそう言っていた。しかし、本当はどういった意味だったのかは分からなかった。口を突いて出てしまっていたんだ。


 俺はそう言った後で納得していた。シーアへは、その言葉が一番相応しい気がするから。多分、シーアはメイが何者かに成ってしまう様で心配なのだろうから。

 

 「そうだよね、うん」

 シーアの顔は笑みが少し強くなっていた。

 

 メイはそれから三日間、儀式の間に閉じ込められ、儀式を終える。

 

 

 

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