第6話 静かな水面

 俺は、メイを見誤っていた。

 メイは、中に水着を着ていたのだ。何かを期待していた訳では無い。

 

 聞くと、着替えてたら水着が輝いて見えたの!と、良く分からない答えを述べていた。

 

 メイの、その先見性というものに、俺はメイの潜在能力の高さを感じていた。

 

 メイは時折、そう言う所がある。必要な物を都合良く持っていたりする事が。まあ、単純に色々と持ち歩いているだけで、たまたまかも知れないが。

 

 「それにしてもさ、世界樹は本当に謎が多いよな」

 シーアが海に浮かびながら、世界樹の白い幹を見て言った。

 

 「誰が世界樹作ったんだっけ?」

 メイも海に浮かびながら。

 

 何も動きの無い鏡の様な海面に、どこまでも果てしなく伸びて映る世界樹。世界樹のその先には、太陽が住むとされる空が広がっているだけだった。



 「夜鷺よるさぎだ。夜鷺が太陽を作り出したから、その太陽の力で世界樹が育ったんだ」

 俺はメイに答えた。

 

 「あー、そうだったね、でも何で夜鷺は太陽と世界樹を作ったんだろうね」


 メイの問いに俺は、「さあ、さっぱり分からないな」とだけ答えた。

 

 「きっと、寂しかったんじゃ無いかな」

 シーアがぼそっと独り言の様に呟いたそれが、微かに届いた。


 

 寂しかった、か。

 そんな理由だったのなら、夜鷺は悪魔でしか無いな、と俺は思った。

 


 世界樹の樹頭じゅとうに住むとされる夜鷺。人間数百人を嘴で丸呑み出来るほど巨大であるとされる鳥。その巨鳥を、けれども見たとされる者はいない、と聞かされていた。

 

 そして、夜鷺は名前の通り、夜を齎す鳥であると。

 

 いつも暗闇で過ごしていたのなら、寂しいと思う事もあったのかも知れないな、と思えた。勿論、世界樹は例外だが。

 

 シーアはそう言った、何か感覚めいた物が不思議と煌めく時がある。

 俺はその煌めきを感慨深く受け止めて、心を養う事も少なくは無かった。

 

 「さ、そろそろ帰ろうぜ、その夜鷺が夜を運んでくる頃だろうから」

 俺は砂浜に上がって声をかけ、子供の面倒を見る様に二人を見守っていた。

 

 明日からは、あの二人に仕える身と成る。

 

 いつもの様に、横に並んで歩けるのも、今日で最後となってしまった。

 

 昔話通りであれば、それら全てが、あの夜鷺のせいなのだろう。

 

 遠くから迫る夜を、俺は目で殺すかの様に睨んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る